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オジサンとそんな口喧嘩を繰り広げ疲れてきた時、オジサンはやっと魚定食を完食した。



それを見て魚定食のトレーをすぐに持ち上げ調理場へと歩いた。



「死ぬほど味の濃い料理を出してしまい申し訳ありませんでした。
お代は結構ですので。」



オジサンのことを見ることなく洗い物を始めると、カウンター越しにオジサンが立ったのが見えた。



そして・・・



オジサンがカウンターに500円玉を置いたのも視界に入った。



「お代は結構ですから。」



「そんなわけにいかねーから。」



「お客さんを殺すところでしたし。」



「本当に死ぬかと思った!!」



オジサンがまたそう言って、でも楽しそうに笑っている。
その楽しそうな感じに私も自然と笑ってしまいカウンターの前まで歩いた。



それからオジサンが置いた500円玉を手に取り強く握り締めた。



「明日の毎度ありがとうございます、の分。」



「なんだよそれ?」



オジサンが楽しそうに笑い続けたまま私のことを真っ直ぐと見てくる。
そんなオジサンのことを真っ直ぐと見詰め返しながら口を開いた。



「明日も絶対に来て。
明日はちゃんとした料理を出すから。
これは今日の分じゃなくて明日の分のお代として先に貰っておく。」



「なるほどな、名案だな。」



オジサンが納得したような顔で深く頷き、私の顔をマジマジと見てきた。



「その可愛い顔で大人顔負けの強さを持ってるな。
気持ちの強さだけじゃなくて頭の強さもある。」



「え、それ悪口?」



「悪口じゃねーだろ!!
良い子なうえにそんな強さまであるガキなんて最強だろ!!
大人の俺には勝ち目ねーじゃん!!」



オジサンが楽しそうに笑い、お店にある時計を見た。



「よし、俺も仕事行ってくるか。」



「うん、行って。」



「そこは行ってらっしゃいだろ。」



「行ってらっしゃいは、安全に出掛けて無事に帰って来てくださいって意味らしいから。
お客さんはうちに帰ってくるわけじゃないから、私からは“行ってきて”って言ってる。」



「俺には“行って”とか投げやりな感じ?」



「たった数分でこんなに喧嘩したから、オジサンはお客さんの枠を越えた。」



「なるほどな!」



オジサンは楽しそうに笑い、「行ってくる!」とお店を出ていった。



ボサボサ頭でスウェット姿のオジサンの後ろ姿を眺め、“気持ちが強い”と言われたことを思い出す。
誰かに対して気が強い一面を出したのは初めてかもしれないと思いながら。



でも・・・



「受験の時は何を言われても志望校を変えなかったから驚かれたか・・・。」



大人達の言うとおりに志望校のランクを下げず受験に失敗してしまった。
そのことを凄く後悔していたけれど、これまでの人生であそこまで頑張ったのは初めてだった。



あの時に志望校を変えていたらあそこまで頑張ったという事実はなかったかもしれない。



そう思えたことにあのオジサンには少しだけ感謝をした。
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