36 / 46
36話 港町デート
しおりを挟む
上陸した南の国コロルベーマヌはとても活気のある港町から始まった。
「ソミア、美味しい?」
「はい、とても」
焼きたてあつあつの海鮮をその場でもらってその場で食べる。貝の中の身はぷりぷりに焼き上がって塩味がきいてて非常に美味だ。皇族が食べ歩きするのもというところだけど仕方ない。
「本当食べてる時も良い顔するよねえ」
「……そんなに見ないで下さい」
「可愛いんだから見ちゃうよ~」
南の国についてすぐの港町でデートとなった。決めたことをやり通す力は素晴らしいけど、その力の使い方は今ではないと思う。
だって今私と殿下は外遊とはかけ離れたことをしているもの。蛇足も甚だしい。
「ソミアは少し食べないとねえ」
「充分頂いてますが」
「だめだよ、もう少し肉つけて」
アチェンディーテ公爵が来てから下働きの食事環境はかなり改善された。殿下や第二皇子と協力し、今まで遅く進んでいた環境改善が一気に進んだ。けれど、そのせいもあってアチェンディーテ公爵は第一皇子に目をつけられ、ありもしない罪をきせられた。とっくにやり返してしまったあたり、公爵らしいしさすが神童と思える。
「はいこれ。このスープ、肉入ってるから」
「肉だけでどうにかなる問題ではありません」
「いいんだよ、気分気分」
「ええ……」
やたら私を食べさせる気だ。あまり食べるとこれからお会いする国王との会食で食べられなくなる。それは避けたい。あ、私がいない場のほうがいいということかしら。私だけ満腹で別室待機もありだ。その方が失敗することもなく外遊が成功するのでは?
「ソーミーアー」
「はい」
「余計なこと考えてたでしょ?」
「そんなことはありません」
外遊は余計なことではなく大事で優先事項一番のものだろうから常に考えていて問題ない。
なのに殿下は納得いかない様子だ。
「今は僕とデートしてるんだからね! デートに集中して!」
「はあ」
分かってないね、とぶーぶー言い始めた。スープの次に渡されたパンを齧りながら首を傾げる。食べることにだって集中してたつもりだけど殿下は不満のようだ。外遊の成功を考え、逢引も共にしている。ちょうどいいと思うのに。
「もー」
空になった私のスープカップを回収し、残りのパンを消化したら殿下の視線が少し下がった。じっと見つめた後、手が伸びてくる。人混みもあって逃げられなかった。
「欠片ついてる」
ふっと笑って指が私の口元に触れる。恥ずかしさに顔が熱くなった。
「も、申し訳」
「いいって~デートぽいからいいよ」
「ぽいって……」
「僕としてはもっとソミアとくっつきたい」
「くっ?!」
言葉で返せなかった。
動揺した私を見て満足そうに口元を綻ばせるとするりと私の手をとってくる。
「でん」
「名前で呼んで」
「っ」
「様とかもつけないでね」
確かに港町に国の長になる者がいると大事になりかねない。帝都で尾行をした時と同じだ。仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…………シレ」
「うん」
満足そうだ。そんなに顔を緩ませてたら誰も国の皇子だと思わないんじゃと思えるぐらい。
実際誰も私達を気にしていないようだ。そうでないと大変なことになるけど。
「離して下さい」
「えーやだなあ」
「人が多いとはいえ、この程度ならはぐれません」
「んー、敬語もやめてくれたら考えるかな?」
「……」
じっと非難のまなざしを向けてもどこ吹く風だ。
「前はさ~尾行だなんだでバタバタしてデートぽくなかったから今いい感じだよね」
「目的が違っ、!」
「おっと」
背中がすれ違う人とぶつかったよろけたところを殿下に支えられた。殿下に抱きつくみたいになってしまう。さすがにこれはだめだわ。
「す、すみません!」
「えー離れちゃう?」
「当然です!」
「こういうのがもっと欲しいんだけど」
抱きついたままデートするような恋人はいない。なんて要望だろう。
相変わらず嬉しそうに顔を綻ばせたまま、とった私の手を持ち上げ目の前で指先に唇を寄せた。
公衆の面前でなんてことをしてくれるの。
「じゃ、手を繋ぐまでかな~」
「それは!」
「ソミアが転ばないようにね」
「……」
「譲らないよ?」
「ぐっ……」
ほら、と手を引かれる。
恋人同士がするようなことをしにきたんじゃないのに。
指先から顔、そして全身熱くなってしまった。御祖母様の教え通りなんてどこにもない。
