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会社のビルを出てカヤの姿を探していると・・・



「・・・っ!!」



腕に強くしがみつかれた。
それに驚き慌てて自分の腕を見ると、カヤが俺の腕にしがみついてきていた。
こんな風にされたのはバサマの葬式以来だった。



それには驚いたけど、それよりも何よりも・・・



「ガキがそんな格好しやがって!」



高校3年生が着るには大人っぽいワンピース、そしてヒールの靴を履いたカヤが、俺に見せたこともないくらい可愛い笑顔で俺のことを見上げている。



でも・・・



「お前ってスッピンがブスだよな~。」



「そんなこと朝しか言わないよぉ!」



やけに甘ったるい声でそう反論してきた。
スッピンになると大人っぽくなり妙に雰囲気は出るけれど、俺には全然可愛い顔には見えないからやめてもらいたい。



「気持ち悪い声だすな!!」



「ひど~い!!!
でも急だったのに会えて嬉しい!!
朝、ありがとう!!」



カヤからそんな言葉が出てくることに気持ち悪がっていると、カヤが・・・



「・・・なにしてんだよ!!
歩けねーだろ!!」



俺の腕にしがみつきながら、何故か顔を俺のスーツの腕の所に擦り付けてきた。



そして・・・



「だって私、朝のことが大好きなんだもん!!」



「はあ・・・?」



呆気に取られている俺を無視して、カヤが俺の腕を引いてきた。



「ご飯食べに行こう!!」



「何食いたいんだよ?」



「クリームソーダ!!」



「それ飯じゃねーし!!」



「クリームソーダがあるお店!!」



「いつまで経ってもガキだな!!
でも俺が通ってる定食屋の娘もクリームソーダが好きって言ってて、最近クリームソーダがある店が少ないって言ってたぞ?」



「どこにあるのか知ってるでしょ?」



「まあ・・・同僚と飯食った店にあったのを確認してはいる。
ちょっと歩くぞ?」



「朝!ありがとう!!」




カヤが大はしゃぎしながら俺の腕に絡まりながら歩き出した。



そして・・・



「いや、クリームソーダは?」



俺の目の前でアイスティーにガムシロップを入れたカヤがスンッとした顔で飲んでいるのに突っ込む。



「クリームソーダの気分じゃなくなった。」



「どんだけ気分屋なんだよ!!
さっきのテンション何なんだよ!!」



「二度は出来ないからね?」



「二度とすんな!!気持ち悪い!!」



「気持ち悪いのはそっちでしょうが。」



カヤが澄ました顔で腕時計を見下ろした。
それからジッとしているカヤをアイスコーヒーを飲みながら眺めていると、俺のスマホが震えた。



見てみると彼女からだった。



「誰?」



「彼女。」



「何だって?」



「体調悪いらしい。」



そう答えながらスマホを操作し、それからスマホをテーブルに置いてカヤを見た。
 


「それで、恋愛の話って何だよ?」



「うん、ちょっとね。
彼女には何て返事したの?」



「早く帰って早く寝るように返信した。」



「それだけ?」



「あとお大事にって。」



俺の言葉にカヤが面白そうな顔をして少しだけ笑いだし、俺のことを真っ直ぐと見てきた。



「看病に行ってあげればいいじゃん。
ポカリでも買って。」



「彼女の家知らねーし。」



「知らないの!?」



「知らねーよ、行ったことねーもん。」



「何で行かないの!?」



「出掛ける時は外で会ってるし。」



「車で送ってあげるとかもしてないの!?」



「そもそも車で出掛けてねーからな。
あれは家族の為に買った車なんだよ。
ジサマは乗せてないけどお前と美鼓をよく乗せてるだろ。
俺をパシリにしてくるから。」



「・・・私とお姉ちゃんだけしか乗ってないってこと?」



「オバサンも女子会に送っていったな。」



「ババ会ね・・・。」



カヤが静かに訂正し、それから呆れたような顔で俺を見てきた。



「朝、彼女が吐いた物をその両手で受け止めてあげられるの?」



そう指摘され・・・



それには苦笑いをしながらも答えた。



「まずはトイレに連れていく。」



「具合が悪くて歩けないかもしれない。
トイレまで間に合わないかもしれない。
朝・・・」



カヤが言葉を切った後に俺のことを心配そうに見詰めてきた。



「朝が吐いた物を彼女は両手で受け止めてくれるのかな?
朝のその口から吐き出した物、どんなに汚い言葉でもその彼女は両手でちゃんと受け止めてくれる?
朝は彼女の両手にちゃんと吐き出せる?」



そう言われ・・・



「恋愛の話って俺のかよ。」



「当たり前じゃん。」



即答され、それにも苦笑いをするしかなかった。



「彼女の父親が会社の代表だったんだよな。
それで北海道支社を立ち上げる支社長として俺に話があった。
・・・なんか色々めんどくせ~、彼女とも別れて転職しようかな。」



「ダメ。今の所は大手だし絶対に転職しない方がいい。」



「同業他社の大手に転職でもいいだろ。」 



「ダメ。北海道支社の立ち上げの話を受けて。
そっちの方が箔がつく。」



高校3年生のカヤがそれを簡単に言ってくる。



更に・・・



「30歳頃までには安定させて。
それで31歳の歳にはこっちに戻って独立して。」



「簡単に言うなよ。」



北海道に行くことになった俺がこっちに戻り独立した時、こっちの客がどれ程ついてくれるか微妙なところだった。



「上手くいくよ、大丈夫。」



カヤが力強くそう言ってきた。



「いるでしょ、“友達”が。
ただの顧客先っていうだけじゃない普通の友達が。」



「まあ、いるけど。」



俺が答えるとカヤが深く頷き、それから泣きそうな顔になってアイスティーを見詰めた。



「朝が独立したら私を入れて欲しい・・・。」



「カヤを?神社は?」



「そんなのはまだまだ先の話。
私、朝の事務所にどうしても入りたい。」



「どうしたんだよ?」



涙を溜めているカヤには少し焦りながら聞くと、カヤが目に涙を溜めたままその目に力を込めて俺を見詰めた。



「そしたら私も朝のことに協力する。
朝の元に福と富と寿が訪れるように、私が協力する。」



「まあ、カヤが俺が独立した事務所にいるなら福も富も寿も可能だろうけど・・・。」



それだけではなさそうなカヤの雰囲気を感じ、でもカヤはもう口をキツく閉じている。
これ以上は言えないことなのだと思い、カヤの口に血が滲まないうちに俺は頷いた。



「分かった、やるよ。
代表の娘である彼女とは上手く別れて、北海道支社の立ち上げは成功させるっていうめちゃくちゃ難しい道を選んでやるよ、ブスな従妹の為だもんな。」



「そこは可愛い従妹の為、でしょ!?」



「お前全然可愛い顔してねーだろ!!」
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