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「それでもナンフリークを国王陛下の代理とするなら、その聖女だとかいう女と結婚したとしても、貴方に実権があるという明言の刻印を私が押してあげてもいいわよ?」



マルチネス王妃の言葉にジルゴバートが勢い良くカルティーヌの方を見た。
虚ろな目をギラギラと輝かせ、俺とミランダの後ろに隠したカルティーヌのことを舐めるような目で見ている。



「約束する・・・!!
ナンフリークを国王陛下の代理にする!!!
国王陛下の代理として必要な、マルチネス王妃の刻印と太陽の刻印が揃えば、俺はどんなことでも出来る・・・!!
騎士団を動かす以外なら、俺はどんなことでも出来るんだ・・・!!」



いつも以上に普通ではなく、狂ったかのような様子で興奮し始めたジルゴバート。



「カルティーヌ、下がってろ。」



俺の言葉にミランダが素早く動き、カルティーヌを後ろに連れていくのを気配で感じ取る。



「ステル、やめろ。
王族同士だとしても国王陛下の代理であるこいつを殺せば謀反になる。」



モルダン近衛騎士団長が剣を抜き、ジルゴバートに剣を向けている俺に剣を向けた。



「新婚だからな、お前。
今なら愛する妻を取られそうになりパニックになった、それくらいで済ませられる。」



そんな言葉でこの場をどうにかしようとしている意図は分かるけれど、俺は構わず口を開いた。



「俺の妻には指1本触れさせない。
妻になった女も夫となった男以外に、そういう意味での指は1本でも触れてはいけない。
インソルドでの夫婦とはそういうものだった。
離縁なんて言葉は存在すらしていない。」



カルティーヌは本当に“ルル”だった。
地獄のような光景の中にいた民達のことを思い、最善を尽くそうとカルティーヌと子作りしようとした。



そしたら、いた。



“ルル”がいた。



姿は変わっているけれど、カルティーヌの姿の中には“ルル”がいた。



“ルル”は生きていた。



“ルル”は滅んでなどいなかった。



むしろもっと強く強く強く、どこまでも強い太陽の光りを持って俺の前に現れてくれた。



“ルル”の心は他の男の元にあるけれど、身体だけでも俺にくれている。



“戦友”としてだけど、俺にくれている。



そう思いながらジルゴバートに言った俺を、ジルゴバートはバカにしたように大きく笑った。



「でもお前、本当は聖女に指1本触れることが出来てないんだろ!?
だからミランダが毎夜のように見届け役をしているのは分かってる!!
これまで好きな女を言い訳に、騎士としてしか生きてこなかったということは俺だって報告を受けている!!
女との子作りの仕方を知らなかったか!!
それとも不能か!?
クラストの血は流れていないはずなのに、お前も不能なのか!?」



そんなことを言い出したジルゴバートは俺の向こう側に視線を移した。
舐めるようなジルゴバートの目を確認し、その目はカルティーヌを映しているのだと分かる。



「・・・ああ、それとも指だけではしてみたか?
指1本くらいは聖女の中に入れてみたか?
その女は処女みたいだからな、本当に美しくて可愛い。」



厭らしい目付きで上から下に視線を動かしているジルゴバート。
それを見て俺は剣の柄を握り締める右手に力を込めた。



そしたら・・・



ジルゴバートが人差し指を1本立て、俺の方をバカにしたように笑いながら見た。



「そういえばお前、インソルドから王宮に逃げてきた時はアソコがこれしかなったよな?
インソルドで奴隷のように扱われ服を着ることも許されず、大怪我までして血塗れ、素っ裸で王宮まで逃げてきて。」



俺がここに戻った日のことを話し出したジルゴバートは、自分の人差し指を舌でねっとりと舐め始めた。



「王族である俺の下半身があればその女もすぐに俺から離れられなくなる。
夫がいたことに苛立つこともあるが、お前の妻のことも俺がちゃんと愛してやるから安心しろ。
愛し愛されて、そして愛し合う。
これ以上に気持ち良い性行為はないぞ?」



その言葉を聞き、それには俺の胸が勝手に苦しくなってくる。



「お前が初めて愛したのはその女か。
だが諦めろ、お前は誰からも愛されない。
黒髪持ちのお前のことを心から愛していたのはお前の母親くらいだろ。
クラストからも棄てられ、そしてお前を逃がした近衛騎士団長からも棄てられた。
拾ってやったのは俺だけだぞ?」



ジルゴバートが人差し指から視線を移し、俺を見詰めた。



「お前がどんなに愛してもその女から愛されることなどない。
その女と愛し合えることなどない。
どの男の種かも分からない、国王をも惑わす迷言を言う女の腹から黒髪持ちで生まれた可哀想な奴だよ、ステル。
“棄てる”と名付けられた可哀想な皇子だよ、お前は。」
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