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第1楽章 『con molt espressione』
1-3.知ってる?
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翌日。
「――――ってことがあったのよ。どう思う?」
昼休み。
コンビニ弁当をつつきながら、私は昨夜の出来事を佳乃に話して聞かせた。時に、私の拙い画力で以って、ノートに風景なんかを描きながら。
彼女は、私の過去や、持病のナルコレプシーについて理解のある人間だ。
「どうも何も、それって本当に明晰夢だったわけ?」
教科書をとんと揃えながら、佳乃が尋ねる。
机を挟んだ向かいにいる私は、未だ昼食中だというのに。相変わらず抜け目ないと言うか、気が早いと言うか。
「本当にって、どういうこと?」
「いやほら、陽和の話だとさ、それ特にアクションは起こしてないんじゃないの? 何かした?」
「え、だから、動こうとしたよ?」
「動いた、じゃないんでしょ? どうなのかな、それ」
「でも夢の中で『これ夢だ』って分かったし」
「私だってあるよ、それぐらい。夢なんじゃないかなーってやつ。他の子にも聞いてみな? 何人か頷くと思うよ」
「えー、そうかなぁ……」
それほど特別って訳でもないのだろうか。
と、五時間目の授業で使う物を一通り揃えた佳乃が席を立った。お手洗いついでに、ジュースを買いに行くとのことだ。
「何かいる?」
「あー。じゃあ珈琲」
「ブラックね。お金あとでいいから」
「ありがと。私も早く食べないと」
佳乃にお礼を言うと、私はまたお弁当と睨めっこ。箸を持ち直し、すっかり固まった白米に突き立てようとした、そんな時だった。
扉の前まで歩いていた佳乃が「あっ」と言って振り返った。
「何? どしたの?」
「いや、さっきの話なんだけどさ」
言いながら、佳乃は机上に置かれた私のスマホを指さした。
「トリニティカレッジ図書館、って調べてみな。多分、似たような風景が出ると思う」
「え……?」
答えるが早いか、佳乃はそのままひらりと手を振ると、教室から出ていってしまった。
トリニティカレッジ図書館……聞いたことはないと思う。どこかで聞いていたとしても、ピンと来ないのなら風景までは知り得ない証拠だ。
けれど――何だろう。不思議と、耳に新しくない響きだ。聞いても風景は浮かばないのに、言葉だけは何となく聞いたことがあるような気がする。モヤモヤと不思議な感覚だ。不快感、と言い換えたって良いかもしれない。
それを払拭したくて、私は携帯を手に取ると、そのワードをネット検索にかけた。
表示された画像の数々からそれを見つけた時、私は聊か、後悔をしてしまいそうになった。
「こ、これ……」
王城のような外観、その内部を埋め尽くす数多の本棚――といった画像を幾らか見送り、やがて見えてきた一枚の画像。
真紅のカーペットこそないものの、すっと真っ直ぐ抜ける通路の脇に本棚、高い天井といった様はまさしく、私が夢で見たあの光景と、似ているという言葉では足りないくらいに、そっくりだったのだ。
「――――ってことがあったのよ。どう思う?」
昼休み。
コンビニ弁当をつつきながら、私は昨夜の出来事を佳乃に話して聞かせた。時に、私の拙い画力で以って、ノートに風景なんかを描きながら。
彼女は、私の過去や、持病のナルコレプシーについて理解のある人間だ。
「どうも何も、それって本当に明晰夢だったわけ?」
教科書をとんと揃えながら、佳乃が尋ねる。
机を挟んだ向かいにいる私は、未だ昼食中だというのに。相変わらず抜け目ないと言うか、気が早いと言うか。
「本当にって、どういうこと?」
「いやほら、陽和の話だとさ、それ特にアクションは起こしてないんじゃないの? 何かした?」
「え、だから、動こうとしたよ?」
「動いた、じゃないんでしょ? どうなのかな、それ」
「でも夢の中で『これ夢だ』って分かったし」
「私だってあるよ、それぐらい。夢なんじゃないかなーってやつ。他の子にも聞いてみな? 何人か頷くと思うよ」
「えー、そうかなぁ……」
それほど特別って訳でもないのだろうか。
と、五時間目の授業で使う物を一通り揃えた佳乃が席を立った。お手洗いついでに、ジュースを買いに行くとのことだ。
「何かいる?」
「あー。じゃあ珈琲」
「ブラックね。お金あとでいいから」
「ありがと。私も早く食べないと」
佳乃にお礼を言うと、私はまたお弁当と睨めっこ。箸を持ち直し、すっかり固まった白米に突き立てようとした、そんな時だった。
扉の前まで歩いていた佳乃が「あっ」と言って振り返った。
「何? どしたの?」
「いや、さっきの話なんだけどさ」
言いながら、佳乃は机上に置かれた私のスマホを指さした。
「トリニティカレッジ図書館、って調べてみな。多分、似たような風景が出ると思う」
「え……?」
答えるが早いか、佳乃はそのままひらりと手を振ると、教室から出ていってしまった。
トリニティカレッジ図書館……聞いたことはないと思う。どこかで聞いていたとしても、ピンと来ないのなら風景までは知り得ない証拠だ。
けれど――何だろう。不思議と、耳に新しくない響きだ。聞いても風景は浮かばないのに、言葉だけは何となく聞いたことがあるような気がする。モヤモヤと不思議な感覚だ。不快感、と言い換えたって良いかもしれない。
それを払拭したくて、私は携帯を手に取ると、そのワードをネット検索にかけた。
表示された画像の数々からそれを見つけた時、私は聊か、後悔をしてしまいそうになった。
「こ、これ……」
王城のような外観、その内部を埋め尽くす数多の本棚――といった画像を幾らか見送り、やがて見えてきた一枚の画像。
真紅のカーペットこそないものの、すっと真っ直ぐ抜ける通路の脇に本棚、高い天井といった様はまさしく、私が夢で見たあの光景と、似ているという言葉では足りないくらいに、そっくりだったのだ。
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