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浜辺の漂流亀と浦島小太郎

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 僕の名前は浦島小太郎。有名な浦島太郎の子孫だ。
 砂浜で散歩をしていたら、一匹の子亀が浜辺に打ち上げられていた。子どもたちがそれを見つけ、いじめ始めた。
 あ、これはやばいやつだ。ご先祖さまが遭遇したやつだ。かかわりあいになってはいけない、と思って腰が引けたが、子亀が「ぎゃあ、痛い、やめて、助けて」と泣きわめいてかわいそうだったので、仕方なく助けてやった。
「このご恩は忘れません」と言って、子亀は海へ帰っていった。いや、忘れていいから。
 数年後、僕が海岸で釣りをしていたとき、大きな亀がぷかりと水面に浮かびあがってきた。
「わたしは以前あなたに助けていただいた亀です。お礼にあなたを竜宮へお連れしたいのです」
 いよいよやばくなってきた。ご先祖さまは竜宮へ行って不幸になった。昔話の「浦島太郎」はアンハッピーエンドなのだ。
「いいよ、そんなに気を使わなくて」
「いやいや、それではわたしの気がすみません」
「本当にいいから。僕は別に竜宮とか興味ないから」
「遠慮しないでください。ぜひ来てくださいよぉ」
 僕は押しに弱い。亀が泣いて頼むので、仕方なく亀の背中に乗った。亀は海の底へ向かって潜っていった。海の中で窒息するのではないかと心配したけれど、不思議なお伽噺効果で息は苦しくなかった。僕は無事に竜宮に到着した。
 美しい乙姫さまに迎えられ、魚たちが踊り、美味しいごちそうがふるまわれて、僕は歓待された。これはまぁ楽しかった。ご先祖さまもさぞかし楽しかったことだろう。
 数日が経った。昔話のとおりだと、この間にウラシマ効果で僕がいた世界では数十年も経っているはずだ。僕が知っていた人はすべて死に絶えているのだ。そんなところへは帰りたくなかった。
 僕は何週間も何か月も竜宮に逗留した。元の世界ではすでに数百年も経っているかもしれない。下手をしたら、第三次世界大戦とかが起こって、人類は滅亡しているかもしれないな、と僕は想像した。
 帰りたくねー。
 さらに数年間、僕は竜宮に居続けた。乙姫さまや魚たちは僕を歓待し続けてくれたが、さすがにいつまでいるんだろうこの人、という目で見られるようになって、居づらくなくなってきた。
「あのう、浦島小太郎さん、そろそろ帰っていただけないでしょうか」とある日ついに乙姫さまから言われてしまった。
 仕方ない。帰るか。
「もし困ったことがあったら、この玉手箱を開けてください」
 乙姫さまは玉手箱を僕に渡した。キターッ。この玉手箱、究極にやばいブツなんだよなぁ。
 僕は亀の背中に乗って、海岸に戻った。海辺には人が誰もいなかった。
 風景が変わっていた。ポツポツと建っていた家々がなくなっている。遠くに見たことがないとてつもなく高い塔が立っていた。雲よりも高い。もしかしたら軌道エレベーターとかいうやつかもしれない。
 ここは未来だ。まちがいなくウラシマ効果が発生している。いったいどのくらい先の未来に来てしまったのか見当もつかない。
 亀が海に帰ったのを見届けてから、僕は玉手箱を見つめた。これはけっして開けてはいけないものだ。開けたら僕は本来の時間を支払わされて、白骨にでもなってしまうだろう。
 いらねー。
 海に放り投げて捨てた。
 それから僕は意を決して、未来世界へ向かって歩いていった。
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