90 / 202
5
5-27
しおりを挟む
そう答えた私に、朝人は私を真っ直ぐと見詰めたまま小さく何度も頷いた。
「今までご馳走さま。
すげー旨かった。」
「うん。」
「千寿子はどうだった?」
「何が?」
「どっちが上手かった?」
「旨いって?」
私が聞くと朝人は私のことをバカにしたような顔で笑った。
「忘れてんじゃん。
俺は忘れてないのに。
忘れることなんて出来なかったのに。」
「何を?私何か忘れてた?」
「俺だけが覚えてればいい。
千寿子は一生忘れてろ、その方がいい。」
朝人がそんなことを言って、またゆっくりと私に背中を向けた。
そして歩き出した朝人の背中を眺め・・・
私は思わず声を掛けた。
「朝人!家こっちでしょ?」
あの立派なマンションとは反対に向かった朝人に声を掛けると、朝人はゆっくりと立ち止まり小さく笑った声が聞こえてきた。
それからまた私の方を向いてきて、その顔は悲しそうな顔をしていた。
「25歳の時に戻りたいと思ったら、無意識にアパートがあった方に歩いてた。」
「25歳の時に戻りたいの?」
「戻りたい。
生まれ変わるんじゃなくて戻りたい。」
「そうなんだ?
私は高校1年生の時に戻りたくないけどな。」
「うん、お前はそのままでいいよ。
千寿子。」
「何?」
「お前には見せたことなかったけど、俺25の時なんてマジで格好良かったから。」
「何の自慢?キモいんだけど。」
「いや、マジで。
お前が働いてるあのデカイ会社、そこの奴らの中でも断トツで格好良かった自信しかねーから。」
「はいはい、過去の栄光ね。」
今でも充分過ぎるほど格好良い見た目の朝人の自慢にはムカつきながらも答えた。
「朝人だけが25歳に戻れてたら、付き合えて結婚も出来たかもね。」
結婚願望も出産願望もないと言っていた佐伯さん。
その佐伯さんを思い浮かべながら言うと、朝人はめちゃくちゃ苦しそうに笑った。
「俺があと10年遅く生まれてたら絶対に口説きまくってた!!!
千寿子にも見せておけばよかった!!!
1度でもちゃんとした格好でお前に会いに行けばよかった!!!」
「うん、見ておけばよかった。」
そしたら“あの日”、朝人のことを好きだったと気付くこともなかったと思うから。
こんな無謀で虚しいだけの恋をしないで済んだかもしれないから。
「もうオジサンなんだから早く寝なね!!
明日何してんの?」
「可哀想なオッサンは日曜日の予定なんて何にもねーよ!!
お前だって知ってるだろ!!」
「ね、うちに泊まるようになってからは日曜日なのにいつもゴロゴロしてたよね?」
「日曜日だけは朝からゆっくりしてられる日なんだよ!!」
そんなやり取りをして、今度はちゃんとあの気取ったマンションに朝人は歩いていった。
今年34歳になる朝人が。
明日の日曜日で34歳になる朝人が。
「今までご馳走さま。
すげー旨かった。」
「うん。」
「千寿子はどうだった?」
「何が?」
「どっちが上手かった?」
「旨いって?」
私が聞くと朝人は私のことをバカにしたような顔で笑った。
「忘れてんじゃん。
俺は忘れてないのに。
忘れることなんて出来なかったのに。」
「何を?私何か忘れてた?」
「俺だけが覚えてればいい。
千寿子は一生忘れてろ、その方がいい。」
朝人がそんなことを言って、またゆっくりと私に背中を向けた。
そして歩き出した朝人の背中を眺め・・・
私は思わず声を掛けた。
「朝人!家こっちでしょ?」
あの立派なマンションとは反対に向かった朝人に声を掛けると、朝人はゆっくりと立ち止まり小さく笑った声が聞こえてきた。
それからまた私の方を向いてきて、その顔は悲しそうな顔をしていた。
「25歳の時に戻りたいと思ったら、無意識にアパートがあった方に歩いてた。」
「25歳の時に戻りたいの?」
「戻りたい。
生まれ変わるんじゃなくて戻りたい。」
「そうなんだ?
私は高校1年生の時に戻りたくないけどな。」
「うん、お前はそのままでいいよ。
千寿子。」
「何?」
「お前には見せたことなかったけど、俺25の時なんてマジで格好良かったから。」
「何の自慢?キモいんだけど。」
「いや、マジで。
お前が働いてるあのデカイ会社、そこの奴らの中でも断トツで格好良かった自信しかねーから。」
「はいはい、過去の栄光ね。」
今でも充分過ぎるほど格好良い見た目の朝人の自慢にはムカつきながらも答えた。
「朝人だけが25歳に戻れてたら、付き合えて結婚も出来たかもね。」
結婚願望も出産願望もないと言っていた佐伯さん。
その佐伯さんを思い浮かべながら言うと、朝人はめちゃくちゃ苦しそうに笑った。
「俺があと10年遅く生まれてたら絶対に口説きまくってた!!!
千寿子にも見せておけばよかった!!!
1度でもちゃんとした格好でお前に会いに行けばよかった!!!」
「うん、見ておけばよかった。」
そしたら“あの日”、朝人のことを好きだったと気付くこともなかったと思うから。
こんな無謀で虚しいだけの恋をしないで済んだかもしれないから。
「もうオジサンなんだから早く寝なね!!
明日何してんの?」
「可哀想なオッサンは日曜日の予定なんて何にもねーよ!!
お前だって知ってるだろ!!」
「ね、うちに泊まるようになってからは日曜日なのにいつもゴロゴロしてたよね?」
「日曜日だけは朝からゆっくりしてられる日なんだよ!!」
そんなやり取りをして、今度はちゃんとあの気取ったマンションに朝人は歩いていった。
今年34歳になる朝人が。
明日の日曜日で34歳になる朝人が。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる