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「私に色々と文句を言ったりいらない助言をしてきたり、純愛ちゃんのことを想いながらも純愛ちゃんの可能性をぶっ潰そうとしてくる。」
「俺も全く同感。
まあ・・・兄として気持ちは分からなくはないけどね。」
「でも、今はあの“残念な兄”と離れた方が良い。
あの人は純愛ちゃんのことを“残念にしてくる兄”だから。」
「俺の意見も右に同じく。」
砂川さんがそう言った後、やけに優しい顔で私に笑いかけてきた。
「純愛ちゃんのお世話については俺が何から何までするよ。
俺は純愛ちゃんのことを猫かわいがりするから、純愛ちゃんはそのネコのことを猫かわいがりしてあげて。」
そんな言葉には反論したい気持ちになるけれど、私の足元に気配を感じて下を見た。
そしたら・・・
可哀想なくらい不細工な子猫が恐る恐るバッグから身体を出そうとしている所で。
こんなに酷い見た目で怯えながらも新しい世界に足を踏み出そうとしている。
それを見て・・・
何でか号泣した。
そして、“可愛い”とも思った。
クロ以上に可愛いと思えるネコなんていないと思っていたけれど、クロに抱いた母性と同じくらいの母性がこの胸に沸き上がってくる。
砂川さんのボランティアにより可哀想な私と可哀想なネコがこの家にいる。
必死にバッグから出て来たネコは私の足をクンクンと嗅いでいて、それからゆっくりと私のことを見上げた。
鋭い目が私のことを睨み付けるけれどやっぱり“可愛い”と思った。
私の足に身体を擦り付けてくるネコを見下ろして“凄く可愛い”と思った。
「白いネコよりもそのネコの方が人懐っこいらしく、写真よりも一緒の空間にいた方がそのネコの可愛さが分かると言っていたよ。」
砂川さんが嬉しそうにそう言って・・・
「ちなみに、羽鳥さんからはそのネコの名前に“クロまんじゅう”はどうかと言われたよ。
検討すると答えたけど俺は嫌なんだけど。」
私の足に絡まり続けるネコに吸い寄せられるようにしゃがみ、ネコの喉元を優しく撫でる。
それから遠慮することなく口にした。
「あの人、バカじゃないの?」
吐き捨てるように言うと、砂川さんが真剣な声で返してきた。
「俺もそう思った。
白いネコは“モチ丸”にすると言っているのを見た時、“バカなのかな”と本気で思ったよ。」
「この子には可愛い名前を付ける。」
気持ち良さそうに喉を鳴らしながら私に撫でられるネコから視線を移し、佐伯さんと砂川さんのことを見た。
「女の子だから可愛い名前を付けたい。」
こんな見た目の私はお母さんの見た目とよく似ていて。
私に“純愛”と名付けたお母さんに昔から何度も何度も文句を言っていた。
その度にお母さんから返ってきた言葉。
“女の子だから可愛い名前を付けたいと思った。”
今ならお母さんの気持ちが分かる。
可愛い我が子に、可愛い娘に、可愛い名前を付けたいと思ったお母さんの気持ちが。
「私が可愛い名前も付けてあげるしお世話もちゃんとしてあげる。
いっぱい可愛がってあげるから大丈夫だからね。」
いつか羽鳥さんがこの家に白いネコと一緒に移り住むその時までは、私が傍にいる。
私はいなくなるというその事実は必死に飲み込む。
「ゲージも餌もトイレも玄関に置いてくれたから取って来るよ。
そのネコを拾ったのがワンスターエージェントという会社の社長で、その社長がうちで必要な物を一色揃えてくれていて。
初めてお会いしたけどビックリしたよ。」
「会ったの・・・?今?ワンスターの社長に?」
「うん、口をセロハンテープで塞がれていてビックリした。」
それを聞き、私は玄関へとダッシュをした。
勢い良く扉を開けたけれど当たり前のようにそこにはもう誰もいなくて。
門の所まで来たけれどやっぱり誰もいなくて。
「純愛ちゃん、どうしたの?」
私の後を追ってきた砂川さんが何でか少し怒った顔をしている。
「青さん・・・。」
「え?」
「ワンスターの社長、青さんなの。」
「ああ、星野青さんだよね。
知り合いなの?」
「うん、聞きたいことがあって。」
望の首にかけられている第2ボタンを思い浮かべながら呟いた時・・・
「この子、抱っこまでさせてくれるネコちゃんなんだけど~!!」
佐伯さんの嬉しそうな声が扉の方でして、砂川さんと一緒に振り向いた。
「早く4人でハナカイドウのお花見しよう♪」
ネコを抱き慣れているように見える佐伯さんに頷いた時、私の手を砂川さんに繋がれた。
普通に繋がれたのではなくいわゆる恋人繋ぎで。
何でか無言で私の手を引いてくる砂川さんの横顔はやっぱり怒っていて・・・
「このままずっと俺のトコロにいて欲しい。」
小さな声で口にしてきた嘘に私は何も言えなかった。
砂川さんの家の扉のトコロで佐伯さんとネコが私達のことを待っていて、“私だってずっと此処にいたい”と本心では思っていたから。
ずっと昔から、そう思っていたから。
