終焉のヒュプノス

明紅

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遺物と遺産

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朝、目が覚めると何時もの様に自分の部屋に戻っていた。
向こうに戻る前にちょっと調べ物をしないといけないな。

とは言っても、100年後の未来の事なんてどうやって調べれば良いんだ?
2122年…その年に移民船団は地球から飛び立つんだよな?
今から100年後…いやもしかしたら数十年後には革新的な惑星間航行の技術が確立されるって事だよな?
で、あの星まで200年くらいで航海したって事だろ?
確か、何かのニュースで地球から一番近い地球に似た環境だと思われる惑星が12~3光年の所にあるって言ってたよな…。
光の速度で飛んで12~3年掛かるんだよな?
この星…デーヴァの場所がイマイチわからないけど…。

「う~ん…分かんないなぁ…。」
寝起きの頭でパソコンに向かって色々と調べてみるが、専門用語が多過ぎて全然頭に入ってこない…。
「多分こうしてる間にも技術は進んでるんだよな…でもたった100年足らずでそんなに遠くの星まで行くことって可能なのか?なんか宇宙人とか絡んでたりして…。」
色々考えても余計に深みにはまって訳が分からなくなる…。

そういえば、あの動画の人…如月って言ってたよなぁ…あ、”如月荘壱”だ、ご丁寧に動画に漢字で名前表示させてたっけ。
でも…どっかで見た気がするんだよなぁ…誰だっけ?
あの映像をみる限り、最初に映ってた顔は40代後半から50代前半って感じだったよな。
どっかの研究施設とか…宇宙開発系の企業とか…。

とりあえず検索してみるか…。
「…介護施設とか賃貸物件ばっかりだなぁ………おっ…これって…。」
そこには『私立如月学園』と言う名の高校のウェブサイトが表示されていた。
その学校の理事長の名前が”如月荘壱”…同姓同名か?
いやそこに載っている写真…コレはまさにその顔は”如月荘壱”だった。
そうだ、この人ITアイティかなんかで何年か前に凄い話題になった人だ。
…何の話題だったっけ?…忘れたなぁ…。
まぁ、とりあえず、質問メールを送ってみよう。

-----
初めまして、私は福岡に住む高校一年生の由良創(ゆらはじめ)という者です。
突然のメール失礼します。
如月荘壱さんという方を探しています。
そちらの理事長さまが同じ名前だと知ってメールいたしました。
無理だとは思いますが、もしご都合が合えば一度お会いしたいのですが…。
よろしくお願いします。
-----

こんな感じかな?
まぁダメ元だ。
もし返事が返って来ればラッキーって感じだよな。

あ…。
送信してから気が付いた…。
あの映像で地球を飛び立ったのが2122年だって言ってたコトを忘れてた…。
まだ産まれてる訳ないじゃん!
まさか如月学園の理事長の如月荘壱って人が、あの動画の男と同一人物って…ないないない…、そんなコトある訳ないじゃん。
さっき学校の理事長挨拶の所に47歳って書いてあったし…。
それに映像の如月が、45歳くらいだと仮定してもまだ55年も先に産まれるってコトじゃねぇの?

同姓同名で、顔が似てるからって…アホだ…。
なんてアホなんだ…オレ…。
メール送っちまったし…。
まぁきっと悪戯だと思われて削除されるのがオチだな…うん、そうだ、削除されるに違いない…削除してくれ…頼む…。
マジで自分のアホさ加減に引くわぁ…。

あっそうだ、リリアに頼んでこのパソコンも向こうにコピーしてもらおう。
何か役立つかも知んないしな。
…でもなぁ…機嫌直ってたら良いけどなぁ…。


§


サラ、ルド、オリバー、ノア、ゼノ、リリア、そして俺を含む7人で座卓を囲んでいた。
やっぱり…リリアの機嫌は戻ってなかった…。

サラから預かった御神体をテーブルに置いて話し始めた。

皆の目の前でスティックを二つに分離させ、昨夜同様に動画プレーヤーを起動させた。
リリアは一度見ているからか、ただ機嫌が悪いままなのか無反応だったが、ルド以外は『おぉ』と歓声を上げて食い付いた。
ルド以外はと言うのは、勿論ルドが相変わらずビビっていたからだ…これでサラのボディーガードって言うんだから笑わせる。

薄い光の膜に流れる動画に合わせて、そのまま内容を伝える。
これって通訳してるのか?如月が話している言葉をただ繰り返しているだけなのか?よく分からない状態だな。

再生中に容赦なく飛んでくる質問に動画を止めて解説してると、あっという間に2時間以上が過ぎていた。
まぁ、解説って言っても、こっちにない言葉を分かるように伝えるのが殆どたったけどな…。

「そぉか…わしの翻訳にはかなり間違いがあったと言うことだな。それにワシらの先祖は、その地球という星から遥々やって来て戦争まで起こしたと…。」
オリバーは少し寂しそうな表情で呟いた。
「そうみたいですね。戦争は残念なコトですが…ただこの映像で言ってるコトとオリバーさんが持ってた文献に書かれていたことが違うことについては、今度ちゃんと検証してみましょう。」
「しかし良くこんな物を見つけたな。」
再生の終了したプレーヤーを手に取りノアが言った。
「動画でも言ってましたけど、換気が終わったらあの中に在るモノを見たいんでしょ?」
「あぁウズウズしとるわ。」
ノアは今にも飛び出して行きそうな勢いで言った。

