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番外編③

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「俺が高一になったばかりの春。兄さんが彼女を家に連れてきたんだ。親に紹介するためにね。あの人を知ったのはそれが最初」

 ベッドに並んで座る二人。俯きながら話す優斗の横顔を見ながら、璃空は黙って耳を傾けている。

「道や家の中で会っても、挨拶を交わすぐらいだった。でも、半年ぐらい経ったころだったかな。親が旅行で家にいないときに、兄さんがあの人を家に泊めたんだけど……その日の夜中。自室で違和感に目を覚ますと、手を縛られていて」

 唐突な展開に、璃空は「縛られ?」と眉を潜めた。

「そう。驚いて声を上げようとしたらお腹の上に乗ったあの人に口を塞がれて。気持ちいいことしたくないかって尋ねられたかと思ったら、ズボンと下着を下げられて」

 璃空はぞっとした。優斗は淡々と話してはいるが。それは、どう考えても。

「……犯罪じゃん」

「そうだね。まあ足は自由に動かせたから蹴飛ばせば良かったのかもしれないけど……セックスに対する好奇心と、兄さんに対するあてつけみたいな感覚でずるずると流されるままという流れ……かな」

 後半にいくにつれ、気まずさから優斗の声が段々小さくなっていく。

「好奇心ですか」と、何故か敬語の璃空。優斗は「いや……うん」と曖昧な返答しか出来ない。

「お兄さんに対するあてつけって?」

 優斗は束の間黙った。璃空は弟と仲が良い。だからこそ知られたくなかったが、こうなってしまった以上、全てを話すのが賢明だろう。

「……兄さんには、昔から嫌われていて。小さい頃は好かれようと努力したこともあったんだけど、馬鹿らしくなってやめたんだ。その反動というか」

「そう、なんだ」

 しん。
 沈黙が部屋を満たす。

 優斗は俯く璃空に手を伸ばしかけたが、璃空が「優斗が」と呟いたので止めた。

「ほぼ犯罪の流れから、優斗がどこらへんで佳菜子さんを好きになったのか、謎なんだけど」

 優斗は肩を落とした。

 ──まだそこを疑われていたとは。

「……好きになったことなんてないよ。何度も言うけど、俺の初恋は璃空で、璃空しか好きになったことはない」

 じと。
 璃空が疑いの眼差しを向ける。

 他のことならこちらが心配になるぐらい素直に信じるのに、女性のことになると璃空は疑い深くなる。
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