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翌日



いつもの常連さんを5時に見送り、あとは“朝の人”、松戸朝人という名前だったオジサンが来るのを待つだけとなった。



今日こそは“美味しい”と言わせられるような料理を作ろうと意気込みながら待っていた。



うちのお店、その扉からオジサンが入ってくるのを待っていた。



でも・・・



5時半になってもオジサンが来ることはなかった。



「今日の分の毎度ありがとうございます、貰っちゃったのにな・・・。」



6時になっても現れることはなかったオジサン。
あのオジサンは日曜日の定休日以外毎朝来るオジサンだった。
他の常連さんだってそこまで毎日は来ないのに、あのオジサンだけは本当に毎朝来てきた。
だから我が家では“朝の人”と呼んでいた。



「何かあったのかな、大丈夫かな・・・。」



お客さんからしてみたら私はただの定食屋の娘でしかないだろうけど、私からしてみたら朝の常連さんは身内のような感覚になってしまっていて。
本当の家族ではないけれど、私が作る朝ご飯を頻繁に食べてくれているとそんな感覚になってしまっていた。



「“朝の人”の家は知らないしな・・・。」



この前ケガをしていたオジサンは、私と同じ登校班だった子のお父さんだった。
家族でもよくうちに食べに来ていたし近所に住んでいたからよく街でも会っていた。
だから家まで行ってしまったけれど、“朝の人”とはそこまでの関係ではない。



そう自分に言い聞かせていた時、お店の電話が鳴った。
この時間に鳴ったのは初めてなのでビクッとなりながらも受話器を取る。



「はい!朝1番です!」



元気に声を出すと電話の向こう側で低い笑い声が聞こえてきた。
その笑い声を聞いて・・・



「もしかしてオジサン!?・・・あ、“朝の人”?」



『朝の人って止めろよ、朝人だよ、朝人。』



小さく笑いながらオジサンがそう言っているけれど、その声は元気がなかった。



「今日どうしたの?大丈夫?」



『大丈夫じゃない・・・。』



大丈夫ではないことを素直に認めたオジサンには自然と笑ってしまい、聞いてみた。



「体調悪いの?熱?」



『うん、熱。』



「何度あるの?」



『・・・37.2度。』



それには大笑いをしてしまう。



「微熱じゃん!大丈夫そうで良かった!」



『いや、熱測る前は“これは38度超えた”と思いながら測ったんだよ・・・。
それくらい辛い・・・。』



「よっわ!!!身体よっわ!!!」



『弱くねーから!!
普段風邪もほとんど引いたことねーし、移ったこともねーし!!』



37.2度で辛いと言っているオジサンのそんな言い訳にはまた笑ってしまう。



「出前しようか?
そのつもりで電話掛けてきたでしょ?」



『・・・頭の強いお嬢さんで素晴らしく良いガキですね。』



「どんな悪口!?」



大笑いしながらも住所を聞くと・・・



「うちの斜め前のアパートじゃん!!
歩いて来られるじゃん!!」



『いや、マジで無理。
体感的には38.7度。』



そんな答えにはまた大笑いをしてしまい、何度も頷きながら声を出した。



「今日の毎度ありがとうございますの分を貰ってるので、出前届けます!」
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