天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒

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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【027】冷たい目

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 何事もない一日。
 それがどれだけ貴重きちょうなのか、スミレは知っているつもりだったのだけれど、最近はそうでもなかったと考えている。これも人形供養に深珠神社にいって中をのぞいたのがきっかけだけれど、今では天神様の御用人であることがいやではない。とくにゆめの中で修行をしていると、そう思えるようになってきた。

「あれ?」

 放課後、部室に行こうと歩いていると、階段のわきに和成の姿が見えた。すぐそばには優香の姿がある。なにを話しているのだろうかと身をかくして、好奇心こうきしんからスミレは耳をすませた。

『和成くん、どうしてもダメ?』
『だから悪いけど、無理。だいたい日曜日は、先約せんやくがある』
『本当にちょっとだけでいいの。どうしても二人で話がしたくて』
『今ここで言ってくれ』
『学校じゃなくて……その、プライベートで』
『だから先約があるんだよ』
『先約ってなに?』
『スミレ――妹と、その友達と出かける』

 昭人先ぱいの蔵に行く話だと、スミレは思った。

『……そう。本当に兄妹仲がいいのね』
『別に』
『じゃあ他の日に、またお願いするわ』

 優香がそう言うと、自分の方に歩いてきたものだから、あわててスミレは今来たばかりのような顔をした。すると優香がちらりとスミレを見た。そして前にも見せたような冷たい目をしてから、口元だけで笑って立ち止まった。

「あら、スミレさん」
「こ、こんにちは!」

 いしきして元気なこえでスミレがあいさつすると、優香のまなざしがみんなにいつも見せているようなやさしいものへと変わった。だからやっぱり気のせいだったのだろうかとスミレは考える。

「ねぇ、スミレさん。日曜日に、私の家に来ない?」
「家ですか……? あの、すみません。日曜日は昭人先輩のお祖父じいちゃんの家に行くことになっていて」
「あら、そうなの? じゃあ……本当に『先約』があったのね」

 小声で優香が言った。それから顔を上げると、やわらかく笑った。

「それならほかの日に」
「はい。南ちゃんとかにも聞いてみます?」
「そうね。南さんにも私から声をかけておくわね。今は、部活に行くとちゅう?」
「そうです。新聞部の大会も近いから」
「なるほどね。がんばってね」

 やさしげな優香の声に、スミレはちょっとの間、みほれかけた。だが、冷たい目をしていたのがどうしても気になって、なんとなくむなさわぎがしたせいで、すぐにいしきが切りかわる。

「がんばります!」

 こうしてそこで優香とはわかれて、スミレは新聞部の部室へと向かった。



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