自然と少しだけ強く握ってしまった砂川さんの手を、砂川さんはギュゥッと握り返してきた。
「俺も全く同感。
まあ・・・兄として気持ちは分からなくはないけどね。」
「でも、今はあの“残念な兄”と離れた方が良い。
あの人は純愛ちゃんのことを“残念にしてくる兄”だから。」
「俺の意見も右に同じく。」
砂川さんがそう言った後、やけに優しい顔で私に笑いかけてきた。
「純愛ちゃんのお世話については俺が何から何までするよ。
俺は純愛ちゃんのことを猫かわいがりするから、純愛ちゃんはそのネコのことを猫かわいがりしてあげて。」
そんな言葉には反論したい気持ちになるけれど、私の足元に気配を感じて下を見た。
そしたら・・・
可哀想なくらい不細工な子猫が恐る恐るバッグから身体を出そうとしている所で。
こんなに酷い見た目で怯えながらも新しい世界に足を踏み出そうとしている。
それを見て・・・
何でか号泣した。
そして、“可愛い”とも思った。
クロ以上に可愛いと思えるネコなんていないと思っていたけれど、クロに抱いた母性と同じくらいの母性がこの胸に沸き上がってくる。
砂川さんのボランティアにより可哀想な私と可哀想なネコがこの家にいる。
必死にバッグから出て来たネコは私の足をクンクンと嗅いでいて、それからゆっくりと私のことを見上げた。
鋭い目が私のことを睨み付けるけれどやっぱり“可愛い”と思った。
私の足に身体を擦り付けてくるネコを見下ろして“凄く可愛い”と思った。
「白いネコよりもそのネコの方が人懐っこいらしく、写真よりも一緒の空間にいた方がそのネコの可愛さが分かると言っていたよ。」
砂川さんが嬉しそうにそう言って・・・
「ちなみに、羽鳥さんからはそのネコの名前に“クロまんじゅう”はどうかと言われたよ。
検討すると答えたけど俺は嫌なんだけど。」
私の足に絡まり続けるネコに吸い寄せられるようにしゃがみ、ネコの喉元を優しく撫でる。
それから遠慮することなく口にした。
「あの人、バカじゃないの?」
吐き捨てるように言うと、砂川さんが真剣な声で返してきた。
「俺もそう思った。
白いネコは“モチ丸”にすると言っているのを見た時、“バカなのかな”と本気で思ったよ。」
「この子には可愛い名前を付ける。」
気持ち良さそうに喉を鳴らしながら私に撫でられるネコから視線を移し、佐伯さんと砂川さんのことを見た。
「女の子だから可愛い名前を付けたい。」
こんな見た目の私はお母さんの見た目とよく似ていて。
私に“純愛”と名付けたお母さんに昔から何度も何度も文句を言っていた。
その度にお母さんから返ってきた言葉。
“女の子だから可愛い名前を付けたいと思った。”
今ならお母さんの気持ちが分かる。
可愛い我が子に、可愛い娘に、可愛い名前を付けたいと思ったお母さんの気持ちが。
「私が可愛い名前も付けてあげるしお世話もちゃんとしてあげる。
いっぱい可愛がってあげるから大丈夫だからね。」
いつか羽鳥さんがこの家に白いネコと一緒に移り住むその時までは、私が傍にいる。
私はいなくなるというその事実は必死に飲み込む。
「ゲージも餌もトイレも玄関に置いてくれたから取って来るよ。
そのネコを拾ったのがワンスターエージェントという会社の社長で、その社長がうちで必要な物を一色揃えてくれていて。
初めてお会いしたけどビックリしたよ。」
「会ったの・・・?今?ワンスターの社長に?」
「うん、口をセロハンテープで塞がれていてビックリした。」
それを聞き、私は玄関へとダッシュをした。
勢い良く扉を開けたけれど当たり前のようにそこにはもう誰もいなくて。
門の所まで来たけれどやっぱり誰もいなくて。
「純愛ちゃん、どうしたの?」
私の後を追ってきた砂川さんが何でか少し怒った顔をしている。
「青さん・・・。」
「え?」
「ワンスターの社長、青さんなの。」
「ああ、星野青さんだよね。
知り合いなの?」
「うん、聞きたいことがあって。」
望の首にかけられている第2ボタンを思い浮かべながら呟いた時・・・
「この子、抱っこまでさせてくれるネコちゃんなんだけど~!!」
佐伯さんの嬉しそうな声が扉の方でして、砂川さんと一緒に振り向いた。
「早く4人でハナカイドウのお花見しよう♪」
ネコを抱き慣れているように見える佐伯さんに頷いた時、私の手を砂川さんに繋がれた。
普通に繋がれたのではなくいわゆる恋人繋ぎで。
何でか無言で私の手を引いてくる砂川さんの横顔はやっぱり怒っていて・・・
「このままずっと俺のトコロにいて欲しい。」
小さな声で口にしてきた嘘に私は何も言えなかった。
砂川さんの家の扉のトコロで佐伯さんとネコが私達のことを待っていて、“私だってずっと此処にいたい”と本心では思っていたから。
ずっと昔から、そう思っていたから。
自然と少しだけ強く握ってしまった砂川さんの手を、砂川さんはギュゥッと握り返してきた。
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