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2話 失職

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「フィーラ公爵令嬢、エーヴァ・フィルダシャンスロール・フィーラ様」
「はい」
「第二王子勅命により政務の任から外れるようにとのことです」
「分かりました」

 翌日入城して残務処理をし終わった午前の遅くに使者が来た。
 遅すぎて何もないんじゃと思ったぐらい。まあ予想通りか。

「待ってください! 王陛下は容認されているのですか?」
「王陛下の承認は必要ない内容となっております」
「おかしいではありませんか!」
「エルサ、やめて」
「フィーラ公爵令嬢、納得できません!」
「大丈夫です。貴方方に仕事の内容は全て伝えてます。何かあっても助けがあるでしょう。協力して政務に当たって下さい」

 シャーリー様を失い、次は仕事を失った。
 すんなり帰してくれるだけ良心的ね。

「では皆さん、今までありがとうございました」

 部屋を出るとすぐに一人の侍女が待っていた。アリス付きの侍女だ。
 念の為、安全な回廊を通り、自身の馬車に無事乗ることができた。

「フィーラ公爵令嬢、こちらを」
「ありがとうございます」

 貰ったのは手紙と新聞。
 馬車にの中で早速読むことにした。

「シャーリー様、よかった……」

 手紙にはシャーリー様が無事ドゥエツ王国へ入り、王城で保護されているという情報、そして今後もアリスから手紙をくれること、経済面で既に綻びが出たということだった。アリスは今後、ソッケ王国の立て直しをしていくという。あのろくでなしが幅を利かせなければ大丈夫だけど、どうかしら。そもそもシャーリー様がいないと立ち行かなくなるのは目に見えている。

「新聞は……」

 ろくでなしが買い取ったとは聞いていたけど内容はひどいものだった。
 シャーリー様が悪女であると根も葉もない話と、婚約破棄と国外追放、いずれも正しいことをしたという誇大な内容だ。
 挙げ句シャーリー様が長女で新しい婚約者が妹の次女ということから、長女は災いであるという理解し難い記事まで出ている。シャーリー様が悪だからシャーリー様の背負う肩書きは全て悪だと。だからって長女と結婚するべからずなんて記事を信じきる人間がいるのかしら?

「お嬢様」
「ええ」

 タウンハウスに着いた。
 まずは家族に説明からだろう。

「旦那様がお呼びです。奥様もシャーラお嬢様もおいでです」
「……分かったわ」

 勢揃いね。
 私は気乗りしないまま扉を開けた。

「エーヴァ」
「お待たせしました」

 両親の対面に座る。
 案の定、話はシャーリー様と私の失職についてだった。

「どういうことだ!」
「どうもこうも、そのままです。第二王子が何も罪のないシャーリー様に罪を着せ婚約破棄と国外追放を命じ、今はドゥエツ王国が保護しました」
「お前がエネフィ公爵令嬢を制御できていれば、こんなことは起きていないだろう!」

 御父様の激昂ぶりに妹が「お父様、落ち着いて」と宥めようとするもおさまらない。
 制御ってなによ。シャーリー様の仕事ぶりを見てもいないくせに。悪女の噂である公費を使って贅沢三昧していたのはシャーリー様ではなく、あのろくでなしの方だ。

「お言葉ですが、他人を制御などどのような人物でもできかねるものかと思います。そしてシャーリー様は清廉潔白で非の打ち所がない方です。御父様、根も葉もない噂に惑わされないよう」
「稀代の悪女だろう! 学生時代に見限っていればよかったものを!」

 私がシャーリー様と交流があった時に喜んでいたくせに。自分の父とはいえ残念な人間だ。
 今度は御母様が口を開いた。

「エーヴァ、政務の仕事も退いたと聞いたけれど」
「はい。先程辞めてきました」
「何故? 第二王子に頭を下げてでも仕事を続けるべきではなかったかしら?」

 御母様も残念だった。
 あのろくでなしに頭を下げる? 頭おかしいんじゃない?

「我が公爵家は代々政務に携わってきたのよ」
「だからといって無実の罪を着せる人に頭を下げる必要はどこにもありません」
「そんな態度だからこうなるんだ! 何故もっと従順になれない!」

 従順? 自分で考えて行動して意見を言うことの何が悪いのよ。

「貴方は昔から跳ねっ返りが強かったわね……」

 育て方を間違えたわと御母様が嘆く。
 私は今の私に育ててくれて感謝しているけど意見が合わないわね。

「私は自分に恥ずかしいことは何一つしておりません」
「公爵家に泥を塗りおって!」

 世間体が大事な両親には分からない。シャーリー様を裏切るなんてできないし、ろくでなしの傀儡になって政務に就きたくもなかった。
 だから今の状況はベストと言っていい。

「お前には家業すら任せられない!」

 政務を重ねつつ家業もこなし、しばらくしたら政務を退き家業一つに集中し、兄弟や子供に政務職と家業を譲る。これがフィーラ公爵家のやり方だ。私もそうなるものだと言われ育てられた。
 両親のプランとしては、もう数年政務を続け、のち妹のシャーラに政務職を譲る。私は結婚して夫と共に家業を継ぎ、跡継ぎを産んで後継を育てていくといったところかしら。女性が家業を継げるのは割と珍しいけど、それ以外は大体ありがちな貴族の家の姿で辟易する。

「しばらく謹慎だ!」
「破門にされないのですか?」

 ここまでシャーリー様や私に理解がないなら公爵家から追い出されてもいいのにと思って敢えて煽った。私の言葉に逆上し、目を吊り上げた御父様が再び叫ぼうとしたところに扉が叩かれる。おしかったわね。

「……なんだ」
「恐れながら申し上げます。グング伯爵令息がいらしておりますが、いかがされますか?」
「約束もなしに?」
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