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がばっと身体を離し、力説した。
「前原は、違うから! 本当に、ただの友達で!」
「知ってる。もう疑ってないよ。服を着替えさせる時、全身くまなく調べさせてもらったから」
え、と璃空は自分の着ているものを見た。
上下が紺の、大きめサイズのそれは、見覚えのある、優斗のパジャマ。
束の間、茫然とする
「それでも、あの時は愕然とした。他の人ならともかく、相手があの前原くんだったから……」
「な、なんで」
璃空は訳がわからず、オロオロする。
「前原くんといる時の璃空は、いつも自然体だったから。無理がなくて、リラックスしているなって、いつも見てた。俺といるとき、たまに璃空は、哀しそうな表情をすることがあったから……。だから何度も璃空に直接話しを聞こうと思ったけど、怖くて――情けないな」
璃空が唖然とする。
「何で……? 前原には、どう思われてもいいと思ってるからだよ……ずっと、そんなこと思ってたの……?」
璃空が目を見開いたまま、涙を流す。優斗が慌てたようにタオルでそれを拭う。
「でもね。電話越しに璃空の声を聞いて、堪らなくなった。どうしても、逢いたくなって……それで、幸せな璃空を見て、諦めたかった」
「ゆ……」
ブーブー。ブーブー。
璃空の声を遮るように響いたのは、ガラスのテーブルの上に置かれたスマホの着信音だった。
二つの双眸が優斗のスマホに注目する。
画面には、雪野という文字。
璃空はベッドから飛び降りると、そのスマホを勢いよく手に取った。優斗は口元を緩めると、すっと右手を璃空に向かって伸ばした。
「貸して?」
「やだ……いやだっ」
駄々っ子のように、璃空が後ろにスマホを隠す。
「大丈夫だから。信じて」
ほら、と優斗が微笑する。
それでもやだと拒絶する璃空を腕の中に抱え、優斗は璃空の手からスマホを取った。
「もしもし。うん、――うん。分かった。今から行くから」
短い会話の後、優斗が電話をきった。璃空はまたぽろぽろと、涙を流した。
「……何で? 信じてって、言ったじゃん」
「璃空に信じてもらうために行くんだよ」
優斗は璃空の涙を親指で拭った。
「多分。あのラインを送ったの、雪野だと思うから」
璃空の涙で濡れた双眸が、大きく見開く。
「でも証拠がないから、本人に直接聞こうと思って。璃空も一緒に来てくれる?」
「前原は、違うから! 本当に、ただの友達で!」
「知ってる。もう疑ってないよ。服を着替えさせる時、全身くまなく調べさせてもらったから」
え、と璃空は自分の着ているものを見た。
上下が紺の、大きめサイズのそれは、見覚えのある、優斗のパジャマ。
束の間、茫然とする
「それでも、あの時は愕然とした。他の人ならともかく、相手があの前原くんだったから……」
「な、なんで」
璃空は訳がわからず、オロオロする。
「前原くんといる時の璃空は、いつも自然体だったから。無理がなくて、リラックスしているなって、いつも見てた。俺といるとき、たまに璃空は、哀しそうな表情をすることがあったから……。だから何度も璃空に直接話しを聞こうと思ったけど、怖くて――情けないな」
璃空が唖然とする。
「何で……? 前原には、どう思われてもいいと思ってるからだよ……ずっと、そんなこと思ってたの……?」
璃空が目を見開いたまま、涙を流す。優斗が慌てたようにタオルでそれを拭う。
「でもね。電話越しに璃空の声を聞いて、堪らなくなった。どうしても、逢いたくなって……それで、幸せな璃空を見て、諦めたかった」
「ゆ……」
ブーブー。ブーブー。
璃空の声を遮るように響いたのは、ガラスのテーブルの上に置かれたスマホの着信音だった。
二つの双眸が優斗のスマホに注目する。
画面には、雪野という文字。
璃空はベッドから飛び降りると、そのスマホを勢いよく手に取った。優斗は口元を緩めると、すっと右手を璃空に向かって伸ばした。
「貸して?」
「やだ……いやだっ」
駄々っ子のように、璃空が後ろにスマホを隠す。
「大丈夫だから。信じて」
ほら、と優斗が微笑する。
それでもやだと拒絶する璃空を腕の中に抱え、優斗は璃空の手からスマホを取った。
「もしもし。うん、――うん。分かった。今から行くから」
短い会話の後、優斗が電話をきった。璃空はまたぽろぽろと、涙を流した。
「……何で? 信じてって、言ったじゃん」
「璃空に信じてもらうために行くんだよ」
優斗は璃空の涙を親指で拭った。
「多分。あのラインを送ったの、雪野だと思うから」
璃空の涙で濡れた双眸が、大きく見開く。
「でも証拠がないから、本人に直接聞こうと思って。璃空も一緒に来てくれる?」
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