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第5話 影の国
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不思議なことに、影が立っていた。アリスの影が立ち、歩き始めた。アリス本体は影の位置にいて、歩く影に従って動いていた。影が本体になり、本体が影になっていた。
歩く影は黒いが、立体感があり、目や口ができていた。アリスはカラーだが、平面の存在となり、口がきけなくなっていた。思うことはできても、しゃべることはできなかった。影が三次元で、アリスは二次元。アリスは実体化した影に従うだけの存在と化していた。
影はどんどん歩き続けた。どこへ行くのだろう、ボクはどうなってしまったんだろう、と不安になった。
世界がしだいに薄暗くなっていった。夜が来たからではない。風景から色彩がなくなっていき、すべてが灰色っぽくなっていったのだ。影にどこかちがう世界に連れ去られようとしている、とアリスは直感的に悟った。
やがて、世界は彩りを失い、完全に白と黒のモノトーンとなった。カラーなのは影の影だけという不思議な世界だった。言うなれば、影の国。
黒い太陽、灰色のグラデーションでできた街、グレイの人間。その人間の影だけがカラーだった。カラフルな影はどこか悲しそうに見えた。
アリスは影の国に連れてこられたのだ。そこは影が実体で、人間として暮らす世界だった。影の影はカラーだが、地面にへばりついた平面的存在だった。もちろんアリスも。
「やっと自由を手に入れた」とアリスの影が言った。
「きみが弱ったから、ぼくの力が強くなった。これからはぼくが主人で、きみはつき従うだけの存在だ。影の影だ」
影は嬉しそうだった。アリスは何も言い返せない。気弱だからではなく、物理的に声が出せなくなってしまったのだ。アリスは呆然とした。こんなことになってしまうなんて、想像もしていなかった。だが現実だった。
アリスは影の国にいた。
歩く影は黒いが、立体感があり、目や口ができていた。アリスはカラーだが、平面の存在となり、口がきけなくなっていた。思うことはできても、しゃべることはできなかった。影が三次元で、アリスは二次元。アリスは実体化した影に従うだけの存在と化していた。
影はどんどん歩き続けた。どこへ行くのだろう、ボクはどうなってしまったんだろう、と不安になった。
世界がしだいに薄暗くなっていった。夜が来たからではない。風景から色彩がなくなっていき、すべてが灰色っぽくなっていったのだ。影にどこかちがう世界に連れ去られようとしている、とアリスは直感的に悟った。
やがて、世界は彩りを失い、完全に白と黒のモノトーンとなった。カラーなのは影の影だけという不思議な世界だった。言うなれば、影の国。
黒い太陽、灰色のグラデーションでできた街、グレイの人間。その人間の影だけがカラーだった。カラフルな影はどこか悲しそうに見えた。
アリスは影の国に連れてこられたのだ。そこは影が実体で、人間として暮らす世界だった。影の影はカラーだが、地面にへばりついた平面的存在だった。もちろんアリスも。
「やっと自由を手に入れた」とアリスの影が言った。
「きみが弱ったから、ぼくの力が強くなった。これからはぼくが主人で、きみはつき従うだけの存在だ。影の影だ」
影は嬉しそうだった。アリスは何も言い返せない。気弱だからではなく、物理的に声が出せなくなってしまったのだ。アリスは呆然とした。こんなことになってしまうなんて、想像もしていなかった。だが現実だった。
アリスは影の国にいた。
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