「ちょっと待ってくれ、仮にも祭壇だぞ。それを…。」
「何を今更、じゃぁ準備が出来次第行ってみるとしよう。」
ルドの反対意見を遮るようにサラが言う。
このやり取り、もはやお約束だな。
サラもあの奥に何があるのか興味津々なんだろうな。


§


昨日の態度をこれでもかってくらいに謝って、なんとかリリアの機嫌も良くなった。
昼過ぎには再び祭壇の前にやって来た。
昨日設置した換気扇が上手く機能した様で強烈な悪臭は消え、少し臭う程度にまで換気されていた。

ポッカリと開いたままの扉の奥は、手前の祭壇があったホールとは違って明るくない。
警戒している皆を安心させる為と言うよりは、好奇心が勝っただけなんだけど、オレが先頭で中に入った。
しかし、一歩中に入るとセンサーでもあるのか、薄暗かった空間がパッと明るく照らし出された。

「凄い…やっぱり動力が生きてる…。」
まず目に飛び込んできたのは複数のモニターが埋め込まれた正面の広い壁。
殆ど機能してない様で表示が消えているが、数台が何処かの風景を映し出していた。

「サラ、ここに写ってる場所がどこだかわかるか?」
「ん?あぁ…そっちのはムートリアの風景じゃないかなぁ?あとのは分からないけど。」
サラはムートリアが映し出されているモニターの前に立ち、まじまじと覗き込んでいる。

「…何の為に写してるんだろ…。っていうかコレってもしかして…人工衛星画像なんじゃないのか?」
「ジンコウエイセイ?何だそれは?」
「えーっと、宇宙に浮かべてる人工の星みたいなものかな?」
「そんなことができるのか?」
「いや、この船に乗ってた人たちがさ、必要だったんじゃないの?観察の為とかに…。」
「…今もずーっと観察されてるってことか?…あ!」
「どうした?」
「いや…今、親父が居た様な…。でも…なんかコレ凄いけど監視されてるみたいで気持ちわあるいな…。」
「確かにな…でも多分コレを見ることが出来るのは、ここだけなんじゃないかな?…下手すると千年以上前のモノだし…ねぇオリバーさんの所にこんなのってありました?」
「いや…初めて見るな…。」
やっぱそうだよな…オリバー邸で見た映像装置ってあの水鏡みたいなヤツくらいだもんな。
”眠りの柱”には宙に浮かぶ乗り物なんかもあったけど、こんなに大きなモニターなんかは無かったしな。
「珍しいものが多いと思うけど、迂闊に触るなよ…特にリリアとノアさん。」
そう言うとリリアは両手を上に挙げ『私は何もしてないよ。』と言わんばかりのアピールし、ノアもポリポリと頭を掻いて同じく『何もしてない』アピール。
…何なんだこの二人は…。

部屋の中にあったものをザッと纏めると。
まず何かの機械を作るための製造機…コレにはそれぞれマニュアルがついてあったので後でじっくり読んでみよう。
次に何に使うのかよく分からないモノも含む多くの工具…コレにもいくつかの工具にはマニュアルが付いてあった。
そして複数のコンピュータとそれ以上に多い大小様々なモニター…最大の収穫はコイツだ。
このコンピュータの中に膨大な情報が残されているらしい。
コレが動画の中で言ってた遺産だとしたら、オリバーさんもノアさんも拍子抜けだろうな…。

しかし、この如月って人…まるで俺、もしくは日本人がここに来ることが分かってたみたいだ。
マニュアルや残されている説明書きの殆どが日本語で書かれてある…。
まさか日本語しかわからないって訳でもないよな?

それにしてもこの部屋も含めて何でこんなに保存状態がいいんだ?
まるで時間の進み方がこの中だけゆっくり進んでるみたいだ…。
そういえば、遺跡で見つけた日記にしてもそうだ…何で紙の日記があんなに良い状態で残ってたんだ?
ココには絶対何か秘密があるはずだ。

「なぁ創くん、この文字…。」
オリバーが机の上に置いてあったメモを指差して言った。
「そうです、オレの母国語…日本語ですよ。あの動画の如月って人も日本人みたいでした。彼が話していた言葉も日本語です。」
「なるほどな…ではやはりリリアはその日本に所縁があるとみて間違い無いと言うことか…。」
「あ…そうですね、あの倒れてた時に一緒に落ちてた生徒手帳とか、もろに日本の文化ですからね。でもまだどこから来たのかは分からないですよ。」
「そうだな。そこは君に頼むよ。」
すっかり後回しになっちゃってたけど、リリアがどこから来たのかってことを調べないといけないんだったな。


その夜、村に戻り再び村の主要メンバーがサラのもとに集められた。
そこで代々祭壇とされていた場所の真実を伝えることとなった。
村人たちはその内容に衝撃を受けていた様だ。
そりゃそうだ、ルド同様、今まで信仰していた場所が実は異星人の遺跡だったって言うんだから…。
しかしサラも上手いよな、全てを伝えず、でも信仰が完全に無くならない様な言い方で伝えていた。
そしてオレは、言語がわかると言う理由から祭壇奥の部屋についての管理を任されることになってしまった。
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