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12話 私と殿下だけの秘密の庭

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「そうそう、やっとできたからソミア連れていこうと思ってたんだ」
「?」

 二人きりになると会話が増える。殿下の言う誠実な男性アピールなのかは分からないけど、存外当たり障りない会話ばかりだ。

「ソミアの誕生日でも僕の誕生日でもないんだけど、まあいいよね」
「何のことですか?」
「まあまあ。ほら来て」

 来たのは庭だった。最近大きな穴があって大規模整備中、危険だから入らないようにと庭師に言われていた場所だ。

「殿下、こちらは整備されてなく危険だと庭師のオールトスから聞いてきます」
「あ、それ終わったから」

 だから来たんだしと殿下は笑う。
 
「ソミアに一番に見せたかったからね」

 木々と花々に囲われた小さなフラワーガーデンだった。
 入り口は蔓や薔薇を使ってアーチ状に造り、奥に行くと小さく開ける。ツゲやツツジといった人が隠れるぐらいの中低木を使ってスペースを造っていた。けど日の光は入るようにできていて日中は暖かそう。囲ってる割には風通りも考えてあるし、沢山の花々が咲いていた。野外の温室みたいな感じだろうか。
 中央にはガーデンテーブルに椅子、奥の端にはソファもありくつろげるようになっている。

「どう? 僕が考えたフラワーガーデン」
「……すごいです」

 心からの言葉に殿下は満足そうに目を細めた。

「よかった~。これソミアにプレゼントね」
「……は?」

 何を言っているの? 一介の下働きに贈り物なんてありえない。褒美としてあったとしても、この規模はないだろう。そもそも褒美を得るほど特別な仕事を成し遂げていない。
 日々、書類の手伝いをして部屋の掃除をしてお茶を淹れて、分かる範囲で下働きの現状を伝える。どれもすべて殿下から命じられた仕事の範囲だ。特別な事はしていない。

「内緒にするの大変だったよ~。庭いじりの場所とかオールトスにかなり気を遣ってもらったし」

 最近やたら触れない所があったのはこの為だったの。オールトスも顔に出さない側だったなんて知らなかった。

「驚いた?」
「はい」
「よかった」

 殿下が驚かせたかったのであれば、それは成功だ。けど贈られるものだと考えると過分、分不相応、そういった言葉しか浮かばなかった。

「殿下、お気持ちは大変嬉しく思います。ですが私には過ぎた褒美です」
「えー、僕があげたいからやってるんだけど」
「身に余ります」

 眉を下げて「もー」と呟く。いつもの殿下だ。先程アチェンディーテ公爵が言っていた無理をしている感じはない。というか、私にその変化が分かるのだろうか。

「僕がソミアを好きだよって意味で送ってるのに」
「……」
「ソミアだけが特別って意味だよ」

 そしたら尚更断りたい。
 その言葉は飲み込んだ。好意は嬉しくても応えられない。私は殿下付きの侍女で、彼は皇子で私の主だ。
 侍女という立場をとったって子爵令嬢どまりだ。釣り合うはずがない。

「僕、ソミアと庭でお茶したり庭いじりするの好きなんだよね」

 それは私も同じだ。

「その時のソミアの顔も雰囲気もやわらかくて好きだし」

 そういうことははっきり言わなくていい。

「ずっと一緒だから当たり前になっちゃってたけど、そういう時間が僕には特別で、ソミアだから特別なんだよ」

 だから僕もソミアの特別になりたい。
 その言葉がどんなに喜ばしいものでも顔に出したらだめだ。同じことを想っていたとしても応えられない。

「……頂けません」

 そっかあと残念そうに眉を下げる。その後、なにかを閃いたように眦を上げた。

「ソミア、植物好きだよね。花とか草とか木とか」
「はい」
「ここの管理任せるよ」
「え?」
「ここの手入れ、お願いしていい?」

 庭師のオールトスではなく私に任せたいと言う。統括は当然オールトスになるのだろうけど、普段の手入れは私がいいらしい。贈り物として受け取るのはお断りだとしても、城内の仕事が減った分、ここで庭の手入れの仕事が増えるのは純粋に嬉しかった。ほぼ趣味だけどそこは目を瞑ってほしい。

「そういう、ことでしたら」

 お受けしますと頭を下げる。
 殿下は今回はこれでいっかと笑っていた。

「あ、僕も一緒に手入れするね」
「え?」

 気晴らしにしてはここの手入れは骨が折れるのでは? 私は侍女として仕事が増えても問題ないけど殿下は日々仕事が多いし、趣味や気晴らしにしては規模が大きくなりすぎている。

「あ、いつもの茶会はここに変更ね。この庭に合うワゴンもつくってもらったんだ~」

 テーブルの側にあったワゴンを見せた。手入れが一緒なのも定期的な茶会も揺るがないようだ。もう何年も続いている茶会に手入れ。当たり前のように殿下が一緒にいる。今更遠慮しようとしたところで殿下は気にせず継続するだろう。優しくて物腰柔らかい割に頑固なところがある。譲らないことは分かっていた。

「ソミア、お茶淹れてほしいな?」
「はい」

 私も殿下との時間が愛しい。
 言えないけれど、強く断らない時点で気づかれているなと思う。
 それでも曖昧なまま側にいる事を許されているこの逃げ道を使いつつ、本当は好きだと言えない私を許容してくれる殿下に甘えている。

「ソミアのお茶はいつも美味しいね」
「恐れ入ります」

 だからせめて彼が無理せずにいられるよう努めようと思った。アチェンディーテ公爵の言うように止められる関係であれるようにと。
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