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2章 本編
29話 ウェズの誕生日 ~カフェの新メニュー~
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男装ウツィアは悩んでいた。
「新しいメニュー?」
「そうなんです。お昼に跨って営業してるから軽食が欲しいって要望が入りまして」
女装ウェズは確かにと頷く。ウェズの来る時間は終わりの時間に合わせて昼を過ぎてから来るから基本昼食は済ませているけれど他の客は違う。お菓子はあるものの、それでは物足りない。領地外からも客は来るから、きちんとした昼食を望んでいると言う。
「成程」
「今のところ考えてるのはサンドウィッチですかね。二種類ぐらいで」
「ふむ」
(食べたい)
お茶もお菓子もこれだけ美味しいなら食事も美味しいのだろうと期待が高まる。食事が出るなら開店時間から行ってもいい。
「パン屋さんが近くにあるから手に入りやすいですし、野菜は自宅で作ってますし」
「野菜?」
「温室があるんですよ~! 最近はレタスできました」
「ふむ」
(薬草以外も作っていたのか)
温室でお茶を飲んでいる時に色々作っていることは聞いていたけれど、料理用の食材をがっつり作っているとはウェズも知らなかった。
「料理はできるので安心してくださいね!」
「そうか」
貴族の夫人としてはあるまじき姿だけれど、彼自身も軽く料理ができるので気にしない。むしろ妻の料理の味が気になるぐらいだった。
(ウツィアの手料理……)
「……食べたい」
「え?」
うっかり声に出てて女装ウェズは慌てた。
「いや、あ、の」
焦るウェズとは正反対に男装ウツィアは笑みをこぼした。
「楽しみにしててくれます?」
「それは、勿論」
「ふふ、張り切って作りますね!」
「……」
(可愛い)
* * *
「え? 二週間後が誕生日?」
「はい」
「……失念していたわ」
屋敷の自室でくつろいでいた時、侍女のマヤが夫の誕生日の話を振ってきた。ウツィアはその時初めて夫の誕生日を知った。うっかりしすぎて自分を嗜める。彼はウツィアの誕生日を覚えていて、きちんと祝ってくれたのに。
「今から用意しないと」
「ええ、どのようなものになさるのですか?」
「そうねえ……初めてだから当たり障りないものがいいわよね」
ハンカチ、ペンとインク、服なら精々シャツ程度だろうと思った。
けれどいまいち趣向が分からない。話すようになったし、結婚したばかりよりは俄然夫婦らしくなっている。けれど趣味趣向の深いところまでは見当がつかなかった。
「旦那様に訊いてみてはいかがです?」
「直接?」
「はい」
マヤの言うことはごもっとも。よく理解し合えてないならサプライズは控えて安全圏を渡るのがいいだろう。
「なにもいらないとか言われたらきついじゃない」
「……可能性はありますね」
「特にはない、とか言いそうでしょ」
容易に想像できた。挙句、プレゼントの類はいらないとまで言いそう。
「そうなったら先程仰っていた当たり障りないものを差し上げればよろしいのでは?」
「あ、なるほど」
そうすれば夫婦としての体裁もどうにかなる。夫とも一つのきっかけとして趣味趣向を知る始まりにすればいい。
「夫の元へ行ってくるわ」
「はい」
ウェズは執務室で書類仕事をしていた。ウツィアが入ると、当たり前のように二人きりにしてくれる。最近は結構こういうところは甘くなった。
「どうした? 子供の話なら」
「違います」
珍しいと思いウェズが顔を上げる。いくら仲が深まろうとも、仮面のことは聞いてこなくなった。かなり減っていたけれど今回は子供のことだとばかり思っていたのに。
「もうすぐ誕生日だと思いますが、何かほしいものはありますか?」
「誕生日?」
「ええ。旦那様……ウェズの誕生日です」
「君が何かをくれるのか?」
「はい」
予想通り沈黙が降りた。ここから特にないと言われるか、そういったものはいらないと言われるか、どちらかしらと静かにウェズの返事を待つ。けどあまりに沈黙が長くて、さすがにフォローいれておこうかとウツィアは先に口を開いた。
「あの、無理にとは言いませんので」
「ウツィアの……」
「!」
(きた!)
