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2章 本編

20話 夫の好みを女装夫が答える

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「……どうでしょう?」
「ああ、美味しい」
(今日も可愛い)

 結婚するからには相手と仲良くすごしたいし愛し愛される関係でいたい。そう考えるのは我儘だろうか。

(お茶はたまに一緒に飲んでくれるようになったわ)

 温室の管理はできているアピールの為、夫を呼び出すとその内週に何回かは温室でお茶をとってくれるようになった。

「旦那様、最近は薬草も育ててるんです。ほら」
「そうか」
(店のやつだな)

 私利私欲であろうと植物が順調に育てば成果だ。出来栄えの良さは毎日店に通うウェズにはよく分かっていた。

「頑張っているようだな」
「はい! お任せください!」
(女主人的な意味で)
「ああ」
(お任せ?)

 たまに自分の妻の言うことが分かりにくいなと思う。
 朝の挨拶と化したド直球の「子作りする気になりました?」ぐらい分かりやすい言葉でもそれはそれで困るのだけれど。

「旦那様、仮面とってみませんか?」

 この台詞も挨拶みたいなものだ。

「傷跡が酷いので遠慮する」
「そうですか」

 私はどんなに傷が深くても気にしないんですけど、と気遣うウツィアの優しさに心臓を掴まれる。
 そしてこの日はここで終わるかと思った会話に続きがあり、ウェズは驚くことになった。

「あ、でも」
「?」
「外見に関わらず、旦那様と仲良くなりたいんですよね」
「え?」
「そしたら、ここぞっていう時に言った方がいいですね?」

 そうしましょう! とあっさりと言い放つウツィアに再び心臓を掴まれた。ウェズがここまで動揺していることは顔に出さないようにしているからウツィアは当然知らない。
 これ以上動揺を悟られまいとウェズは立ち上がった。そろそろ出ないと開店時間になってしまう。

「旦那様、もう行かれるのですか?」
「ああ。そうしないと時間が」
「時間?」
「開て……いや、こちらの都合だ」

 むしろのほほんと構えているウツィアの方が疑問だ。開店準備に時間はかからないのだろうか。

「お引止めしてすみません。お気をつけて」
「ああ」

 領主としてやることがたくさんあるのだろうとウツィアは一人納得して笑顔で見送ることにした。騎士の鍛錬も見て、領地も周り、事業の進捗を確認し、書類仕事も多くをこなす。自分が仲を深めたいだけで長く拘束するのは気が引けた。

「私もお店行こうっと」


* * *


(これだけそっけないと愛人でもいるんじゃないのって疑うわね……全然私に興味なさそうだし……)

 店でいつも通り女装ウェズを目の前にしながら、思ったことを訊いてみることにした。

「ねえ、ウェズ」
「どうした?」
「ウェズはこの領地の騎士団に入ってるの?」
「……ああ」
「旦那様……領主様ってどんな女性が好み?」
「え?」

 二人きりの店内、男装しつつも地を出した状態で話すようになった。ウェズにはそれが少し特別なように感じていたけれど当然それを言葉にしたことはない。
 さておき、女性の好みを意中の相手から訊かれる日がくるとは思わなかった。この微妙な心地、側近のカツペルに話したら正体を言えばいいとでも言われそうだ。

「好みの女性」
「私、あんまり相手にされてない気がして……お茶とかたまに飲んでくれるようにはなったんですけど、もっと会話したいですし」
「……」
(話してもいいのか)

 なにを話したらいいか分からず、お茶を一緒に飲んでも会話は少ない。沈黙も苦ではなかったから構わなかったけれど、もっと話した方がいいことは彼にとって発見だった。

「どうですか? 騎士団じゃそんな話はしないですかね……」
「いや……」

 ウェズの言葉に顔を上げ期待に瞳を輝かせた。可愛いと思う反面、正体がバレないようにと静かに気合いを入れる。

「可愛らしい女性が好みのようで……」
「うんうん」

 嬉しそうに頷く姿が可愛い。

「年上より年下の方が……」
(実際そうだし)
「ふむふむ」
「線が細く華奢で軽くて……」
(前に抱き上げた時、本当に軽かった)
「華奢ねえ……」
(深窓の令嬢タイプ? かけ離れてるなあ)

 女装してても妻であるウツィアが好みとは言えなかった。

「女性と喋るのが苦手だから、最初は女性から話しかけてくれたり、話を聞き出してくれる方が助かる、かと」
「へえ!」
(なら今の感じは当たりね。温室のお茶は続けよっと)

 それにしても、外見だけだとあまり当て嵌まっていない気がする。腕を組んで首を傾げ唸るとウェズが不思議そうに覗いた。

「どうした?」
「旦那様……領主様ってぐいぐいくる女性は嫌がるタイプ?」
「今まで言い寄って来る女性がいなかった……と、聞いている」
「こう、結婚とか家庭とか、子供が欲しいとか、そういうことに憧れないのかしら?」
「……」
(少し、ぐらいなら……話してしまおうか)

 ウェズは真剣に悩むウツィアの姿を見て逡巡し、遠慮がちに話し始めた。
 自分自身について世間からあまり良い話を聞かないこと、顔の傷跡で対面する人間の態度が大きく違ったこと、そうした人とは違う扱いをされることが怖い。子供が生まれたとして、自分のせいで子供が同じような扱いを受けてしまうのかもしれないと思うと躊躇ってしまう。

「……と、領主が悩んでいると聞いたことがある」
(なにより契約結婚だから私が触れない方がいいはず)
「ふうん」
「?」

 女装ウェズの話す内容は充分にありえるだろうと踏んでいた。でもその話は妻である自分にもきちんとしてほしかったのにとウツィアは淋しさを感じた。

「旦那様が話してくれればいいのに」
「え?」
「同じことを話してくれたら、子供は二人で守ればいいって言えるし。私は結婚してからそんな公爵の妻だという偏見で見られたことだってないわ」

 苦しいことは一緒に越えたい、分かち合いたい。
 ウツィアが言葉にするとウェズは無性に泣きたくなった。ウツィアは王城にいた時から自分を引っ張り上げてくれてばかりだ。
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