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第十八話

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バーベキューも終わり、コンロをテントから離れたところに移動させ炭に水をかけておいた。

夜もすっかり更けてきて満月になりきれてない月が眩しいくらい輝いていた。

暗くなったキャンプ場での話しはことの外か盛り上がる。
大抵誰かが怪談を始めるんだよな。

「ねぇ知ってる?この先に駐車場があるでしょ?」
まさか蒼ネエが怪談を始めるとは思わなかった。
「あの駐車場からちょっと登った所に展望台があるでしょ?」
皆無言でうなづいている。
「出るんだって、あそこ…。」
「なにが出るって?」
「もう雰囲気壊さないでよサトル。話の流れで出るって言ったら幽霊でしょ。」
「幽霊ってどんな?」
「女の人なんだって、夜にその展望台に行くと寂しそうに遠くを眺めて佇んでるって…。」
ホントかなぁ?
なんか怖がらせようとして、思いつきで言ってるだけみたいだけど…。

「じゃぁさ、肝試しとか行ってみる?」
成瀬が在り来たりな提案をしてきた。
「えー…だって蒼ネエの作り話でしょ?」
「作り話じゃないよー。友達に聞いたんだもん…。」
そう言って不貞腐れた。

「蒼ネエの話しってリアリティが無いんだよなぁ。」
「だって折角のキャンプでしょ?しかも夜だしさ、盛り上げたいじゃん」
「だからって…(笑)」
「いや…その場所じゃないけど、俺も聞いたことあるよ。」
保田が凹んでる蒼ネエに助け舟を出す形で話し始めた。
「ほら、ここに登ってくる途中の大きくカーブしてる所あったじゃん?」
大きなカーブ…あそこかな?

「あのカーブの所って今はガードレールで塞がれてるけど、前は何台か車が停められるスペースになってたらしいんだ。」
あぁやっぱりあそこのカーブの事だ。
確かに大きなカーブの所に不自然にスペースがあってそこを塞ぐようにガードレールが置いてあったな。

「昔は車を停めてカップルなんかが夜景とか見てたらしいんだけどさ…そこで夜景をみたカップルが帰りに事故を起こして亡くなったらしいんだ。それから出るらしいよ…。」
「ど…どんなのが?」
蒼ネエがちょっとビビりながら聞いた。

「夜景を眺めるカップルの幽霊が出るんだって…。」
蒼ネエの唾を飲み込む音が聞こえた。
エリーも八尋も色々と想像してるいんだろう、話し始めた時は、並んで座っていただけだったのに、今は手を握りあっている。

この程度の話で怖がるんだ…じゃ俺もなんか話そうかな…っと思ったけどネタがないや…(笑)

「ねぇ、月明かりがあってもこんな夜に流石にその場所までは行けないからさ、そこの丘の上から夜景とか見ない?」
佐波井がキャンプ場の脇にある小高い丘を指差した。
それは、丘と言うより土手みたいな形で、キャンプ場と周りの空間を遮断する様に人工的に配置されていたら。

全員でその丘に登ることにした。


§


「すげー!」
思わず成瀬が声をあげた。
確かになかなかの絶景だ。
丘のすぐ下は月明かりに照らされたカルスト台地、そのすぐ先に街明かり、さらに先には海が広がっている。
そして見上げると満点の星空。
それは空と地上の境目が解らない程の景色が広がっていた。

「凄いな…。」
「キレイ…。」
「星がいっぱいだ…。」
それぞれ感じた事を口に出していた。

「いつまで見てても飽きないな。こんな絵を描いてみたい…。」
流石美術部と言ったところか、保田が呟いていた。
そんな保田の横に、いつの間にか八尋が立っていた。

さっき確認したんだけど、やっぱり佐波井の企み、今回のキャンプの裏企画『保田と八尋をくっつけるぞ作戦』ってのをやっているらしい。
まぁバレバレだけどな。

「あっ流れ星!」
保田の横に立って空を眺めていた八尋が流れ星を見つけたみたいだった。
「え?どこ?」
蒼ネエ…遅いよ。
流れ星なんて大抵『見つけた』って言った瞬間にはもう消えてるんだから…(笑)

