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模擬試合

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「対戦形式は時間制限アリの一本勝負。 魔道具で付与した防御魔法を破壊、または降参した場合にのみ試合終了とする。 危険だと判断した場合も先生が止めるからそのつもりで。 じゃあまずは、カンナ=ブロッケン、シュテルク=アルクトゥルス、前へ」

 呼ばれた二人はクラスメイト達の前に立ち、武器を抜く。
 シュテルクは直剣、カンナはレイピアか。
 取り回しがよく攻撃力が高いものの速度はあまり出ない直剣に対し、防御するには不向きだが速度と正確面では軍配が上がるレイピア。
 どちらも長所と短所が如実に出る武器だ。
 となれば、後は二人の力量次第。
 より練度が高い方に間違いなく勝率が傾く。
 個人的にシュテルクに勝って欲しいが、今回は少々難しいかもしれない。
 多分シュテルクは、カンナに────

「両者、準備は良いな! では……始め!」

「……来ないのですか? ならば先手はこちらが戴きますわ! フッ!」

「ッ!」

 速い!
 一瞬でシュテルクの間合いに入った!

「くっ!」

 良い判断だ。
 あの距離ではレイピアの突きを防ぐのは悪手。
 避けた方がまだ次に繋げられる。
 まあそれも反撃が出来たら、の話だが。

「遅いですわよ、シュテルク=アルクトゥルス! はあああっ!」

「しまっ!」

「そこまで! 勝者、カンナ=ブロッケン!」

 やはり駄目だったか。
 避けた所まではよかったが、反撃しようとしたせいで行動に隙が生まれ突かれてしまった。
 結果、シュテルクを守っていた防御魔術は破壊。
 試合は完膚なきまでにカンナの勝ちとなった。

「次、リュート=ヴェルエスタ、前へ!」

「リュート、後は任せたよ」

「おう」

 言って、俺はシュテルクから防御魔法を付与する魔道具を受け取り、カンナの前に躍り出る。

「リュート=ヴェルエスタ。 首席を勝ち取ったその実力、はからせていただきますわ」

「お手柔らかに」

 さっきの戦いで、カンナの手はあらかた把握済した。
 どう来ようとも対処可能だろう。
 とはいえ、向こうも同じ事を考えているだろうから、同じ戦法では──

「両者、防御魔法は付与したな? よし、では……始め!」

「はあっ!」

 同じ戦法なのかよ!
 これは予想外!

「おっと。 まさかさっきと同じ技で来るとはな、ちょっと驚いた」

「その割には余裕に見えますが」

「へっ、まあその程度じゃな」

「そうですか、でしたら……!」

 切り替えが早い。
 突きではなく切り払いにして、距離を稼いだか。
 後ろに跳んで避けなかったら防御魔法が砕かれていたところだ。  
 案外やるな。
 更にカンナは俺が着地した瞬間を狙って、連続突きを放ってきた。

「これも全部避けますか! では、これはどうですか!? ふん!」

「ぶわっ! おまっ、卑怯だぞ! 砂かけは反則だろ!」

 と、喚くも、レフェリーからのイエローカードはない。
 これも戦いの手段の一つとして黙認されたようだ。
 そうこうしていると、視界が開けてきた。
 
「消えた……?」

 しかし、目の前にカンナの姿はない。
 
「一体どこに……」

 ……って言うのは嘘で、ホントは既に把握してるんだけどな。
 いわゆる、ブラフってやつだ。

「もら────っ!」

 ガキンッ。

「「「「────!?」」」」

 死角を突いて背後から攻撃を当てるつもりだったんだろうが、甘い甘い。
 砂糖菓子のように甘いと言わざるを得ないぞ、カンナくん!
 
「分銅!? あ、あり得ませんわ! たかが分銅で、こんな掌サイズの分銅で見もせずレイピアを防ぐだなんて、人間技じゃ……!」

「アホか、武器として置かれてた鎖分銅なんだぞ、こいつは。 なら防げない道理はないだろ」

「「「「そういう問題じゃなくね?」」」」
 
 え、そういう問題だろ?

「っ!」

 何か考えがあるのか、カンナは後ろに下がるとレイピアを構える。
 そして……。

「このような模擬試合で使うのは些か卑怯ではありますが、兄様の手前無様を晒すわけには参りません! 申し訳ございませんが、これで終わりとさせていただきます! 戦技オーバルアーツ……」

「待て、ブロッケン! それは……!」

「一刺瞬花!」

 カンナは神速と呼べる速度で放つ突き技を、俺の首に放ってきた。
 これを食らえば防御魔法が破壊されるどころか、喉元がチクッと痛むかもしれない。
 シュテルクに頼まれた以上負けたくないのもあるが、何よりもあんな技を食らってちょっと痛いで済むのは流石に常軌を逸している。
 わざとらしくなく、出来る限り偶然に見えるよう、避けなくては。

「────なっ!」

「う、嘘だろ……リュートの野郎、あんな技を紙一重で……!」

「避けやがった!?」

 あれ、今のも駄目?
 だいぶギリギリで避けた感出したんだけど。

「へぇ……なかなかやるじゃねえか、あのガキ。 戦うのが楽しみだ。 くっくっく」

 やだ、ルベールお兄様がめっちゃ邪悪な笑みを浮かべていらっしゃる。
 悪魔かな。
 ……とりあえず、時間制限まで一分切ったから、そろそろ終わらすとするか。

「カンナ! お前が先に戦技を使ったんだ! 文句言うなよ!? 戦技オーバルアーツ、蛇頭轍尾!」

「こ、この技は……! くっ!」

 カンナは咄嗟に逃げるがとっくに遅い。
 この技を出した以上、カンナは絶対に逃げられない。  
 必中必滅の必殺技、蛇頭轍尾の前にはな。

 ────バキッ。
 
 俺の手から離れた自動追尾の鎖をなんとか追い払おうとレイピアで振り払うが、元より狙いはそのレイピア。
 飛んで火に入る夏の虫の如く、鎖はレイピアに巻き付き、一瞬で破壊した。

「そんな! レイピアが……!」 

「余所見してて良いのか?」

「え……?」 

 勝負の最中に余所見は御法度。
 可哀想だけど今後の為を思い、ここは心を鬼にして一撃をお見舞いしてやるとしよう。

「女の子を蹴るのは忍びないけど、模擬試合だから仕方ないよねキーック!」

「カハッ! な、なんですの、その技名は……そんなふざけた蹴りに負けるだなんて、ブロッケン家の恥にも程が…………ぐふっ」

 もろに蹴りを食らったカンナは、白目を剥いてその場でうつ伏せとなった。
 ピクピク痙攣してる。
 浜に打ち上げられた魚かな。
 合掌。

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