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面白そうに笑っている拓実の手を引き歩いていると、夜の真冬の澄んだ空気・・・。
その空気はやけにピリッと冷たい空気で・・・。



「雪・・・。」



拓実が小さな声で呟き、黒い空を見上げた・・・。
それを見た後に私も黒い空を見上げる。



黒い黒い空から小さな雪がパラパラと降ってきて・・・その雪が、この街の光にキラキラと輝く。



「東京の雪が綺麗だと思ったのは初めてだ・・・。」



「東京の雪も良いものでしょ?
全然積もらないからありがたいし。」



「たまに積もると弱い街だよね。」



そんなことを言われ、それには笑ってしまう。
笑いながら拓実を見上げると、拓実も私を見下ろした。



「・・・マンション、ここら辺なんだよね?」



そう聞かれ心臓が跳び跳ねた。
拓実を見詰めながら小さく頷くと、拓実は優しい顔で笑い・・・



「じゃあ、ここでいいかな?
俺は電車だから。」



そんな返事に・・・泣きそうになった・・・。



震える両手を隠すように、慌てて拓実の手を離しポケットの中に入れる。



「分かった。じゃあ、また会社で。」



「今日はデートしてくれてありがとう。」



「うん。」



拓実が優しい笑顔で笑ったまま、背中を私に向けて歩き出した・・・。



その背中を見て・・・



その背中を見て・・・



追ってしまった・・・。



追ってしまった・・・。



だって、私は気付いているから・・・。



私にはない大切な物をこの人は持っていると、私は気付いているから・・・。
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