固唾を呑む。言葉を選んでいるウェズは、少し考えてから言葉を続けた。
「ウツィアの手料理が食べたい」
「料理?」
「そうだ」
また予想だにしないものがきて目を丸くする。そんなきょとんとした妻が可愛いなと内心ウェズは和んだ。
「例えば?」
「……軽いものでいい」
「軽い?」
「……サンドウィッチ、とか」
ウェズは今日の女装時男装時の会話を思い出す。あの話を聞いて、誰よりも先に彼女の手作りが食べたいと思ってしまった。
「軽食、ですか」
(いきなりフルコースとか言われても無理だから助かるけど)
お腹減ってるのかなと首を傾げる。ウェズはそれ以上なにも言わなかった。じっとウツィアの返事を待っている。
「分かりました」
「……いいのか」
(嬉しい)
なんだか夫の周りにお花が飛んでるような気がした。そのぐらい目の前の雰囲気が和んでウツィアはますます不思議に思う。
「では二週間後の、ウェズの誕生日にお時間頂けますか?」
「分かった」
(楽しみ)
「新しいメニュー?」
「そうなんです。お昼に跨って営業してるから軽食が欲しいって要望が入りまして」
女装ウェズは確かにと頷く。ウェズの来る時間は終わりの時間に合わせて昼を過ぎてから来るから基本昼食は済ませているけれど他の客は違う。お菓子はあるものの、それでは物足りない。領地外からも客は来るから、きちんとした昼食を望んでいると言う。
「成程」
「今のところ考えてるのはサンドウィッチですかね。二種類ぐらいで」
「ふむ」
(食べたい)
お茶もお菓子もこれだけ美味しいなら食事も美味しいのだろうと期待が高まる。食事が出るなら開店時間から行ってもいい。
「パン屋さんが近くにあるから手に入りやすいですし、野菜は自宅で作ってますし」
「野菜?」
「温室があるんですよ~! 最近はレタスできました」
「ふむ」
(薬草以外も作っていたのか)
温室でお茶を飲んでいる時に色々作っていることは聞いていたけれど、料理用の食材をがっつり作っているとはウェズも知らなかった。
「料理はできるので安心してくださいね!」
「そうか」
貴族の夫人としてはあるまじき姿だけれど、彼自身も軽く料理ができるので気にしない。むしろ妻の料理の味が気になるぐらいだった。
(ウツィアの手料理……)
「……食べたい」
「え?」
うっかり声に出てて女装ウェズは慌てた。
「いや、あ、の」
焦るウェズとは正反対に男装ウツィアは笑みをこぼした。
「楽しみにしててくれます?」
「それは、勿論」
「ふふ、張り切って作りますね!」
「……」
(可愛い)
* * *
「え? 二週間後が誕生日?」
「はい」
「……失念していたわ」
屋敷の自室でくつろいでいた時、侍女のマヤが夫の誕生日の話を振ってきた。ウツィアはその時初めて夫の誕生日を知った。うっかりしすぎて自分を嗜める。彼はウツィアの誕生日を覚えていて、きちんと祝ってくれたのに。
「今から用意しないと」
「ええ、どのようなものになさるのですか?」
「そうねえ……初めてだから当たり障りないものがいいわよね」
ハンカチ、ペンとインク、服なら精々シャツ程度だろうと思った。
けれどいまいち趣向が分からない。話すようになったし、結婚したばかりよりは俄然夫婦らしくなっている。けれど趣味趣向の深いところまでは見当がつかなかった。
「旦那様に訊いてみてはいかがです?」
「直接?」
「はい」
マヤの言うことはごもっとも。よく理解し合えてないならサプライズは控えて安全圏を渡るのがいいだろう。
「なにもいらないとか言われたらきついじゃない」
「……可能性はありますね」
「特にはない、とか言いそうでしょ」
容易に想像できた。挙句、プレゼントの類はいらないとまで言いそう。
「そうなったら先程仰っていた当たり障りないものを差し上げればよろしいのでは?」
「あ、なるほど」
そうすれば夫婦としての体裁もどうにかなる。夫とも一つのきっかけとして趣味趣向を知る始まりにすればいい。
「夫の元へ行ってくるわ」
「はい」
ウェズは執務室で書類仕事をしていた。ウツィアが入ると、当たり前のように二人きりにしてくれる。最近は結構こういうところは甘くなった。
「どうした? 子供の話なら」
「違います」
珍しいと思いウェズが顔を上げる。いくら仲が深まろうとも、仮面のことは聞いてこなくなった。かなり減っていたけれど今回は子供のことだとばかり思っていたのに。
「もうすぐ誕生日だと思いますが、何かほしいものはありますか?」
「誕生日?」
「ええ。旦那様……ウェズの誕生日です」
「君が何かをくれるのか?」
「はい」
予想通り沈黙が降りた。ここから特にないと言われるか、そういったものはいらないと言われるか、どちらかしらと静かにウェズの返事を待つ。けどあまりに沈黙が長くて、さすがにフォローいれておこうかとウツィアは先に口を開いた。
「あの、無理にとは言いませんので」
「ウツィアの……」
「!」
(きた!)
固唾を呑む。言葉を選んでいるウェズは、少し考えてから言葉を続けた。
「ウツィアの手料理が食べたい」
「料理?」
「そうだ」
また予想だにしないものがきて目を丸くする。そんなきょとんとした妻が可愛いなと内心ウェズは和んだ。
「例えば?」
「……軽いものでいい」
「軽い?」
「……サンドウィッチ、とか」
ウェズは今日の女装時男装時の会話を思い出す。あの話を聞いて、誰よりも先に彼女の手作りが食べたいと思ってしまった。
「軽食、ですか」
(いきなりフルコースとか言われても無理だから助かるけど)
お腹減ってるのかなと首を傾げる。ウェズはそれ以上なにも言わなかった。じっとウツィアの返事を待っている。
「分かりました」
「……いいのか」
(嬉しい)
なんだか夫の周りにお花が飛んでるような気がした。そのぐらい目の前の雰囲気が和んでウツィアはますます不思議に思う。
「では二週間後の、ウェズの誕生日にお時間頂けますか?」
「分かった」
(楽しみ)
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