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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【017】誤解

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 中間テストが間近に迫ったのは、十月の最初の頃だった。
 最近は心霊スポットのめぼしい情報がなく、心霊スポット連絡帳にも、昔からあるスポットしか書かれていない。部活が週一になってしまったから、あまりじっくりと話を聞く時間もない。

 今日はスミレは、勉強をしようと図書館へとやってきた。
 すると龍樹の姿が視界に入った。
 他にもまばらに生徒はいたけれど、なんとなくスミレがそちらを見ていると、龍樹が顔を上げた。そしてスミレを見ると、柔らかく笑った。以前に見た笑顔よりもずっと明るい。

「スミレ」

 声をかけられたスミレは、今では龍樹と仲がいいわけだし、人目を気にする方が変だと思って、笑顔を返してそちらへ向かう。そして龍樹のそばのイスをひいた。

「スミレも勉強か?」
「うん」
「一緒にやるか?」
「そうだね。私、わからないところばっかりだけど」
「俺でよければ教える」

 龍樹は、クールでどこか冷たいと言われていたが、こうしていざ話すようになるととても優しい。それをもうスミレは知っている。

 スミレはこの日も数学を教わった。



 その三日後、久しぶりに部活があった。久しぶりの新聞部の部室にいくと、ソファで昭人がダラダラとしており、南はイスに座っていた。

「スミレ!」

 すると南が声を上げた。

「ちょっとぉ! 教室だと人目があるから聞けなかったけど、龍樹くんとどうなってるのよ!?」

 南のよく通る声が部室にひびく。

「声が大きいよ!」
「付き合ってるの?」
「違うから! 付き合ってないよ!」

 スミレが否定すると、南がにやにやと笑う。

「図書館では二人で勉強してたってウワサになってるよ」
「えっ」
「しかも『スミレ』って呼んでたって。龍樹くんはみんなのことを苗字で呼ぶのに」

 そんなウワサは知らなかったし、スミレはあせる。

「この前、おやすみのときだって二人で歩いてたよねぇ!?」
「あ、あれは……」

 コンコンとノックの音がしたのはそのときだった。顔を向けると、あけっぱなしだった戸を手で軽くたたいた和成が入ってきたところだった。

「わぁ、和成先ぱい」

 すると南の顔が、うっとりしたように変わる。本当に南はメンクイである。

「よっ、南」
「名前をおぼえててくれるなんて……」
「なんでだよ。たまに家に遊びに来るのに忘れるわけないだろ」

 和成が苦笑した。それから南を見ると、どこか意地の悪い顔で笑った。

「なにお前、龍樹のことが好きなのか?」
「へ? い、いや、私じゃなくてスミレとどうなのかなぁって……」
「残念。話、聞こえてたけど、この前の休みは俺も一緒だったんだよ。残念ながらデートじゃなかった。誤解だぞ。お前、兄ちゃん連れてデートに行くか?」
「な、なるほど」

 南が納得した顔をする。思わぬ兄の助け船に、ほっとスミレは息をはく。

「それよりお兄ちゃん、なにか用?」
「ああ、母さんからの伝言で、今夜は父さんと食事をしてくるから遅くなるらしい。言うの忘れてた」
「そうなんだ」
「それだけだ、じゃあな」

 こうして和成は帰っていった。

「和成先ぱい……カッコイイ」

 あとには南のつぶやきだけが残った。終始昭人は眠っていた。




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