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「あんた、相川の人間だったんだ?
ずっと相川の血で続けていた会社なのにそれを止めて外部の人間が社長になったっていう。
“バカな会社だ”って父さんが言ってたよ。」



「それ以上におバカな本家の長女だったからな!!!
外部の人のお陰で業界3位から2位になれたよ!!」



相川さんは大笑いしながらそんなことを言って、どこか懐かしそうな顔をした。



「本家の長女があまりにもおバカだったから、ハトコの俺が結婚させられそうになった。
本家の長女の気持ちも俺の気持ちも“家”には関係ない。
個人の気持ちよりも“家”そのものの方が大切だからな。」



「それはそうだよ、分家の人間は本家を支える為だけにある。
だから俺は商店街じゃなくて増田の会社にいる必要がある。」



「でも、今の唯斗に何が出来る?」



相川さんではなく一平さんだった。



「初めて増田の家から出てみて唯斗には何が出来た?
増田財閥の増田唯斗ではなく、ただの増田唯斗で永家不動産で何が出来た?」



「永家不動産で何も出来なくたって問題ないよ。
俺は増田財閥の人間なんだから増田の会社で出来るようになっていけばいいんじゃないの?」



「俺も増田ホールディングスで働いて仕事は結構出来るようになったと思っていたけど、永家不動産で働いてみて凄く貴重な経験をしたよ。
もっと若いうちから増田の外に出たかったと思うくらい、それくらい貴重な経験だった。」



一平さんは増田ホールディングスのビルのキーカードを顔の前に持ち、唯斗君を見詰めた。



「このキーカードの重みを分からないうちは、増田の人間は出向からは戻れないはずだよ。」
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