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第15話 キャベツ姫

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 彼女はちょっとふてくされたように唇を結び、勝ち気そうなくっきりした目で関白を睨んでいた。小悪魔的魅力がぷくぷく湧き出るような激しく綺麗な女の子だった。
 肌の色が透けるように白く、月光を思わせた。
「びっじーん」
 ロンドンは思わずつぶやき、たっぷり十秒間見惚れてしまった。
 キャベツ姫、だ。
 関白にこれだけ無礼な口をきける女の子といえば、彼女以外に考えられない。絶世の美少女と噂され、月光姫との愛称を持つ。国民的アイドル歌手だっためのうと豚王の娘。母親似でよかったね、と国民の間で秘かにささやかれているキャベツ姫だ。
「聞こえないの、関白。あんたはもう寝てていいわ。席を譲って!」
 ひえー、こいつ怖ぇ、とロンドンはびびった。母親譲りのアイドル顔とアイドル声でこのセリフ!
「関白、おまえは客人のベッドメイクでもしておれ。マンモス肉は余らが食う」
 豚王まで一緒になって、また関白いじめが始まってしまった。
「たいした働きもないくせに食うもんだけ食おうなんてずうずうしいのよ」
「おまえの陰気に面は宴席にふさわしくない。失せろ!」
 関白は耐えられず、黄熱病に罹ったように震え、コレラ患者のような虚脱状態で席を立った。
 その夜、彼は自室で首を吊った。翌日その報告を受けた豚王とキャベツ姫は、顔色も変えなかったという。
 それはさておき。
 豚王、キャベツ姫、ロンドン、そしてもうひと言も口を聞かず震え上がっている右大臣と左大臣による宴席が再開された。
「うっわー、このお肉柔らかくて美味しいねー」
「はぐはぐ。うーむ、まさしく最後の珍味よ」
 無敵親子は何事もなかったようにマンモス肉をぱくついている。右大臣と左大臣は顔面を蒼白にして、ナイフとフォークを手に取ろうともしない。ロンドンは、これではいかんとキャベツ酒をあおり、会話と食事に参戦した。
「なにしろこいつは北極にほど近いシベリア北部で冷凍保存されていた逸品ですからね。シベリア公に無理を言って分けてもらったんですよ」
「おまえはシベリア公ともつきあいがあるのか。なかなかやるな」
「旅してたら、いつの間にか友達が増えてました。でも、陛下やシベリア公と知り合えたのは好運です」
「ふーん、旅人かぁ。退屈しないで済みそーね」
 キャベツ姫がしみじみと羨ましそうに言う。
「いいなぁ。ロンドンって、退屈知らずの男って感じするもんね」
「冒険談の十や二十ならいつでもして差し上げられますよ」
 美少女と話す機会に恵まれて、ロンドンはニコニコだ。彼はびびりの第一印象をコロッと忘れて、きれーだなぁと見惚れている。
「うーむ、冒険談、古生物学談! ロンドン、しばらく王城に逗留せい。余に話を聞かせよ!」
 豚王が空のジョッキを振り回しながら言った。
 そのひと言を待ってました!
 ロンドンは幸せな気分につつまれて、その夜正体を失うまで、豚王を相手にこれでもかこれでもかと格闘飲み比べデスマッチを続けた。
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