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やっぱり、この子は甘えるのが好きなのだ。
しっかりしているんじゃなくて、しっかりせざるを得なかっただけなのだと。
少し寝て、具合は良くなったからと。璃空は病院に付き添うという優斗の申し出を頑なに断った。
璃空にしてみれば、優斗は初対面の相手だ。仕方のないことかもしれない。優斗は戻ってきた保険医にも説得され、その場を後にするしかなかった。
2日後。
食堂で璃空と逢った。一方的だった視線が、はじめて交差した。素直に嬉しかったが、璃空の様子がおかしかった。
笑っているのに、泣いているように見えて。
その顔が、頭から離れなかった。
それから何度か璃空と目が合ったけど、璃空の顔はずっと曇ったままだった。
どうして笑ってくれないんだろう。
笑うと、あんなに可愛いのに。
ふと、璃空のことばかりを気にかけ、考えている自分がいた。
その情は何というのか。
誰かを、まして男を好きになったことなどなかったから、答えはまだ出せていなかった。
付き合ってひと月。
一人暮らしの彼女に、部屋に来ないかと誘われた。迷ったが、誘われるままに行った。彼女の手料理を食べたあと、内気な彼女が震えながら言った。
抱いてほしいと。
何となく察してはいた。気乗りはしなかったが、求められるままにキスをした。今までしてきたものと同じ。
身体は熱くならない。
心も落ち着いている。
彼女をベッドに横たえ、上に覆い被さる。
彼女が目を閉じる。
もう一度、彼女の口に触れようとした。
(…………?)
寸前で、止まる。
脳裏に思い浮かんだのは、璃空の姿。
何で。
動揺が走る。
今、彼の顔が。
気付けば、謝罪と別れを彼女に告げていた。
数日経ち、璃空が食堂に姿を見せなくなった。
今日で5日目。
何かあったのか。
心配になった優斗は、昼食を手早く済ませると、璃空を探すために食堂を後にした。
大学構内には小さな池があり、傍には一つ、古びた木製のベンチがおいてある。
校舎から少し離れた位置にあるため、近寄る生徒は少ない。場所を知る者も少ないため、いわゆる穴場となっていた。
璃空は、そこにいた。
ベンチに座り、一人弁当を食べていた。
どことなく、寂しそうに見える横顔。
少しだけ、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
優斗は静かに近寄り、声をかけた。
そして。
自分でも驚くぐらい、自然に、好きという単語を口にしていた。
人生はじめての告白だった。
しっかりしているんじゃなくて、しっかりせざるを得なかっただけなのだと。
少し寝て、具合は良くなったからと。璃空は病院に付き添うという優斗の申し出を頑なに断った。
璃空にしてみれば、優斗は初対面の相手だ。仕方のないことかもしれない。優斗は戻ってきた保険医にも説得され、その場を後にするしかなかった。
2日後。
食堂で璃空と逢った。一方的だった視線が、はじめて交差した。素直に嬉しかったが、璃空の様子がおかしかった。
笑っているのに、泣いているように見えて。
その顔が、頭から離れなかった。
それから何度か璃空と目が合ったけど、璃空の顔はずっと曇ったままだった。
どうして笑ってくれないんだろう。
笑うと、あんなに可愛いのに。
ふと、璃空のことばかりを気にかけ、考えている自分がいた。
その情は何というのか。
誰かを、まして男を好きになったことなどなかったから、答えはまだ出せていなかった。
付き合ってひと月。
一人暮らしの彼女に、部屋に来ないかと誘われた。迷ったが、誘われるままに行った。彼女の手料理を食べたあと、内気な彼女が震えながら言った。
抱いてほしいと。
何となく察してはいた。気乗りはしなかったが、求められるままにキスをした。今までしてきたものと同じ。
身体は熱くならない。
心も落ち着いている。
彼女をベッドに横たえ、上に覆い被さる。
彼女が目を閉じる。
もう一度、彼女の口に触れようとした。
(…………?)
寸前で、止まる。
脳裏に思い浮かんだのは、璃空の姿。
何で。
動揺が走る。
今、彼の顔が。
気付けば、謝罪と別れを彼女に告げていた。
数日経ち、璃空が食堂に姿を見せなくなった。
今日で5日目。
何かあったのか。
心配になった優斗は、昼食を手早く済ませると、璃空を探すために食堂を後にした。
大学構内には小さな池があり、傍には一つ、古びた木製のベンチがおいてある。
校舎から少し離れた位置にあるため、近寄る生徒は少ない。場所を知る者も少ないため、いわゆる穴場となっていた。
璃空は、そこにいた。
ベンチに座り、一人弁当を食べていた。
どことなく、寂しそうに見える横顔。
少しだけ、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
優斗は静かに近寄り、声をかけた。
そして。
自分でも驚くぐらい、自然に、好きという単語を口にしていた。
人生はじめての告白だった。
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