「ソミア、美味しい?」
「はい、とても」
焼きたてあつあつの海鮮をその場でもらってその場で食べる。貝の中の身はぷりぷりに焼き上がって塩味がきいてて非常に美味だ。皇族が食べ歩きするのもというところだけど仕方ない。
「本当食べてる時も良い顔するよねえ」
「……そんなに見ないで下さい」
「可愛いんだから見ちゃうよ~」
南の国についてすぐの港町でデートとなった。決めたことをやり通す力は素晴らしいけど、その力の使い方は今ではないと思う。
だって今私と殿下は外遊とはかけ離れたことをしているもの。蛇足も甚だしい。
「ソミアは少し食べないとねえ」
「充分頂いてますが」
「だめだよ、もう少し肉つけて」
アチェンディーテ公爵が来てから下働きの食事環境はかなり改善された。殿下や第二皇子と協力し、今まで遅く進んでいた環境改善が一気に進んだ。けれど、そのせいもあってアチェンディーテ公爵は第一皇子に目をつけられ、ありもしない罪をきせられた。とっくにやり返してしまったあたり、公爵らしいしさすが神童と思える。
「はいこれ。このスープ、肉入ってるから」
「肉だけでどうにかなる問題ではありません」
「いいんだよ、気分気分」
「ええ……」
やたら私を食べさせる気だ。あまり食べるとこれからお会いする国王との会食で食べられなくなる。それは避けたい。あ、私がいない場のほうがいいということかしら。私だけ満腹で別室待機もありだ。その方が失敗することもなく外遊が成功するのでは?
「ソーミーアー」
「はい」
「余計なこと考えてたでしょ?」
「そんなことはありません」
外遊は余計なことではなく大事で優先事項一番のものだろうから常に考えていて問題ない。
なのに殿下は納得いかない様子だ。
「今は僕とデートしてるんだからね! デートに集中して!」
「はあ」
分かってないね、とぶーぶー言い始めた。スープの次に渡されたパンを齧りながら首を傾げる。食べることにだって集中してたつもりだけど殿下は不満のようだ。外遊の成功を考え、逢引も共にしている。ちょうどいいと思うのに。
「もー」
空になった私のスープカップを回収し、残りのパンを消化したら殿下の視線が少し下がった。じっと見つめた後、手が伸びてくる。人混みもあって逃げられなかった。
「欠片ついてる」
ふっと笑って指が私の口元に触れる。恥ずかしさに顔が熱くなった。
「も、申し訳」
「いいって~デートぽいからいいよ」
「ぽいって……」
「僕としてはもっとソミアとくっつきたい」
「くっ?!」
言葉で返せなかった。
動揺した私を見て満足そうに口元を綻ばせるとするりと私の手をとってくる。
「でん」
「名前で呼んで」
「っ」
「様とかもつけないでね」
確かに港町に国の長になる者がいると大事になりかねない。帝都で尾行をした時と同じだ。仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…………シレ」
「うん」
満足そうだ。そんなに顔を緩ませてたら誰も国の皇子だと思わないんじゃと思えるぐらい。
実際誰も私達を気にしていないようだ。そうでないと大変なことになるけど。
「離して下さい」
「えーやだなあ」
「人が多いとはいえ、この程度ならはぐれません」
「んー、敬語もやめてくれたら考えるかな?」
「……」
じっと非難のまなざしを向けてもどこ吹く風だ。
「前はさ~尾行だなんだでバタバタしてデートぽくなかったから今いい感じだよね」
「目的が違っ、!」
「おっと」
背中がすれ違う人とぶつかったよろけたところを殿下に支えられた。殿下に抱きつくみたいになってしまう。さすがにこれはだめだわ。
「す、すみません!」
「えー離れちゃう?」
「当然です!」
「こういうのがもっと欲しいんだけど」
抱きついたままデートするような恋人はいない。なんて要望だろう。
相変わらず嬉しそうに顔を綻ばせたまま、とった私の手を持ち上げ目の前で指先に唇を寄せた。
公衆の面前でなんてことをしてくれるの。
「じゃ、手を繋ぐまでかな~」
「それは!」
「ソミアが転ばないようにね」
「……」
「譲らないよ?」
「ぐっ……」
ほら、と手を引かれる。
恋人同士がするようなことをしにきたんじゃないのに。
指先から顔、そして全身熱くなってしまった。御祖母様の教え通りなんてどこにもない。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる