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それから爺さんの荷物を爺さんと一緒に片付け・・・
起きてきたママと少し話をしてから、私は店に出勤をした。



お客様と同伴をし、20時に店に入ると・・・



クソ親父が店にいた。




“また夜に”
と爺さんに言っていたのに、そんな約束1つ守れないクソ親父。
たまに接待で来ることもあるけど、今日は来てはいけない。




クソ親父に何か言ってやろうと見てみると、




見てみると・・・




いた・・・




いた・・・





拓実が、いた・・・。





クソ親父と同じ席に・・・





ホステスの女の子達に囲まれて・・・






上等なスーツを着て・・・






やっぱり良い男の拓実がいた。







顔も性格も良さそうで、金も権力も持っていそうな良い男だった・・・。






でも、私は・・・






突き刺さるようは冷たい空気の中、上着も着ずに震えながらも真っ直ぐ立ち、真っ直ぐ歩く拓実の姿の方が好きだった・・・。






そんなことを思っていると、拓実が・・・






私を見た・・・。






でも、平然とした顔をしていた・・・。







私の心臓は跳び跳ねるように動き出したのに、拓実は平然とした顔をして私を見て・・・






ホステスの女の子から話し掛けられ、そっちを見ていた。






なんだか、泣きそうになった。
なんでクソ親父と一緒にいるのかは分からないけど、スーツを着ているし接待なのだろうと思う。





二度と会わないと思っていたけど、会ってしまった。
そして、幻滅したはず。
きっと、幻滅したはず。





そんなことを思ってしまった。
夜の女として誇りを持って働いていたのに。
拓実には知られたくなかったのだと分かった。





軽く思われてしまうと思ったのかもしれない。
ホステスとしての価値ではなく、女としての価値は軽くなってしまうと思ったのかもしれない。





私は重みがないから。
重みのない人生なうえに、女の価値まで軽いと思われてしまう。
そう思ったのかもしれない。






会いたくなかった。
もう、会いたくなかった。
知られたくなかった。
軽い女だと、拓実にだけは思われたくなかったから。
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