121 / 121
こぼれ話~小瀬野の視点~
3
しおりを挟む
「……ゆーと」
小瀬野の耳に微かな声が届いたが、小瀬野は聴こえないふりをした。だが。
「ゆーとは? どこ?」
何度も何度も尋ねられ、キレた。
「──だからいねーって言ってんだろ!!」
振り向き、怒鳴った。こちらに顔を向けていた璃空と視線が交差する。
そっか。
璃空はそっと、瞼を閉じた。
「……やっぱり、女の人のところに行っちゃったんだ」
それはあまりに切なく、儚い声音で。ふいをつかれたように、小瀬野は目を見張った。静まり返った室内に、小さな寝息が響く。目元に涙を浮かべ、眠る璃空を見下ろす。
「……可哀想にな、お前。どんだけ想ったところで、どーせフラれんのにな」
同性愛なんて理解出来ないし、今だって気持ち悪いと思う。けれどここまで一途な想いを見せられては、流石に同情ぐらいはしてやりたくなる。まして相手は、憎き佐伯優斗なのだ。
「あいつ、すげー性格悪いんだぜ。オレの妹なんか、いつまでも手ぇ出してくんねーからって、勇気出して誘ったらその場でごめんだぜ? ひでーよなぁ」
璃空が壁方向に寝返りをうった。「んだよ。そんなこと聴きたくねーってか」と、小瀬野が苦笑する。クーラーの風で冷えたのか。璃空が身体をぶるりと震わせ、丸まる。その背中は、女か男かわからないぐらい華奢で、白かった。
「……腰ほっそ。ちゃんと食ってんのかよ」
ぎしっ。
小瀬野がベッドに右足の膝をのせる。壁際にある布団を取り──吸い寄せられるように、璃空のうなじに口をつけた。何度か繰り返していたが、スマホのバイブ音で我に返ったように急いで離れた。
「──あれ? 何で、オレ」
また一つ、バイブ音が聴こえた。動揺したまま、スマホを手に取る。彼女からのラインだった。
『大丈夫?』
『前原くんのお友達、放り出したりしてないでしょうね』
「……してないっつーの。どんだけ信用ねーんだ」
わざと口に出し、無理やり動揺を静めようとする。
(……今日はあいつとヤルつもりだったから、たまってたんだな。きっと)
小瀬野はベッドの方へと視線を向け、舌打ちしながら璃空に布団を掛けた。部屋の電気を消し、どかっとソファーに横になる。
くそっ。
唇を強く擦り、目を閉じる。
涙を浮かべながら眠る璃空の哀しげな顔が、どうしてか瞼に焼き付いて離れなかった。
小瀬野の耳に微かな声が届いたが、小瀬野は聴こえないふりをした。だが。
「ゆーとは? どこ?」
何度も何度も尋ねられ、キレた。
「──だからいねーって言ってんだろ!!」
振り向き、怒鳴った。こちらに顔を向けていた璃空と視線が交差する。
そっか。
璃空はそっと、瞼を閉じた。
「……やっぱり、女の人のところに行っちゃったんだ」
それはあまりに切なく、儚い声音で。ふいをつかれたように、小瀬野は目を見張った。静まり返った室内に、小さな寝息が響く。目元に涙を浮かべ、眠る璃空を見下ろす。
「……可哀想にな、お前。どんだけ想ったところで、どーせフラれんのにな」
同性愛なんて理解出来ないし、今だって気持ち悪いと思う。けれどここまで一途な想いを見せられては、流石に同情ぐらいはしてやりたくなる。まして相手は、憎き佐伯優斗なのだ。
「あいつ、すげー性格悪いんだぜ。オレの妹なんか、いつまでも手ぇ出してくんねーからって、勇気出して誘ったらその場でごめんだぜ? ひでーよなぁ」
璃空が壁方向に寝返りをうった。「んだよ。そんなこと聴きたくねーってか」と、小瀬野が苦笑する。クーラーの風で冷えたのか。璃空が身体をぶるりと震わせ、丸まる。その背中は、女か男かわからないぐらい華奢で、白かった。
「……腰ほっそ。ちゃんと食ってんのかよ」
ぎしっ。
小瀬野がベッドに右足の膝をのせる。壁際にある布団を取り──吸い寄せられるように、璃空のうなじに口をつけた。何度か繰り返していたが、スマホのバイブ音で我に返ったように急いで離れた。
「──あれ? 何で、オレ」
また一つ、バイブ音が聴こえた。動揺したまま、スマホを手に取る。彼女からのラインだった。
『大丈夫?』
『前原くんのお友達、放り出したりしてないでしょうね』
