終焉のヒュプノス

明紅

文字の大きさ
上 下
14 / 33

未知と未開

しおりを挟む
このゲートを潜るって行為…オレはもう慣れた。
しかし、サラ達には当然初めての事だったから、潜るのにかなり躊躇していた。
特に男の方が…(笑)

ゲートを潜って最初に目にした景色は、それまで居た茶色中心の殺風景な場所ではなく、つい先日旅立ったオリバー邸の前庭だ。

サラ達にとっては見た事もないであろう、綺麗に整備された庭とその向こうに建つ大きな屋敷。

目の前に広がる光景だけで、自分の気持ちに素直に興奮しているサラの横で、一見冷静を装ってはいるが、キラキラした目だけで、しっかりと周囲を観察している付き添いの男。
その対照的な二人を見ていると、ジワジワと笑いがこみ上げてきた。

「リリア様、ハジメ様。おかえりなさいませ。」
オレたちが帰って来たのが分かったのか屋敷の中から、いつもオリバーの身の舞うりの世話なんかをやっているメイドさん的な女性が出迎えてくれた。

「そちらの方は?」
「あぁ、客人だ。オリバーさんはまた下に居るのかな?」
「いえ、自室にいらっしゃいますよ。どうぞ。」
そう言うと、メイドさんはオレたちを引き連れて、オリバーの部屋まで案内してくれた。

「なぁリリア、あのメイドさんってオレと同じ感じなのか?」
「ん?そうだよ。どうして?」
「いや…ちょっと気になってな。」
何が気になったかというと、前にこの屋敷にきた時にいたメイドさんと姿形は同じなんだけど、何か違和感というか何というか…得体のしてないものを感じていたからである。

「どうしたの?」
「…いや、あの人って前からいたっけ?」
「居たよ…。あぁそういう事ね。あの人はね、時々中の人が入れ替わるのよ。」
「え?」
「ほら、創くんのそれもそうだけど、あの体は医療用って言ったでしょ?」
「うん。」
「でもあの身体は汎用タイプだから、何人かの意識を定期的に入れ替えてるのよ。」
「…そんな着ぐるみみたいな使い方してるんだ…。」
「着ぐるみ?まぁ、知ってるだろうけどココの仕事って大変でしょ?だから数人でローテーションしてるのよ。」
ますます着ぐるみのバイトみたいだ…。

しばらく屋敷の中を歩いて、先日招かれたオリバーの部屋に通された。

部屋に通された瞬間、思わず目を疑った。
リリアの反応も同じ様で、小さく「え?」っと言ったきり次の言葉が出てこない。
目の前に居るのが本当にオリバーなのか確信が持てない。
確かにその特徴はオリバーなんだが、白髪じゃ無い…。
髪を染めたって感じではなく、見た感じもかなり若い身体みたいだった。

「ど…どう言うことですか?」
オレの口から、何とか絞り出した言葉がそれだった。

「はっはっはっ。驚いとるな。そーじゃろそーじゃろ。これが本来のワシの身体じゃ。」
「お師匠様…。まさかそ…それは生体なんですか?」
リリアが恐る恐る聞いている。
どうやら、オリバーの生身の体が動いているところを見るのは初めてな様だ。

「うむ。約100年ぶりの生身の体じゃ。前にも言ったが、ちょうど新しい器に変える時期だったんじゃがな、柱の機能を止めたじゃろ?だからもう器じゃなく生体で余生を過ごそうかと思ってな。」
「オリバーさん、その身体って…。」
「ん?あぁ心配は無いぞ、別に死期が近いわけでも無いし、病気の進行も止まっとる、それに肉体の劣化もしておらん。昔ののままだ。」
見た感じ50歳かそこらにしか見えない…そりゃ若いはずだ、前の器は100歳前後って感じだったもんな。

「でもその姿で、その喋り方ってのが違和感ありまくりなんですが(笑)」
「それは仕方ない。もう数百年使っとった言葉じゃしの、簡単には抜けんわ。ところで、その二人は?」
オリバーのあまりの変わりように、言われるまで連れてきた二人のことをすっかり忘れてしまっていた。

「お師匠様、聞いてください。海の向こうには人が生きてます。この二人は海の向こうで出会った方達です。」
リリアは少し興奮気味にオリバーに説明していた。

サラたちはと言うと、オレたちの会話よりも部屋の中にあるもの全てがきになるようで、落ち着きなく色々な所に視線を送っているのがわかった。
「君たち、そんなに珍しいかね?」
そう言うオリバーも連れてきた二人のことを、頭の先から足の先まで舐め回す様にじっくりと観察している。

「珍しいと言うか…見たことも無いモノがそこら中にあるから…。」
雰囲気に圧倒されながらもサラはそう返した。

オリバーは、ひとしきり二人を観察して、やっと二人に話し掛けた。
「いや、すまんすまん。珍しそうにしていたのはワシの方だったな。」
その後オリバーは、しばらく二人から向こうの状況を聞いていた。
サラから出てくる言葉を片っ端から事細かにメモししている。
まぁそうだよな、この大陸以外には人は住めないって事になってたわけだもんな。
それにしても、あの村に300人程度住んでるって言ってたけど、他の場所には実際どのくらい居るんだ?

「…では、君たちの住む村の東には大きな都があると言うのだな?」
「そうだ、私の父はひと月ほど前に都からの使者と共に村を出たからな。」
「その東の都は文化レベルと言うか技術と言うか、どんな生活をしているかわかるか?」
「文化?あぁリリアや創が言うような化学とか魔法とか言うモノか?そんなモノは聞いたことがない。」
「そうか…。」
「なぜそんなことを?」
「いや、我々と同じ境遇の者たちなら近い技術力を持っていても不思議ではないからの。まぁもしそんな技術があればこちらの大陸に渡ってくるものも居ただろうしな。」

だよな、人間の好奇心ってのは底が知れないものだ。
海の向こうに何があるかって気にならないはずがない。
まぁ。サラが言うには海竜のいる海を渡るための船がないってのが最大の理由なんだろうけど、想像するに恐らく過去に何かあったんだろうな。
それで、こっちの大陸と同じく海を渡るのは禁忌とされていたって所か?
オリバーのサラへ対しての興味は尽きることなく、その後も食事を挟んで深夜まで続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...