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番外編①

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 家に戻ると、優斗は一直線にベッドへと向かった。出掛ける前と変わらずに、璃空はそこにいた。小さな寝息をたてて。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 情緒不安定な璃空が目を覚ましたときに一人だったら、どんなネガティブな妄想をし、行動するか予測がつかなかったからだ。

 前原から返してもらった璃空のスマホを、ガラスのテーブルに置いた。音は僅かで、それに反応したのかは分からないが、璃空が静かに目を覚ました。

「……優斗?」

「ああ、ごめんね。まだ寝てていいよ」

「……? 左頬、赤いよ?」

「大丈夫だよ。わざとだからね」

 まだ寝起きで頭が働いていない璃空が、首を傾げる。

 優斗は穏やかに微笑みながら膝をつき、ベッドにいる璃空の頬を撫でた。

 気持ち良さそうにすりよってきた璃空だったが、ふいに怪訝な顔をした。

「優斗のじゃない匂いがする」

「あー……タバコ、かな」

 そう言えば、目の前で吸っていたな。
 今更ながら優斗は思った。

「タバコ、吸うの? 身体に良くないよ?」

 不安そうに見上げる璃空。
 優斗が「吸わないよ」と小さく笑う。

「タバコを吸ってたのは、小瀬野さんだよ。前原くんの先輩のね」

「……え?」

 一気に覚醒した璃空は、勢いよく上半身を起こした。

「あ、会いに、行ったってこと? おれが、寝てる間に? 何で?」

 サアッ。
 璃空の顔から血の気が引いていく。

(……一体、どんなネガティブ妄想を)

 口には出さず、優斗はことの次第を話はじめた。

「璃空のスマホを返してもらいに、前原くんのところに行ったんだ。そこで、一緒に飲んだっていう先輩の名前を聞いて──聞き覚えのある、珍しい苗字だったから。嘘ついて、前原くんに連絡してもらったんだ。俺の名前を伝えてもらって」

 例え見知らぬ誰かであったとしても、その先輩とやらには会うつもりではいたのだが。とは心の呟きである。

 璃空が目を丸くする。

「優斗と先輩は、知り合いだったってこと?」

「知り合い、というか……」

 あまり話たくはないが、仕方がない。腹を決めた優斗は、続けた。

「璃空と出逢う前。大学に入ってすぐ、少しだけお付き合いしてた子がいたんだけど」
 
 途端に、璃空が遠い目をした。

「ああ……あの、美人な女の人……今思えば、雰囲気が雪野さんに似てたよね」

 優斗って面食いだよね。
 璃空が顔を強ばらせながら薄く笑う。

 思わぬ話の流れに、優斗が焦る。

「待って待って。何の話?」

「……うん。別にいいんだ。その人がどうしたの?」

 虚ろな目を向けられる。

(……駄目だ。ネガティブモードになってる)

 そう判断した優斗は、早々に結論を口にした。

「その人のお兄さんが、小瀬野さんだったんだ。要するに、うちの可愛い妹をよくもフッてくれたな。お前の恋人に嘘ついて、嫌がらせしてやる。みたいな」

 厳密には違うが、概ね合っているだろうことを優斗が要約する。

「え? う、嘘? ていうか、な、何でおれが優斗の恋人だって」

 情報量が多すぎて、璃空がパニクる。

 それはね。
 優斗が何とも言えない表情をする。

「酔った璃空が、俺の名前を連呼し続けてたみたいで」

「な?!」

「ゆーと、ゆーとって。同じ大学の佐伯優斗のことか。付き合ってるのかっていう小瀬野さんの問いに、どうやら璃空が肯定したようで」

 ああああ!!

 璃空は頭を抱えた。
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