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こぼれ話~初夜への道のり~

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 優斗は目を覚ますなり、ぎょっとした。璃空がベッドの上で上半身を起こし、無表情のまま号泣していたからだ。

 慌ててタオルを探すが近くにはなく、ティッシュを数枚とり、涙を拭った。璃空はされるがままで、ぶつぶつと何かを語り出した。

「……おれ、だから……言った、のに……絶対、無理だって……」

 それはとても小さな声だったので、優斗は璃空の口元に耳を寄せる。璃空は遠くを見詰め、更に続けた。

「……胸がないのも、下に余計なものがついてるのも、分かってたことなのに……何で、今さら……女の人じゃないと、無理、とか……」

 何となく察した優斗は、璃空の両頬に手を添え、少々強引にこちらに顔を向けさせた。

「璃空? それは夢だよ。ちゃんと、現実の俺の言葉を聴いて?」

「おれは今のままで、充分過ぎるほど幸せだったのに……優斗が大丈夫って言うから……っっ」

 錯乱したまま、璃空が声を上げて泣き出した。現在の時刻、午前五時過ぎ。

「り、璃空。もう少しボリューム落とさないと、近所に響くから」

 慌てて宥めること、三十分。


「……すみませんでした」

 ようやく頭が動き出し、先ほどまでのことが夢だったと理解した璃空は両手で顔を覆った。穴があったら入りたい。

「いいよ。元はと言えば、俺のせいだしね」

 優斗が優しく頭を撫でる。璃空は「違う……おれが、勝手な夢を見ただけだから」と、かぶりをふった。

「でも、璃空を不安にさせたのは事実だから」

 優斗は腕を組み「要するに、俺が勃つかどうかが不安なの?」と、ずばっと問い掛けてみた。オブラートに包んだままでは、どうにも璃空の不安は解決しないような気がしたからだ。

 璃空は顔から両手を放し、うつむきながら呟いた。

「……不安ていうか、勃つわけない。優斗が悪いわけじゃなくて、それが普通なんだ。優斗は元々、ノーマルだったんだから」

「うーん……」

 いつも思うが、璃空は忘れているのだろうか。告白したのは、優斗の方だということを。

「でもね。俺はもう、何度も想像の中で璃空を抱きながら、一人で抜いているんだけど」

 璃空が勢いよく面を上げた。初耳だといわんばかりに目が見開かれている。

「あ、やっぱり気付いてなかったんだ。璃空が眠ったあと、よくトイレでしてたんだけど」

 起こさないように注意はしていたが、本当に一度もバレてはいなかったらしい。優斗は安堵したが、疑いの眼差しで「……嘘?」と璃空が首を捻るのを見て、少し複雑な思いにもなった。こうなったら、とことん本音をぶちまけてしまおうではないか。優斗は覚悟を決め、口を開いた。

「じゃないよ。大体ね、考えてみてほしいんだけど。好きな人と一緒に寝ていて、そういう気分にならない男っているのかな。璃空なんか毎回、シャンプーの匂いまでさせて……何でシャンプーの匂いってあんなに興奮するんだろうね」

 真剣な表情で語る優斗。璃空は一瞬ポカンとしていたが、すぐに考える素振りを見せはじめた。
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