天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒

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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【011】エレベーターと階段

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 その後数日は、雨が降った。残暑がきびしいせいか、秋雨あきさめという感じには、スミレには思えなかった。しかし幸い、金曜日は雨が上がった。まだ少しくもってはいたが。

 部活は休みなので、南とは生徒玄関で別れて、龍樹と約束している現地、ビルの前へと向かう。現在、工事は中だんしている様子で、足場はあるが、工事の人の姿はない。

 本日はまだ龍樹の姿がなかった。
 なのでスマホをにぎりしめながら待っていると、少しして、龍樹がタクシーをおりてきた。

「悪い、待たせたな」
「ううん」

 スミレは一人でタクシーにのったことがなかったので、なんとなく龍樹が大人に思えた。

「地下だったな、行こう」
「うん!」

 こうして二人で地下へと続くエレベーターに乗り込む。
 そばには階段もあった。
 到着してすぐに、スミレはスマホのアラームをセットする。

「一時間以内」

 スミレが自分自身に念じるようにつぶやいた時だった。コツン、コツンと、靴の音が階段の方からひびいてきた。ビクリとしてそちらを見る。すると龍樹が、スミレの前に片方のうでを出して、かばうようにする。

「なんだよ、お前ら。デートにしては、ずいぶんと変わったところに来てるんだな」
「お兄ちゃん!?」

 階段のドアを開けて現れた和成の姿に、スミレは目を見開いた。すると龍樹がうでをおろす。

「どうしてここにいるの!?」
「別に? 心霊スポット連絡帳とやらに、大きく『金曜日の放課後』と書いてあったから、見に来ただけだけどな? スミレこそ、行かないとか言ってなかったか? いやぁ、なるほどな。デートだったからてれてかくしてたってことか?」
「ちがうから! 龍樹くんとはそういうのじゃないから!」

 スミレがさけぶと、和成がうでを組む。それを見ながら龍樹が言った。

「遊びじゃないんです、天月先ぱい」
「そんな場所にスミレを連れてくるんじゃねぇよ」
「天月がいないと困るんです」
「混乱するから俺のことは和成でいい。スミレのこともスミレってよんでやれ。デートじゃないにしろ。スミレは、名前で呼んでるぞ? 龍樹くん」

 少しだけおどけた口調くちょうではあったが、和成の目は笑っていなかった。
 しかし和成をにらみつけている龍樹の表情も冷ややかだ。

 地面の下からゴオオオと音が響いてきたのはそのときだった。

「まずい、心霊スポットが力を増している」

 ハッとしたように龍樹が言う。するとかけよってきた和成が、スミレのうでを引いた。

「帰るぞ」
「お兄ちゃん、待って!」
「こんなあぶない場所においていけるか!」

 和成に引っぱられるままに、スミレが階段のドアの前に行く。

「なんでだよ……」

 しかし和成がドアノブをひねってもカギが開かない。それを見て、息をのむと、龍樹がエレベーターの前に立ち、開くボタンを押す。しかし開かない。

「閉じこめられたな」
「おいおい龍樹。お前な、それですまされると思うなよ?」

 和成の右のほほがぴくぴくと引きつっている。

「早く人形を回収しなきゃ! そうすれば開くでしょう!?」

 スミレが声を上げると、二人がそろってスミレを見た。

「人形?」
「お兄ちゃん、説明はあとで! とにかく一時間以内に、心霊スポットは出ないとならないの! 人形を持って! あ……あと四十分しかない……!」

 スマホを取り出し、スミレは唇をぎゅっと引きむすぶ。

「そのほかにも、この地下室全体をおおっている邪気をどうにかしないと、外には出られない」

 龍樹がそう言って、四枚のお札を取り出した。

「邪気は四隅よすみに集まっている。それぞれのカベに札をはりつけて邪気を弱めないと」
「っ、チ。かせよ。俺が走ってはりつけてきてやる」

 舌打ちをしてから、和成が袖をまくった。

「事情はあとでしっかりと説明してもらうからな。とにかくお前らは、その人形ってのを探せ!」

 こうして、広い地下室を、和成がお札を受け取り走り出した。
 龍樹はそちらに顔を向けてから、スミレのとなりに立った。

「探そう」
「うん!」

 これが地下室のたんさくの開始となった。




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