「ねぇちょっと冷えない?」
「確かにちょっと肌寒いね。」
佐波井と蒼ネエが言う様に、真夏だけど山の夜は確かに寒いな。
「じゃそろそろテントに戻ろうか?」

丘を下ってテントに向かっているとスマホが鳴り出した。
ピコンッピコンッと聞いたことのない音。
何の音か解らずにズボンのポケットからスマホを取り出してみた。

「あ…。」
音の主は魔道アプリだった。

まさかと思い開いて見ると、すぐ近くにキビナーが近づいて来ているとの警告音だった。

この位置だと後方500メートルほどの距離、丘の裏側の道を挟んで向こう側くらいだな。

すぐ前を歩くエリーに声を掛けようか迷っていると警告音が消えた。

誤作動か?
でも用心に越したことはないよな。
「なぁエリー、ちょっといいか?」
「ん?」
「言うべきか迷ったんだけどな、近くにキビナーが迷い込んでるみたいなんだ。」
「キ…キビナーだと?」
「ああ、お前がこっちの世界にくる切っ掛けになった…。」
「………。」
エリーはその事を思い出したのか俯いてしまった。
「どうする?退治しに行くか?それとも…。」
「………。」
完全に黙ってしまった。
『無視するな。皆とテントで待ってろ。多分俺一人でも大丈夫だ、魔道アプリもあるし。」
「………。」
やっぱり怖いよな、そりゃ転生したとはいえ、自分を殺したモンスターだもんな。
「成瀬…悪い、ちょっと忘れもんした。熱いコーヒー淹れといてくれ。」
ちょっと前を歩いていた成瀬に声を掛けて、また丘を登って行った。
「おう、何忘れたのか知らないが、旨いコーヒー淹れとくから早く戻ってこいよー。」
背中で成瀬の声を聞きながら、エリーに『お前は来るなよ。』と小声で言った。


§


丘の反対側の斜面に差し掛かった瞬間、再び魔道アプリが鳴り始めた。
さっきよりも警告音の間隔が短い、どうやら近づいてるみたいだ。
アプリを開いて確認してみると、100メートル圏内にキビナーが居るのがわかった。
テントを張って居るあたりにもう一つ強い反応が有るのはエリーだろう、ちゃんとまで戻ったみたいだ。

早速アプリのアイテムから短剣を召喚して攻撃に備えた。
警告音で気づかれると逃げられる可能性もあるから、とりあえずマナーモードに切り替えた。
左手にスマホを持ち、右手で短剣を構え近くに居るはずのキビナーを探してみる。
すると前方の離れた場所から昆虫の羽音にも似た…でも余りにも大きく不自然な羽音だ…間違いないキビナーだ。

「近いぞ…どこだ?」
目を凝らしてもその存在を確認できない。
「くそっどこだ?………居たっ!」

10メートルも離れてない、すぐ向こうの石灰岩の前に紅い目をした巨大な昆虫…大きさ的には人間の赤ちゃんくらいだろう、蜂の様な外見だけど頭の中央にはナイフの様な角があり、身体には無数の短い足があり、二本の長い後ろ足と刺されたら確実に致命傷を負いそうな鋭い針が見える。

「デカイ…もっと小さいヤツだと思ってた…確かにこんな怪物が大群で襲って来たらひとたまりも無いな…エリーに同情するよ…。」

キビナーは明らかにこちらを認識して攻撃体制に入っている。
いつ襲いかかって来てもおかしくない。
お互いにジワジワと距離を詰めながら隙を伺う。
「来る!」
そう思った瞬間キビナーが真っ直ぐ飛んできた。

真っ直ぐ飛んで来る的には正面から立ち向かうのは得策じゃない。
ギリギリのところでキビナーの右側に回り込んで短剣を振り下ろした。
短剣の切っ先が羽に当たった感触があったが手応えはない。

どうする?
何処を攻撃すれば効果があるんだ?
再び距離を取って対峙したキビナーの複眼に俺の姿が映る。
よく見ると、右眼にキズがあるようだ。
見たところ、だいぶ前についたキズみたいだ。
よし、次は左側に回り込んで攻撃してみるか…。

左手に握ったままだったスマホをズボンのポケットに入れ、短剣を左手に持ち替えてゆっくりしゃがんで足下の小石をいくつか拾った。
「公園の犬の時とは訳が違うだろうけど…。」
拾った小石を纏めてキビナーに投げつけた。

投げた小石の一つが上手くキビナーの右眼に当たった。
それに怒ったキビナーはまた真っ直ぐ飛んで来る。
すかさず左側、つまり小石の当たったキズのある右眼側に回り込んで短剣を真横に薙ぎ払った。
今度は手応えがあった。
右眼の下辺りから羽の付け根に掛けて、ザックリと切る事ができた。
キビナーはもんどり打って地面に叩きつけられた。
「よしっ!」
地面に転がったキビナーはジタバタともがいている。
トドメを刺そうと、近づいたその時だった。
鋭く尖った針がキビナーの身体から、まるで弾丸のように放たれた。

「えっ?」
刺された…と思った瞬間目の前を覆う黒い影が見えた。

「サトル、大丈夫か?」
エリーだった。

エリーはキビナーが放った針を杖で交わして間髪入れずに魔法で燃やし尽くした。

「悪りぃ、助かった。お前こそ大丈夫か?」
「…あぁ、成瀬がコーヒーを淹れて待ってるぞ、早く戻ろう。もうキビナーはいないんだろ?」
アプリで確認してみると、エリーの反応以外近くには魔力の反応はなさそうだ。
「大丈夫そうだ、じゃ戻ろうか?」
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