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海辺の花火大会

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 記憶というのは幻想のようなものだ。
 過去はその名のとおり過ぎ去ったものであり、記憶を例外として、もうどこにも存在していない。
 僕はかつて海辺で行われた花火大会に行き、夜空で炸裂する打ち上げ花火と海面に映る鮮やかな光を見て心を躍らせたことがある。
 素敵な花火大会だった。僕はまだ中学生で、親友とふたりで歓声をあげながら見物していた。花火は夜空をカラフルに彩り、それが穏やかな海に映り込み、緩やかな風が煙硝の匂いを浜辺に運んでいた。砂浜は花火を見上げる人々でいっぱいだった。空には三日月が浮かんでいた。
 僕は今では社会人になっていて、その後何回も別の花火大会を見たが、中学生のときに親友と見たその海辺の花火大会ほど心に残っているものはない。それは僕にとって特別な花火大会だった。父の仕事の都合で僕はもうすぐ引っ越しをしなければならなくて、転校し、親友ともなかなか会えなくなってしまうことがわかっていた。僕と親友は砂浜に並んで立ち、空を見上げて花火の美しさに感動しながら、同時に別れの悲しみに耐えていたのだ。
 夏休みの花火大会。それを見終わったとき、僕たちはまた会おうと約束して握手した。さよならと言い合って別れた。
 でもそれっきり彼とは会っていない。僕は引っ越し、親友とは何回か手紙のやりとりをしたが、それもいつしか途絶えてしまった。
 僕は夏の夜にふと、あの花火大会の記憶を呼び起こすことがある。炸裂する花火と別れ際の泣きそうになっている親友の顔をありありと思い出すことができる。
 でも懐かしいあのときに帰ることはできない。永遠に過ぎ去ってしまって、絶対にあの瞬間に戻ることはできないのだ。
 僕は先日、中学生のときのその親友に電話をしてみた。今どうしているだろうと気になって、思い切ってかけてみたのだ。でもその電話番号はすでに使われていなかった。
 僕はかつての親友の声を聴くことすらできないのだ。あの素晴らしい花火大会は幻のように消えて、僕の記憶の中にしか残っていない。
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