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こぼれ話~小瀬野の視点~

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「……ゆーと」

 小瀬野の耳に微かな声が届いたが、小瀬野は聴こえないふりをした。だが。

「ゆーとは? どこ?」

 何度も何度も尋ねられ、キレた。

「──だからいねーって言ってんだろ!!」

 振り向き、怒鳴った。こちらに顔を向けていた璃空と視線が交差する。

 そっか。
 璃空はそっと、瞼を閉じた。

「……やっぱり、女の人のところに行っちゃったんだ」

 それはあまりに切なく、儚い声音で。ふいをつかれたように、小瀬野は目を見張った。静まり返った室内に、小さな寝息が響く。目元に涙を浮かべ、眠る璃空を見下ろす。

「……可哀想にな、お前。どんだけ想ったところで、どーせフラれんのにな」

 同性愛なんて理解出来ないし、今だって気持ち悪いと思う。けれどここまで一途な想いを見せられては、流石に同情ぐらいはしてやりたくなる。まして相手は、憎き佐伯優斗なのだ。

「あいつ、すげー性格悪いんだぜ。オレの妹なんか、いつまでも手ぇ出してくんねーからって、勇気出して誘ったらその場でごめんだぜ? ひでーよなぁ」

 璃空が壁方向に寝返りをうった。「んだよ。そんなこと聴きたくねーってか」と、小瀬野が苦笑する。クーラーの風で冷えたのか。璃空が身体をぶるりと震わせ、丸まる。その背中は、女か男かわからないぐらい華奢で、白かった。

「……腰ほっそ。ちゃんと食ってんのかよ」

 ぎしっ。
 小瀬野がベッドに右足の膝をのせる。壁際にある布団を取り──吸い寄せられるように、璃空のうなじに口をつけた。何度か繰り返していたが、スマホのバイブ音で我に返ったように急いで離れた。

「──あれ? 何で、オレ」

 また一つ、バイブ音が聴こえた。動揺したまま、スマホを手に取る。彼女からのラインだった。

『大丈夫?』 
『前原くんのお友達、放り出したりしてないでしょうね』

「……してないっつーの。どんだけ信用ねーんだ」

 わざと口に出し、無理やり動揺を静めようとする。

(……今日はあいつとヤルつもりだったから、たまってたんだな。きっと)

 小瀬野はベッドの方へと視線を向け、舌打ちしながら璃空に布団を掛けた。部屋の電気を消し、どかっとソファーに横になる。

 くそっ。
 唇を強く擦り、目を閉じる。

 涙を浮かべながら眠る璃空の哀しげな顔が、どうしてか瞼に焼き付いて離れなかった。
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みんなの感想(16件)

たろじろさぶ

初めまして。
おもしろくて、一気読みしてしまいました。
全編通して、とっても読みやすかったです。

優斗が留学して浮気…のくだりでは、瑠空が可哀想で胸が痛かったですが、誤解で本当によかったです。

瑠空は健気で可愛いのに、優斗に関しては思い込みが強いというか、思考がたまにぶっ飛んでいるというか、それがまた優斗がほっておけないんですね🥰

こぼれ話も、短いのにずっしり読みごたえがありました。

素敵な作品に出会えて、読者冥利に尽きます。
ありがとうございました。

西友
2023.12.23 西友

返信が遅くなり、申し訳ありません。

思い入れが強い作品であり、まだ読んでくれる方がいてくれて、感激です。

久々の感想をもらいましたが、やはり嬉しいものですね。

ありがとうございました!

解除
マサミ
2020.11.04 マサミ
ネタバレ含む
西友
2020.11.04 西友

感想ありがとうございます。
ご心配おかけしました。。

解除
るか
2020.11.04 るか

ち、違ったぁぁぁぁー
はやとちりごめんなさい。゚(゚´Д`゚)゚。

西友
2020.11.04 西友

感想ありがとうございます。
いえいえ、とんでもないです!
それだけこの物語を気に入ってもらえているんだなとむしろ嬉しかったです!

解除

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