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問題児クラス

1日目①

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名門櫻咲学園にあると噂される問題児クラス。そんなものあくまで噂で、現実には存在しないと、僕も今日までは思っていた。



「えぇと…?これだけですか?」

赴任1日目。HR。
あまりにも少ない生徒数に、自己紹介より先にそんな問いが零れてしまう。
手元の名簿には少ない方ではあるが20数名の名前があるのだが、この教室内にはどう見てもその半分も居ない…というか、5人しか居ない。しかも半分以上明らかに話を聞いていない。

「なんにも知らないんだ、今日は多い方ですよ、桃也先生」

クスクスと笑いながらびっくりする様な事を言うのは先日の学校案内の時に生徒会室から顔を出した中性的な見た目の彼。
空席の机に当たり前の様に自分の鞄を広げたりしている所から見ても、その言葉は嘘ではないのだろう。
まぁでも、それは比較的どうでもいい。

「…わかりました。今日から2年F組の担任をします、陶島桃也です。担当は社会科です。学年の途中からになりますがよろしくお願いします。」

僕はとりあえず、何事も我が身に降り掛かること無く生活出来れば良いのだから。
世の教員の方々には怒られるかも知れないが、僕は高尚な理由で教師を志した訳では無い。たまたま向いていただけで、子供が好きな訳でも何でも無いのだ。
それなりに仕事をして、給料貰って、今晩美味しい酒が飲めたらそれでいい。

「じゃあ…出欠を取りたいので皆さん簡単に自己紹介して頂いてもいいですか。」

誰がいて誰が居ないのかも分からないし、第一今時の子の名前は本気で読めない。名前を一々尋ねるのも面倒だし自己紹介でもしてもらってHRを潰そう…と思ったが、誰一人として僕の言葉に反応する人は居なかった。

「えっと…?誰からでもいいですよ、自己紹介して親睦を深めましょう!」
「親睦を深める?それで?何になるの?」

小馬鹿にした様な言い方をする、教室中ほどの席の小柄な生徒。中学生で病気を卒業出来なかったのかなと思う様な言い回しだ。

玲音れのん、先生を煽っちゃだめだよ。きっと桃也先生は前の・・よりは長く居てくれるからさ」
「どうかなぁ…そうだといいケド」
「仕方ないなぁじゃあ俺から。俺は2-Fの学級委員長の華蔵閣けずかく 旺華おうかです。」

小柄な生徒を諌めつつそう名乗る中性的な見た目の彼…華蔵閣。読めるはずが無い。どこかで聞いた名前だと思いながら出席簿にルビを振った。

「で、そこの小さいのが畠川はたがわ 玲音。先生の目の前でぼおっとしてるモサいのが科宮しなみや 繰生くりゅう。一番後ろで寝てる二人の、窓際の赤髪のが蒼深あおみ そら。隣の廊下側の金髪が飯地いいじ こう。」

名乗る気が全く無い他の生徒に変わりスラスラ名前を言っていく華蔵閣。
見た目といい発言といい厄介者の集まりらしいこのクラス。前任の先生も手に負えなかった、とかだろうか…と邪推しながら手早く名簿にルビを振る。…今居ない生徒のことは後で何故か飴をくれるおばちゃん先生に聞こう。
必要なプリント(半数以上が余る)を配っていると、チャイムが鳴った。

「では次の時間もHRなのでここで…」
「センセー、俺寝みぃから寝てくるわ」
「んじゃ、僕も。おやすみ~」

赤髪と金髪…じゃなくて、蒼深と飯地がヒラヒラと手を振って教室から出ていく。

「俺…そろそろ帰ります。さようなら。」

長い髪で明らかに不健康そうな科宮もそう言いカバンを持って立ち去る。

「えっ…いやまだ、一時間目なんですが…」

気付けばがらんとした教室には、僕、華蔵閣、畠川の三人のみ。

「あははっ、止めないんだぁ…」
「無能、って感じですね…本当」

否定したかったが事実だろう、先程の状況は。あまりにも自由な生徒達の行動に、僕の胃が早くもキリキリと痛み始めた。

「さぁてと、じゃあそろそろお楽しみタイムでいいよね?旺華」
「うーん、そうだね。いいんじゃないかな?」

何かを問う畠川に華蔵閣が同意すると、二人は教室の前後の扉の内鍵を閉めた。

「何をしているんですか?」

閉じ込める気か?いや、内鍵だから普通に開けられるのだが…。

「邪魔入られたら嫌だからねぇ」
「邪魔…?」

華蔵閣が、ツカツカと教卓に近付いて来る。そして、徐ろに僕の肩を押しながら足を払い、僕の体は押し倒された。

「痛ゥ……こら、何をするんです華蔵閣くん。そこを退きなさい。」
「迫力皆無ですね、先生」

ずっと変わらない笑顔のままの華蔵閣に、軽い恐怖を覚える。なんだコイツは。一番マトモかと思っていたら、一番ヤバい奴じゃないか。
とりあえず、肩を押さえたままの華蔵閣の手を退かそうとすると、

「俺の言うことは聞いておいた方がいいですよ?この学園の理事長の苗字、覚えていないんですか?」
「えっ、まさか…」
「え~気付いて無かったの?ホンモノのバカじゃん。旺華は理事長の息子だよー?」

どこかで聞いた事がある所の苗字では無かった。雇い主じゃないか。

「だから、わかりますよね?先生?」

僕はもしかしなくても、結構ヤバい状況なのでは無いだろうか。
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