上 下
163 / 168
8

8-19

しおりを挟む
「聖女・・・!?聖女だと・・・!?
ミランダ、お前・・・聖女なのか・・・!?」 



ジルゴバートが真っ赤な目をもっと見開きミランダに叫んだ。
それにチチは大きく笑った。



「こいつのことを抱いてたんだろ?
胸の間の刻印に気付かなかったのか?」



「あの人、いつも侍女の姿のままの私を抱いていたから・・・。
それに・・・部屋が暗くない限りは気付かない・・・こんな花の刻印なんて気付かない・・・。」



ミランダがそう言って、チチの胸に顔を埋め、両手をチチの背中に回して叫んだ。



「その場に咲いていたヒヒンソウの花を抜いて求婚するとか、そんなことある!?
隣国との戦を終えて血塗れで帰って来たからって、今回は危なかったと思ったからって、ヒヒンソウの花とか酷いんだけど!!!」



「でも受け取っただろ。」



「受け取りますよ・・・!!
それは受け取りますけど・・・!!
たまたま切った指から血が出ていた手で、この胸の真ん中で受け取りましたけど!!
なんならその場でキスまでしちゃいましたけど!!」



叫びながら顔をチチの胸から離し、ソソのことを今度は怒り始めた。



「私の娘にもヒヒンソウの花を渡して求婚したっていうこと!?
やっぱり貴方が育てた男!!
信じられない!!!」



「いや・・・でもあの時、ヒヒンソウの花しかなくて・・・。」



ソソが小さな声で言い訳をすると、ミランダはまた何かを言おうと口を開いた。
でも、それよりも先にジルゴバートの叫び声が響く。



「聖女は王族と結婚しないといけないだろ・・・!!
何故俺と結婚しなかった!!!
何故そんな男と結婚した!!!
いつもいつもいつも、王族であるクラストのことも俺のこともバカにしていたそんな男と!!!」



「相変わらず煩い男だな、ルーヤス。」



「その名で俺のことを呼ぶな!!」



「俺くらいしか呼んでやらないんだから感謝しろよ。」



チチが物凄く楽しそうな顔でジルゴバートに笑い掛ける。
訓練をしている時のチチと同じ顔をして。



「それはバカにしたくもなるだろ。
ただの公爵家の人間の俺が、何で王族のお前達より王の器を持ってるんだよ。
もっと頑張れただろ、お前達。」



チチの言葉にはジルゴバートが固まり、マルチネス王妃が吹き続ける笛の音だけが王座の間に響く。



チチの言葉には私も驚いていると、最初に声を出したのはミランダだった。



「私だって王の器を持ってるもん。
何よ、自分が1番持っているからってバカにして。」



「バカにはしてないだろ。
でもお前達の王の器を見ていると、先代の国王が頭を抱えながら悩んでいる姿を思い出して笑えてくる。」



チチがそう言って、ジルゴバートのことを指差した。



「ちゃんと微かな光りはあったはずなのにな。
今はその光りもなくなった。
ロンタス王に憧れていたお前を想い、先代の陛下はお前に王位継承の権利を与えなかった。
ロンタス王も王位継承の権利がない国王だったからな。」



チチがミランダの身体から手を離し、弾き飛ばされていた剣を拾い上げゆっくりとジルゴバートの元に歩き剣を構えた。



「クラストを貶めるくらいの力をお前はちゃんと持てていたのに。
力の使い方を誤ったな、ジルゴバート。
お前のその力のせいで・・・俺達が最善の判断が出来なかったせいで、多くの民が死んでいった。」



「・・・まだまだ民はいる!!
俺の為に税を納める民が沢山いる!!
俺に税を納められない民は死んでいったって構わない!!
この王国の為にならないのであれば死んだ方が良い!!!」



「もっと早く気付くべきだったな、お前の心がそんなにも腐ってきていたことに。
ミランダが俺と結婚したことによって更にお前の心をダメにしたんだろう。
俺が責任を取る・・・。」



そう言って、チチが大きな剣を振り上げた。



その瞬間・・・



私は翔た。



聖女となり身体能力が向上した身体で翔た。



そして、ジルゴバートの前に。



右手に握り締めていたナイフでチチの剣を受けようとしたけれど、それは間に合いそうになかった。



でも、聖女になった私は死なない。
死ぬことはない。



だからこの身体でチチの剣を受けようとした。



受けようとしていた・・・。



なのに・・・



「ソソ・・・っ!!!」



ソソが私の身体を押し・・・



そして・・・



そして・・・



チチの大きな剣を、右手で持つその大きな剣で、受けた。



それを見て・・・



チチの全身全霊の剣を受けても傷1つ付くことはなかったソソを見て・・・



それを確認してから、私は口を開いた。



「「このまま次の人生には行かせない。」」



この口から出てきた言葉はソソの言葉と重なった。



ソソの大きく大きくなった背中を見詰めていたら、気付いた。



これまで特に気にしたことはなかったけど、気付いた。



ソソはこんなにも輝いていた。



月明かりの光りで照らされていたからでもなく、太陽の光りで光っていたわけでもなく、ソソはこんなにも眩しいくらいに光っていた。



思わず目を閉じてしまうくらいに眩しく・・・



天井窓から見える太陽の光りよりも強く・・・



強く、強く、強く、どこまでも強く・・・



光り輝いていた・・・。



漆黒の髪も輝く程に・・・。
























「“ヒヒンソウ”・・・。」




血塗れではないその姿でも、私の口からはその名前が出てきた。




どんな場所でも咲く強い花、“ヒヒンソウ”の名前が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...