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花差凪いで
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花差湾は凪いでいた。
僕とカナはふたつの岬に挟まれた穏やかな海を見つめていた。
この湾は恋人の聖地と呼ばれている。
「離さないで」という崇高な願いに繋がる地名は、まさに聖地と呼ばれるにふさわしい。
特に凪の日にカップルでここを訪れると、ふたりはけっして別れないと言われている。
「凪いでる」とカナが言った。
「凪いでるね」と僕は答えた。
それは、けっして別れないという決意表明も同然の台詞だった。
ふたつの岬の名は、男神岬と女神岬。そこには男神神社と女神神社がある。
「お参りしよう」
「お参りしましょう」
どちらともなく言い合って、僕らはふたつの岬の神社を巡った。
僕は男神神社で縁結びのお守りを買った。
カナは女神神社で子宝祈願のお守りを手に入れた。
そして、ふたつの岬を繋ぐ砂浜で、それぞれのお守りを交換し合った。
こうすることにより、しあわせな結婚生活が送れることになるらしい。
いつの間にか、そんな神話がネットで語られていた。
僕は花差市生まれだが、子どもの頃には、そんな話はなかった。
知らないうちに、神話ができあがっていた。
誰が言い出したのか知らない。
カナが嬉し涙を流してお守りを握りしめている。
それだけでいい。
神話をつくった人に感謝を捧げたい。
花差湾の水は清らかだ。
エメラルドグリーンとは、この海の色を表すためにあるとまで思ってしまう。
岬巡りをする前は天高くにあった太陽が、いまは花差湾の水平線に近づいている。
雲ひとつない。
海面はまだ凪いでいる。
奇跡のような日だ。
僕とカナは手を繋いで、夕陽を見つめていた。
僕たちのようなカップルは砂浜にたくさんいて、みんなにじむような太陽を見ている。
きのう、僕はカナにプロポーズした。
彼女はこくんとうなずいて、「明日、花差湾へ行こう」と答えた。
そして今日、花差湾は完璧に凪いでいた。
僕はしあわせだった。
カナは泣きながら微笑んでいる。
彼女は東京出身だが、この美しい海を心の底から愛していて、花差市で暮らしたいと言っている。
僕たちは花差湾の夕陽を黙って眺めつづけた。
僕とカナはふたつの岬に挟まれた穏やかな海を見つめていた。
この湾は恋人の聖地と呼ばれている。
「離さないで」という崇高な願いに繋がる地名は、まさに聖地と呼ばれるにふさわしい。
特に凪の日にカップルでここを訪れると、ふたりはけっして別れないと言われている。
「凪いでる」とカナが言った。
「凪いでるね」と僕は答えた。
それは、けっして別れないという決意表明も同然の台詞だった。
ふたつの岬の名は、男神岬と女神岬。そこには男神神社と女神神社がある。
「お参りしよう」
「お参りしましょう」
どちらともなく言い合って、僕らはふたつの岬の神社を巡った。
僕は男神神社で縁結びのお守りを買った。
カナは女神神社で子宝祈願のお守りを手に入れた。
そして、ふたつの岬を繋ぐ砂浜で、それぞれのお守りを交換し合った。
こうすることにより、しあわせな結婚生活が送れることになるらしい。
いつの間にか、そんな神話がネットで語られていた。
僕は花差市生まれだが、子どもの頃には、そんな話はなかった。
知らないうちに、神話ができあがっていた。
誰が言い出したのか知らない。
カナが嬉し涙を流してお守りを握りしめている。
それだけでいい。
神話をつくった人に感謝を捧げたい。
花差湾の水は清らかだ。
エメラルドグリーンとは、この海の色を表すためにあるとまで思ってしまう。
岬巡りをする前は天高くにあった太陽が、いまは花差湾の水平線に近づいている。
雲ひとつない。
海面はまだ凪いでいる。
奇跡のような日だ。
僕とカナは手を繋いで、夕陽を見つめていた。
僕たちのようなカップルは砂浜にたくさんいて、みんなにじむような太陽を見ている。
きのう、僕はカナにプロポーズした。
彼女はこくんとうなずいて、「明日、花差湾へ行こう」と答えた。
そして今日、花差湾は完璧に凪いでいた。
僕はしあわせだった。
カナは泣きながら微笑んでいる。
彼女は東京出身だが、この美しい海を心の底から愛していて、花差市で暮らしたいと言っている。
僕たちは花差湾の夕陽を黙って眺めつづけた。
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