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「ねぇ、ああいう笑顔やめなって!!
他の人に見られたら危ないって!!」



今日の夜も当たり前かのように私の実家に帰って来た先生に注意をすると、カウンターに座る先生が何でもない顔で両手を合わせた。
私の作った簡単なご飯を目の前にして。



「みんな増田社長の方を見てただろ。
お前だけだよ、俺のことを冷めた目で見てきてた奴は。」



「それは見るでしょ、私の前で見せる姿とは別人過ぎるもん。」



「・・・うっっっっま!!!」



今日も私の作った簡単なご飯を大きく頷きながら食べ、そんなリアクションまで取っている。



「このくらいのご飯なら誰でも作れるだろうし、彼女にでも作って貰いなよ。」



「俺今彼女いねーから。」



「“彼女を切らしたことなんてない”を豪語してたのに、彼女も奥さんもいない寂しい34歳の老人になっちゃうなんてね。」



「別に寂しくなんてねーよ。」



「ガキの私の実家に毎日のように通う寂しい老人じゃん。」



「お前こそ寂しいガキだろ。
こんなボロボロの家に1人で住んでて。」



先生が“ボロボロ”と言いながらも嬉しそうな顔で周りを見渡した。
木造のボロボロの建物の中を。



先生が座る椅子からは時折“ギィ・・・ギィ・・・”と音が鳴っていて、その椅子も先生は嬉しそうに見下ろす。



「まさかこんなにボロボロの家にまだ住んでるとは思わなかった。」



「だから!!うちの会社で働き始めてからこっちに戻ってきたんだって!!
こっちからの方が会社に通いやすいし!!」



私が高校を卒業するまで住んでいたこの建物を私も見渡す。



2階建ての建物。
2階は居住部分だけど、1階はお店になっている。
そのお店のカウンター席に先生が座り、私は今日もカウンター越しに立っている。



私の実家は定食屋を営んでいた。
その定食屋に、先生は25歳から3年間毎日のように通っていた。
だから私は知っている。
先生が“オジサン”だった頃を知っている。



そして先生も知っている。
私が高校生の“ガキ”だった頃を知っている。



「俺は朝1番が大好きなんだよ。
だから千寿子がまたここに住んでて嬉しい。」



口の悪い先生がこんな言葉を嬉しそうな顔で言ってきて、私は何も言えなかった。
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