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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【035】術士の所在

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「だけど、術士はどこにいるんだろう?」

 悩みながらスミレは、翌日部室へと顔を出した。イスに座って、心霊スポット連絡帳のコピーを置く。最新情報は特にない。

「本当熱心に見てるのね」

 そこへひょいと南が顔を出した。

「うん……」

 赤い線で六芒星を引いてあるその紙を見ると、南が隣に座ってうでを組む。

「スミレ、これ、おまじないの紙みたいだね」
「おまじない?」
「うん。ほら、優香先ぱいが教えてくれたやつ。六芒星を書いて、真ん中に好きな人の名前を書くと思いがかなうってやつ」
「! 真ん中」

 スミレは六芒星の真ん中をまじまじと見た。そこにはこの深珠市でも有名な洋館がある。
 西欧から移築されたらしい。

「そこ、優香先ぱいのおうちだね」
「えっ!?」

 スミレはいぜん、優香に家へと来ないかとさそわれたことを思い出した。和成もさそわれているのをもくげきした。それならば、たのんだら家に入れてくれないだろうかと考える。

「ホテルをやっていて、一階にカフェが入っていて、二階にとまれるんだよ。私、前にほら、スミレと龍樹くんが歩いてるのを見かけたとき、そこのカフェでお茶をしてたの」
「そうだったんだ。それなら私でも入れるかな?」
「そりゃそうよ。ただとまるんならお金はかかるだろうけどね」

 そこは心霊スポットではないが、術士が真ん中にいる可能性はあるとスミレはかんがえた。だが優香の家に術士がいるとすれば、それこそ一番あやしいのは優香なのではないかと思う。しかし、何故? 理由が思いつかない。

 だが恋のおまじないだって、心霊スポットの核の力を使った六芒星の術の、しゅくしょう版にも思える。

「でもあのおまじないってね、話を聞くとすごくこわいんだよ。好きな人の髪の毛とかつめとか、体の一部を置くと、好きな人のこころを意のままにあやつれるんだって」
「えっ……そ、それって、もしも真ん中に体そのものを置いたらどうなるの?」
「そこまで大きい紙って模造紙もぞうしとかってこと? そりゃあ……体もあやつれたりするのかなぁ? 優香先ぱいに聞かないとわからないけどねぇ」

 南の言葉に、スミレは青くなった。

「ね、ねぇ? 優香先ぱいはだれの名前を書くと思う?」
「そんなの和成先ぱい以外いないじゃない」
「えっ!? お兄ちゃん!?」
「……全校生徒で、優香先ぱいが和成先ぱいに片思いをしてるのを知らないのなんて、兄妹だからみんな教えないだけで、スミレだけなんじゃないの? 私だって知ってると思ってたもん」
「うそ……」

 だが、しきりに優香が家にさそっていたことを思い出すと、術士が優香だとした場合、和成を、名前のかわりに本物を、そこにまねくというのは、一つの術の完成に思える。

「ちょっと用事ができた。帰るね」
「うん? いってらっしゃい」

 ひらひらと手をふる南に見送られて、スミレは部室から外へと出た。
 そしてあわてて和成に通話をかける。

『はい』
「お兄ちゃん、今どこ!?」
『お前こそどこだよ? 優香が、お前の事で話が合って、お前が来てるって言うから、今俺は優香のうちに来てるぞ?』
「私は学校にいるよ! とにかくそこからはなれて!」
『なんだって? どういうことだ?』
「優香先ぱいが術士かもしれなくて――」

 と、スミレが言いかけたときだった。バリンと音がして、通話が切れてしまった。

「お兄ちゃん!? お兄ちゃん!!」

 しかし返事はない。嫌な予感におそわれたスミレは、龍樹に連絡を取る。
 生徒玄関で待ち合わせをすると、図書館にいた龍樹がすぐにおとずれた。

「和成先ぱいがあぶないかもしれないというのは?」

 それだけをスミレは先ほどメッセージで送っていた。

「実は、恋のおまじない! あの六芒星ね、真ん中に本人の体の一部を置くと操れるようになるらしくて……心霊スポットの六芒星の真ん中にあった家に、今お兄ちゃんがいるの! それも私がそこにいるって呼び出されたらしくて」
「なんだって? すぐに行こう」

 校門を出てすぐに、龍樹がタクシーを拾ってくれた。そこに二人で乗りこむ。龍樹のかたには鳥のぬいぐるみに見える烏天狗がのっているが、これも普通の人には見えない。車内でスミレが青ざめていると、龍樹がそっとその手にふれた。

「大丈夫だ。俺がついてる」
「龍樹くん……」
「大体、和成先ぱいがただでやられる人とは思えない」
「うん……」

 と、こうしてやりとりをして、スプリングテール館というホテルに到着した。
 タクシーをおり、門から先に入っただけで、心霊スポット特有のおもおもしい気配と冷気がただよってくる。思わずスミレは、スマホのアラームをセットした。もし一時間以内に見つからなくたって、にげる気はない。あくまでも、ねんのためだ。

 開放されているとびらから中へと入ると、だれもいないカフェが見えた。おくにはフロントがあったが、受付うけつけの人の姿もない。

「烏天狗、どこにいるかわかるか?」
「気配がまがまがしすぎて判別はんべつがつかぬ」
「そうか。だったら二階からまずは探そう」

 龍樹の言葉にスミレはうなずく。こうして二人で階段をかけ上がり、きゃくしつのドアをノックしては開けるという作業をはじめた。さいわいどの部屋もカギはかかっていない。だれかがとまっていた様子もなかった。

「どこにもいない……」

 スミレは泣きそうになった。このホテルは一階と二階しかないとされている。

「あきらめるなスミレ。いつもお前はあきらめないだろう?」

 龍樹はそう言うと、一階にもどってから、非常階段というドアを見た。

「いつか和成先輩は、床に無ければ上にあると言っていただろ? 上に無かったんだ。下にあるかもしれない」

 非常階段のドアを、龍樹が押し開く。すると、地下に通じる階段があった。
 
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