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―― 天神様の御用人② ~南ちゃんの別荘~ ――

【008】上級者コースのロッジ

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「あああっ」

 中腹のリフトで、スミレは下りそびれた。それを見て、南も座り直す。

「なにやってんだよ」

 後ろに乗っていた和成と、合流した昭人も、それを見て、上級者コースへと向かうため、中腹では下りなかった。

 なんとか上級者コースのリフトで下りることが出来たスミレは、ほっと息を吐く。一人では無理かもしれないけれど、和成がいる。手伝ってもらえば下りられるだろうと考えた。

 吹雪いてきたのは、その時だった。

「これじゃあ、スミレが下りるのは無理だな」

 和成がため息をつく。すると昭人が近くの無人ロッジを見た。

「あそこに休けい用のロッジがあるから、ふぶきがおさまるまであそこにいようよ」
「それいいですね」

 和成がうなずく。スミレは南に支えられて、なんとかそちらへと向かった。
 内部に入ってドアを閉める。
 すると――なんともいえない、ひんやりとした空気がした。

 スミレはハッとした。心霊スポットの気配だと感じ取ったからだ。

「スミレ、スマホのアラーム」
「う、うん!」

 和成の指示に、スミレはすぐにスマホを取り出して、アラームをセットした。

「一時間以内にふぶきがおさまるといいな」

 疲れた顔をした和成に、南がきく。

「一時間を過ぎると危険だったりするんですか?」
「――まっ、そんなとこだ。でも安心しろ。俺も昭人先ぱいもついてるからな」

 そう言うと和成は、ちらりと昭人のかたにいる犬のぬいぐるみのような、獅子舞の首にやどっていたあやかしを見た。犬のぬいぐるみはなにも言わない。

「非常食、いちおうラムネとキャラメル持ってます!」

 黒いネコのキーホルダーがついたポーチから、南がおかしを取り出す。

「とりあえずそれは温存おんぞん

 昭人が笑う。
 スミレはそんなやりとりを聞きながら、ズドンとかたに重しがのったような気持ちになっていた。冬の寒さとは質の違う小屋の中の冷ややかさに、気持ちが悪くなってくる。

「なんかここ、怖いですね」

 それは南もおなじだったのか、両うでで体をだくと、はぁはぁと息をした。

「俺もなんか頭痛がする。寒いのかな」

 昭人もそう言った。
 和成は、室内を見わたすと、最後に天井を見上げた。つられてスミレもみあげる。すると、そこにはロープをつるすためらしき金具があった。

「お兄ちゃん……」

 スミレが思わず、和成のうでにふれる。

「……ここで首をつった女の霊がいる」

 すると和成が、スミレにしか聞こえない声でいった。ゾクリとしてスミレは息をのむ。

「だいじょうぶだ。きっとふぶきもおさまる」

 和成は安心させるようにそういった。
 だが――ピピピ、ピピピ、ピピピ。無情にもスマホのアラームの音がひびいた。ふぶきはまだやまない。次第にめまいがし、はきけがひどくなりはじめる。風邪をひいたときとはまた違うのだが、全身にふるえがはしる。

 そのときだった。
 南の持っているポーチがゆれ、キーホルダーが床に落ちた。

 四人のしせんがそちらに集まる。

『僕が邪気を吸い込むニャン。だから大丈夫ニャン』

 それを聞いて、スミレはぼうぜんとした。昭人と南には聞こえていない様子だが、和成にはしっかりと聞こえている様子である。

「だけどそんなことをしたら、あなたはどうなるの!?」

 思わずスミレは声を上げた。すると南と昭人が顔を向ける。だが、それにはかまわず、スミレは続けた。

「あなたは南ちゃんを守る猫又になるんでしょう!? 邪気をすいこんだりしたら、魂が悪いものにそまっちゃうよ!」
『いいニャン。南を守るニャン』

 どこか明るい……から元気に聞こえるみいちゃんの声がする。すると、すっとスミレのかたが軽くなり始めた。

「ね、ねぇ? スミレ? どういうことなの?」

 南のおどろいたような声で、スミレはわれにかえった。

「……あのね」

 スミレはなんと説明しようかまよった。南にうそはつきたくなかったが、こわがられたらと思うとそのほうがこわい。だが、と、考える。南は親友だ。きっと受け入れてくれる。スミレは南を信じることに決めた。中学校で春であってから、一番の、一番大切な友だちだ。

「あのね! そのキーホルダーには、南ちゃんがかってたみいちゃんの魂が宿ってるの! さっきこっくりさんをしたときにわかったの。部屋を出てもらったのは、この子とお話しするためだったの」
「え……?」
「今、この子は、みいちゃんは南ちゃんを守ろうとしてるの。このロッジ、心霊スポットなんだよ。昔、ここで女の人が首をつったんだって」
「!」

 南はそれを聞くときょうがくした顔をしてから、キーホルダーに手を伸ばそうとした。

「ダメだ」

 その手首を、和成が握ってせいする。

「ほかに、今、俺たちがここにいて無事にすごせるすべはない」

 和成の言葉に、南が声をあげる。

「じゃあみいちゃんはどうなるの!? いやよ、みいちゃんは大切な友だちなの。ここにいるというなら、みいちゃんを私が守らないと! 離してください!」

 すると和成が、真剣な顔をした。

「ふぶきがやんだら。必ず俺がみいちゃんのことも助ける。信じてくれ」
「和成先ぱい……」

 南が不安そうな声を出した。だが和成の顔を見ると小さく頷いた。

「南、和成が言ってるんだから大丈夫だ」

 昭人がそう言った。その間にも邪気がみいちゃんの体に集まっていく。
 しかしふぶきはまだやまない。
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