「……してないっつーの。どんだけ信用ねーんだ」
わざと口に出し、無理やり動揺を静めようとする。
(……今日はあいつとヤルつもりだったから、たまってたんだな。きっと)
小瀬野はベッドの方へと視線を向け、舌打ちしながら璃空に布団を掛けた。部屋の電気を消し、どかっとソファーに横になる。
くそっ。
唇を強く擦り、目を閉じる。
涙を浮かべながら眠る璃空の哀しげな顔が、どうしてか瞼に焼き付いて離れなかった。
0
お気に入りに追加
624
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(16件)
あなたにおすすめの小説
俺がペットを飼いたくない理由
砂山一座
BL
姉が今度は犬を拾ってきた。小さな犬じゃない。獣人だ。
「友達が拾ったんだけど、全然懐かないからって預かってたのね。可愛いし。でも、やっぱり私にも全然懐かないのよねー。ちょっと噛みそうだし」
「俺は動物が好きなわけじゃないんだよ!」
獣人愛護法によって拾った獣人は保護するか別の飼い主を探さなければならない。
姉の拾った動物を押し付けられ気味のフランは、今度はたらい回しにされていた犬獣人を押し付けられる。小さな狂犬の世話を始めたフランの静かな生活は徐々に乱されていく。
世話焼きDomはSubを溺愛する
ルア
BL
世話を焼くの好きでDomらしくないといわれる結城はある日大学の廊下で倒れそうになっている男性を見つける。彼は三澄と言い、彼を助けるためにいきなりコマンドを出すことになった。結城はプレイ中の三澄を見て今までに抱いたことのない感情を抱く。プレイの相性がよくパートナーになった二人は徐々に距離を縮めていく。結城は三澄の世話をするごとに楽しくなり謎の感情も膨らんでいき…。最終的に結城が三澄のことを溺愛するようになります。基本的に攻め目線で進みます※Dom/Subユニバースに対して独自解釈を含みます。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?
ジャン・幸田
恋愛
遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。
だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・
予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
宇宙航海士育成学校日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。
その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。
しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。
誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
初めまして。
おもしろくて、一気読みしてしまいました。
全編通して、とっても読みやすかったです。
優斗が留学して浮気…のくだりでは、瑠空が可哀想で胸が痛かったですが、誤解で本当によかったです。
瑠空は健気で可愛いのに、優斗に関しては思い込みが強いというか、思考がたまにぶっ飛んでいるというか、それがまた優斗がほっておけないんですね🥰
こぼれ話も、短いのにずっしり読みごたえがありました。
素敵な作品に出会えて、読者冥利に尽きます。
ありがとうございました。
返信が遅くなり、申し訳ありません。
思い入れが強い作品であり、まだ読んでくれる方がいてくれて、感激です。
久々の感想をもらいましたが、やはり嬉しいものですね。
ありがとうございました!
感想ありがとうございます。
ご心配おかけしました。。
ち、違ったぁぁぁぁー
はやとちりごめんなさい。゚(゚´Д`゚)゚。
感想ありがとうございます。
いえいえ、とんでもないです!
それだけこの物語を気に入ってもらえているんだなとむしろ嬉しかったです!