しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

31

　窓の外を見る。

　空の色が灰色と黒を混ぜたような色に変わっていた。腕時計を見る。

　そろそろ弁当の残りを食べようか。そう思い、課題のレポートをリュックにしまった。

　ふと、周りを見渡す。

　調理場はひっそりと静まり返り、誰もいない。

　4人掛けのテーブルが30ほど並ぶ食堂内には、3人で楽しそうに会話する女のグループが1つ。コンビニで買った弁当を1人で食べる男が1人。離れて座っていた。

　璃空は食堂の入り口近くにある、緑茶とお湯、水が出てくるティーサーバーに向かった。

　紙コップをとり、緑茶を注ぐと、元いた場所に座った。リュックから弁当を取り出す。

　ここはいつでも水、お湯はもちろん、緑茶も飲み放題で、璃空のお気に入りの場所だった。

　優斗と出逢う前。そして、優斗がアメリカに行っている間は、食堂を利用する前原に交じり、弁当持参でよく利用していた。3回生になってからのはじめての訪問は、少しの懐かしさを覚えた。

　あまり量もなく、ほどなく食べ終わった璃空は、バイトに向かうため立ち上がった。　
　
　食堂から、すぐに外に通じる扉を開けた。

　4月とはいえ、日が暮れると少し肌寒い。辺りは薄暗く、風も冷たい。行き交う人もまばらだ。

　何となく寂しさを覚えながら、正門近くにある駐輪場を目指した。

　食堂と正門のちょうど中間あたりに、創立10周年を記念して建てられた、記念館と呼ばれる古い建物がある。

　ベージュの壁に、赤い屋根。大正モダンの雰囲気を残すその2階建ての建物は、登録有形文化財に登録され、普段はあまり使用されていない。

「……やっ」

　記念館の前。微かな悲鳴が聞こえた気がして、足を止めた。辺りを見回す。誰もいない。

　首を捻る。

　思わず記念館を見上げた。

「女の人の声だった……ような」

　空耳かもしれない。何でもないことかもしれない。それでも何となく嫌な予感がして、璃空はそっと木の扉を開け、記念館の中に入った。

　すぐ右側にある、扉が開け放たれた大部屋には誰もいない。

　1階、2階ともに各1部屋しかないため、璃空は正面の階段を見据えた。ごくっと、つばを飲み込む。

　2階から、微かな人の気配がした。

　できるだけ音を立てないように、階段を登る。

　扉は閉まっていた。
　ノブに手をかけ、隙間から中を窺う。


　すぐさま、乱暴に扉を開けた。