上 下
159 / 165
8

8-8

しおりを挟む
その顔には少し焦ってしまって・・・。



「別にあの人と何ともなってないから!!!」



さっきまで拓実に怒っていたのにそんな言い訳をしてしまって・・・みんなに笑われてしまった。



拓実が優しい顔で笑いながら、私の前に歩いてくる。
それを少し睨みながら見ていると拓実が面白そうな顔で私を見下ろす・・・。



「一緒に生きていきたい、響ちゃん。
俺は響ちゃんのこともお父さんの会社のことも、そして俺達の所に来てくれる子どものことも、全部抱えられるから。」



「そんなに・・・大丈夫なの・・・?」



「大丈夫。俺は歩ける。
いつだって響いているから。
ばあちゃんの声が俺の頭の中に響いているから。
ボロボロの穴だらけの靴もタバコの煙で塞がってる。
だから俺は歩ける。どこまでも。」



拓実がそう言って、片手で私の頬を包む。
そして親指で私の唇に触れた・・・。



「タバコを吸えばいい。
好きなだけタバコを吸えばいい。
どんなタバコの煙も俺が吸い込むから。」



そんなことを言われたら・・・



そんなことを言われたら・・・



頷くしかない・・・。



頷くしかないくらい、良い男だから・・・。



初めて恋をしそうになった80歳のヨボヨボの爺さんによく似た・・・



良い男だから・・・。



そんな男に私は頷いた・・・。



拓実に頷いた・・・。
しおりを挟む

処理中です...