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「ステルがそんなことを言うなんて驚いた・・・。」



俺の1番近い席に座っているナンフリークが驚きの声を上げた。
俺にもマルチネスにも似ていない濃い金色の髪の色を持つナンフリークが。



「これまでステルは女性に興味がないみたいだったからさ。
ステルはああいう女性が好みだったのか。」



ナンフリークが穏やかに笑いながらそう言っていて、それにステルは深く頷いた。
それには思わず吹き出してしまった。
ステルはゴリラのような女が好みだったと知り、今まで変に疑っていて申し訳なかったとさえ思った。



ステルの登場には俺は少しだけ驚きはしたけれど、重鎮達は誰も気にした様子はなかった。
それから滞りなく議会は進んでいく。



「本日の夕刻、応援に行っていた近衛騎士団が戻って参ります。」
 


1番端、ステルの向かい側に座っているマドニスがそう報告をしてきた。
随分と禿げ上がった頭で、丸まった背中のまま。



俺の父の代から宰相をしていたマドニス。
排除したかった・・・。
俺はこの男のことも大嫌いだったから・・・。



それでも排除が出来なかった・・・。



近衛騎士団を動かせるのはこの男だけだったから。
クラストが消え失せる前に明言してしまったから。



“近衛騎士団への命令権をマドニスに預ける”



クラストが明言したものはそれだけだった。
黒髪の子どもを生ませた可能性があるクラスト。
仮にクラストの子どもでないとしても、王族の中に黒髪の子どもを入れる原因を作ることになったクラスト。
王国を滅ぼそうとしているクラスト。



クラストは“あの後”、この重鎮議会に戻ることはなかった。
部屋でエリナエルがそのまま力尽きて死んだから。



その間にクラストの権力は地に落ちていた。
俺の下にいる重鎮達の力によって地に落とされていた。
なんとも呆気ないモノだった。
古くからの重鎮の数にも負けない数の重鎮が俺の下にいた。
こんなにもいた。



その後はクラストが何を言っても、何を命令しても意味を成さなかった。
その命令で動く者がいなければ国王陛下などただの置物でしかなかった。



なのに・・・



“近衛騎士団への命令権をマドニスに預ける”



この明言はマドニスと近衛騎士団によって実行された。



持っているのに・・・。



俺は今、この右手に国王陛下だけが押すことの出来るサンクリア王国の刻印を持っているのに・・・。



太陽の刻印を持っているのに・・・。



その刻印を、右手を開き確認した。
弱り果てたクラストの首に下げられた刻印を奪い取ることはあまりにも簡単だった。



その時は思いもしなかった。



“近衛騎士団への命令権をマドニスに預ける”



そんな明言を残していたなんて、思いもしなかった。
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