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「松戸先生ってプライベートではどんな人なの?」



定時後、鞄を持ち上げた私に佐伯さんが聞いてきた。
その質問には凄く凄く嫌な気持ちになったし、やっぱり怖いとも思った。



「悪いところしかないよ。
今日のは外面用だから良さそうに見えるだろうけど、本当は悪いところしかない人だから。」



「そうなんだ・・・。」



「32歳なんてオジサンじゃん。
佐伯さん若くて可愛くて綺麗なんだし、何もオジサンを狙うことないじゃん。」



私がそう言うと佐伯さんが意地悪な顔で私のことを見てきた。



「高校生の時にそのオジサンを好きになったのはアナタでしょ?
当時なんてもっと格好良かったんじゃないの?
それも国光さんが松戸先生の従妹なら、アナタ見た目ソックリでしょ。
それで高校生のアナタが好きになるとか無謀すぎる。」



「別に好きだったわけじゃないから。」



あの頃は本当に気付いていなかった。
気付いたのは朝人と会えなくなってからだった。



「そっか、悪いところしかないオジサンだったんだもんね?」



「たまには良い人だったよ。」



私が答えると佐伯さんがクスクスと可愛い顔で笑い始め、それからデスク端に置いていた先生の名刺を名刺ホルダーに入れていた。



「あの人、打合せ中は私のことばっかり見てたの知ってる?
ごめんね~、アナタ今日は気合い入れた格好してきたのに、可哀想。」



「あんなオジサンなんて別に狙ってないからどうでもいい。」



泣きそうになるのを我慢しながら佐伯さんに背中を向けて歩き出した。
こんなに高いヒールの靴を履いたのは初めてで。
爪先も足の裏もかかとも痛くて、痛くて、痛くて。



それでもしっかりと歩きながら“朝1番”だったところへと帰った。



先生がここに帰ってくると言っていたから。



先生が私のご飯を食べに帰ってくるから。



それなら出来るから。



先生が大好きなご飯を作ることなら出来るから。



私が先生のご飯を作る限り、先生はここに帰って来てくれるはずだから。



あとは私のことを見てもらうだけ。



私のことを大人の女として見てもらうだけ。



そう考えながら、ボロボロの実家の私の部屋の中、綺麗で大人っぽいワンピースを脱いでいく。



まだ似合わないらいしから。



ガキの私にはまだ似合わないらしい。



先生だけではなく社内の男の人達からも散々言われてしまった。



「胸だけでも成長して欲しかったな・・・。」



何もビックリさせることは出来なかった。



「いや、ビックリしてたか・・・。
佐伯さんのことを見てビックリして・・・だから佐伯さんのことばっかり見てたか・・・。」



和泉かおりの若い時にソックリな見た目の佐伯さん。
“凄くタイプ”らしいので、先生は佐伯さんのことばかり見ていた。



私のことを見ることはなく。



打合せ中、1度も見ることはなく。



佐伯さんのことばかり見ていた。



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