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出逢い。それから
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「と、いうわけで。今日からお前がリオンの教育係だ。字の読み書きを教えてやってくれ」
「は?」
居間に朝食を運んできたモンタギューに対する開口一番の台詞だった。
「察するに、あれですか。声が出ないリオン様のために、伝える手段を教えろと」
細かい説明もなしに、モンタギューはアルオの言わんとすることを理解した。流石だと、アルオは満足そう腕を組んだ。
「そういうことだ。文字さえ書ければ、何をされたか、何を思っているかも聴けるからな」
「なるほど。良いお考えです──が」
テキパキと銀のワゴンから机に皿を移し、コップに紅茶を注ぐ。一通り朝食の用意を終えたモンタギューは、ゆらりとアルオに視線を向けた。
「アルオ様。私のこと、暇だと思っていますね」
表情に変化はないが、怒っている。アルオはぎくりとした。
「国を動かすことも、まとめることも、本当に大変なのですね。少なからず政に関わってみて、身にしみましたよ。アルオ様は出席なされたことがない会議にも私は毎日出ております。得られた情報。民や臣下からの伝言。それら全てアルオ様のお耳に入れる前に、まず私が精査します。それを書類に起こすこともままあります。他にも」
「わ、分かった。わたしが悪かった。それにしても、リオンは遅いな。まだ寝ているのか」
そそくさと逃げようとするアルオに「侍従が部屋に入るのを見ましたから、直に来るでしょう」と言いながらモンタギューは椅子に座った。ぱしぱしと机を叩く。
「それまでお聞かせしましょう。私の一日の予定をね。ほら、座って下さい」
「いや、もういいから」
やれやれ。
モンタギューはこれ見よがしにため息をついた。
「というか、アルオ様が教えて差し上げればよろしいのでは? 仕事は午前中だけなのですから」
ぐっと詰まるアルオに、モンタギューはぴんときた。面倒事を押し付けようとした。それも一つかもしれない。けれど一番の理由は。
「ははあ。教える自信がないのですか?」
「あ、当たり前だろう。わたしに何かを教える資格があると思うのか!」
──ああ。この人はきっと。誰が何を言っても、赦しても、自身を死ぬまで責め続けるのだろうな。
モンタギューは小さく「馬鹿な人だな」と吐露した。アルオは耳をぴくんと動かした。
「今、わたしの悪口を言っただろう」
「言ってませんよ。それよりですね。資格がどうとかより、リオン様が誰に習いたいかの方が大切なのでは?」
アルオは顎に手を当て、考える素振りをした。モンタギューに対しては、わりと素直なところがあったりする。
「……まあ、そうか。そもそも文字を習いたいかどうかも確認してないしな」
コンコン。
折よく扉から小さな叩音が聴こえ「入れ」との返答に、リオンが扉の隙間からひょこっと顔を覗かせた。入室前には必ず扉を軽く叩け。アルオの教えを、リオンは忠実に守っている。
トコトコと歩き、定位置となったアルオの隣の席に座るリオン。アルオは早速、文字を読み書き出来るようになりたいかと質問してみた。リオンはさして迷うことなく、首を縦にふった。
「では、誰に教えてもらいたいですか?」
すかさずモンタギューが質問を重ねる。「誰でもよいのですよ。例えば私や、アルオ様でもね」と付け加えるのも忘れずに。
リオンがぴんと姿勢を正す。ほんと? と目で問い掛けられたような気がして、モンタギューは頷いた。リオンは隣に目を向けると、アルオの服を掴んだ。
それが答えだった。
「は?」
居間に朝食を運んできたモンタギューに対する開口一番の台詞だった。
「察するに、あれですか。声が出ないリオン様のために、伝える手段を教えろと」
細かい説明もなしに、モンタギューはアルオの言わんとすることを理解した。流石だと、アルオは満足そう腕を組んだ。
「そういうことだ。文字さえ書ければ、何をされたか、何を思っているかも聴けるからな」
「なるほど。良いお考えです──が」
テキパキと銀のワゴンから机に皿を移し、コップに紅茶を注ぐ。一通り朝食の用意を終えたモンタギューは、ゆらりとアルオに視線を向けた。
「アルオ様。私のこと、暇だと思っていますね」
表情に変化はないが、怒っている。アルオはぎくりとした。
「国を動かすことも、まとめることも、本当に大変なのですね。少なからず政に関わってみて、身にしみましたよ。アルオ様は出席なされたことがない会議にも私は毎日出ております。得られた情報。民や臣下からの伝言。それら全てアルオ様のお耳に入れる前に、まず私が精査します。それを書類に起こすこともままあります。他にも」
「わ、分かった。わたしが悪かった。それにしても、リオンは遅いな。まだ寝ているのか」
そそくさと逃げようとするアルオに「侍従が部屋に入るのを見ましたから、直に来るでしょう」と言いながらモンタギューは椅子に座った。ぱしぱしと机を叩く。
「それまでお聞かせしましょう。私の一日の予定をね。ほら、座って下さい」
「いや、もういいから」
やれやれ。
モンタギューはこれ見よがしにため息をついた。
「というか、アルオ様が教えて差し上げればよろしいのでは? 仕事は午前中だけなのですから」
ぐっと詰まるアルオに、モンタギューはぴんときた。面倒事を押し付けようとした。それも一つかもしれない。けれど一番の理由は。
「ははあ。教える自信がないのですか?」
「あ、当たり前だろう。わたしに何かを教える資格があると思うのか!」
──ああ。この人はきっと。誰が何を言っても、赦しても、自身を死ぬまで責め続けるのだろうな。
モンタギューは小さく「馬鹿な人だな」と吐露した。アルオは耳をぴくんと動かした。
「今、わたしの悪口を言っただろう」
「言ってませんよ。それよりですね。資格がどうとかより、リオン様が誰に習いたいかの方が大切なのでは?」
アルオは顎に手を当て、考える素振りをした。モンタギューに対しては、わりと素直なところがあったりする。
「……まあ、そうか。そもそも文字を習いたいかどうかも確認してないしな」
コンコン。
折よく扉から小さな叩音が聴こえ「入れ」との返答に、リオンが扉の隙間からひょこっと顔を覗かせた。入室前には必ず扉を軽く叩け。アルオの教えを、リオンは忠実に守っている。
トコトコと歩き、定位置となったアルオの隣の席に座るリオン。アルオは早速、文字を読み書き出来るようになりたいかと質問してみた。リオンはさして迷うことなく、首を縦にふった。
「では、誰に教えてもらいたいですか?」
すかさずモンタギューが質問を重ねる。「誰でもよいのですよ。例えば私や、アルオ様でもね」と付け加えるのも忘れずに。
リオンがぴんと姿勢を正す。ほんと? と目で問い掛けられたような気がして、モンタギューは頷いた。リオンは隣に目を向けると、アルオの服を掴んだ。
それが答えだった。
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