46 / 64
第3楽章 『calando』
3-18.夢見心地
しおりを挟む
夢を視ていたのかもしれない――と思った。
今日の全工程、全員の奏者が演奏を終えた後で、まさか自分の名前が呼ばれるだなんて。
陽向にはあれだけ堂々と言ったけれど、自分が一番驚いていた。
誰が、本格的な練習を数ヶ月しかしていない人間が、一次予選突破を決めるなんて予想出来たことだろう。自分でも、ミスタッチをした時には、もう駄目かとも思ったほどだ。
元ピアニストである杏奈さんの太鼓判を授かった上での登壇だったとは言え……いや、それこそが、緊張感に退かないだけの自信に繋がっていたのかもしれない。
まだまだ粗削りだ。自覚はある。どこに出ても恥ずかしくないと言えるような演奏は出来なかった。
それでも、客席からこちらを見つめる母が目に涙を溜めている様子を見ると、やっぱり出て良かった、次へと繋げられて良かったと、素直にそう思う。
隣では涼子さんが当然のように頷き、微笑んでいる。
私が杏奈さんとの練習に勤しんでいる時、二人の間で何か話し合いでも持たれたのかな。
表彰後、純白のドレスを身に纏いながら母の元へと駆け寄った私を、まず第一に抱き締めたのは、隣からひょっこり現れた杏奈さんだった。
よくやった。頑張った。最高だった。
そう言って、目の前で行き場のない両手を震わせている母には気付かないままで。
二次予選は数日後だけれど、その晩だけは、祝杯をあげて喜んだ。
涼子さん手製のご馳走に、珍しく高価なお酒とジュース。杏奈さんも呼んで、ささやかではあったけれども、それは私の背中を押すには十分過ぎるリフレッシュになった。
今日の全工程、全員の奏者が演奏を終えた後で、まさか自分の名前が呼ばれるだなんて。
陽向にはあれだけ堂々と言ったけれど、自分が一番驚いていた。
誰が、本格的な練習を数ヶ月しかしていない人間が、一次予選突破を決めるなんて予想出来たことだろう。自分でも、ミスタッチをした時には、もう駄目かとも思ったほどだ。
元ピアニストである杏奈さんの太鼓判を授かった上での登壇だったとは言え……いや、それこそが、緊張感に退かないだけの自信に繋がっていたのかもしれない。
まだまだ粗削りだ。自覚はある。どこに出ても恥ずかしくないと言えるような演奏は出来なかった。
それでも、客席からこちらを見つめる母が目に涙を溜めている様子を見ると、やっぱり出て良かった、次へと繋げられて良かったと、素直にそう思う。
隣では涼子さんが当然のように頷き、微笑んでいる。
私が杏奈さんとの練習に勤しんでいる時、二人の間で何か話し合いでも持たれたのかな。
表彰後、純白のドレスを身に纏いながら母の元へと駆け寄った私を、まず第一に抱き締めたのは、隣からひょっこり現れた杏奈さんだった。
よくやった。頑張った。最高だった。
そう言って、目の前で行き場のない両手を震わせている母には気付かないままで。
二次予選は数日後だけれど、その晩だけは、祝杯をあげて喜んだ。
涼子さん手製のご馳走に、珍しく高価なお酒とジュース。杏奈さんも呼んで、ささやかではあったけれども、それは私の背中を押すには十分過ぎるリフレッシュになった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる