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2章 本編

15話 女装夫、占ってもらう 後編

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「前も同じのが出たな」
「え?」

 自分の失言に気づく。

「いやなんでもない」

 ウツィアは様子を見ながら同業者に見てもらったのだろうかと思いつつ次のカードの説明に入った。

「でも御二人の関係は動いています。うまくいきますよ」

 折角だからと誕生日を聞き出し、星を読んで占ってみる。

(あれ? どこかで見たような星の並びね)
(しまった。誕生日偽ればよかった)

 この時ウツィアは王城での星読みのことを思い出せなかった。気づかないウツィアにウェズは安堵し肩を少し落とす。

「太陽星座が蠍座なんですね」
「星座?」
「あまり知れ渡ってないものなんですけど、生まれから十二の星座が配置されるんです」

 こうした文献にも載っているんですよと、かつて王城で見せてくれた古文書を開いて見せてくれる。
 女装しているとはいえ、どうしても王城で話していた頃を思い出してウェズは苦しくなった。

(何故苦しいのだろう)

 夢が叶って嬉しいのに、あの時と同じであればあるだけ苦しいとは矛盾しているとおかしさに混乱する。
 するとウツィアが細く華奢な両手を差し出した。

「折角なので、触れてみてもいいですか?」
「ああ」

 言われるがまま手を重ねようとしたギリギリでウェズは気づいた。

(はっ! 確か手に触れることで感情や思考・過去を読めると……みえると言っていた……変装してきているのがばれてしまう!)

 指先が僅かに触れたところでバッと手が引っ込まれる。

「おや」
「す、すまない……過去を見られるのはちょっと」
「え?」

 ウツィアはローブで隠れた裏側で目を丸くした。

(みえること、話してないのに知ってるの?)

 ウェズは自分が先走った発言をしたことに気づき、急いで言い訳をする。

「いや、占いとはそういうことができるのだろう? そう聞いたことがあって」
「あ、そうでしたか」

 改めてやってほしいと思えたら仰って下さいと言う優しい声音に断ってしまって申し訳ない気持ちになった。

「……すまない」
「謝らなくていいんです。ゆっくり貴方のこと、教えてくださいね」

 その言葉にぎゅんと心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。

「今日はこのぐらいにしましょうか。最後にラッキーアイテムをプレゼントです」
「?」
「こちらをどうぞ」

 模様も刺繍もないハンカチが出てきた。

「持っていても恋愛運があがります。もっといいのは意中の相手にプレゼントすることです。刺繍をして贈るのもいいですね」
「意中の相手にプレゼント」
(そんなことしたら、すぐにバレしてしまうな)

 苦笑しつつも緊張が解けた。その様子を見てウツィアも笑みがこぼれる。

「貴方の恋、応援してます!」
「ああ」
(目の前にいるんだが)

 占い部屋を出て、カウンターで新しくお茶を淹れてもらった。声も男性の声に戻した男装ウツィアが女装ウェズに微笑みかける。

「どうでした?」
「興味深かった……そういえば、君自身は恋愛について占ったのか?」
「え?」
「好きな人とかいるのか?」

 ウェズの話振りの真意に気づいたウツィアは嬉しくなった。よくくるご令嬢たちのように恋バナを振られたからだ。しかも推しからとなったら喜びもひとしおだった。

「ええと、恋愛についてはなかったかな。好きな人というか……実は僕、既婚なんです」
「そうか」
「その相手と仲を深めて長く一緒にいたいので、今後占うとしたらそこですかね」
「そうか」
(嬉しい)

 たとえ期間限定でも、互いに男装して女装して正体を隠していても、こうして話をして仲を深められることがウェズにとって本当に喜ばしいことだった。


* * *


 お店を閉めて中で着替えた後、外に用意された馬車に乗り込む。
 今日一瞬触れた指先から感じたウェズの気持ちを考えていた。

「隠してることがある、かあ」

 見えた僅かなものが隠し事あり。少し淋しさを感じる。この領地に来て良く話すようになって仲良くなれたと思っていたけど、まだまだのようだ。

「でも推しの恋は全力で応援する!」

 それが自分自身のことだと気づくのはまだ先の話だ。
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