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書けない!
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小説執筆……。
『発電天使』は森口くんに勧められた勢いと川尻唯ちゃん死去のショックがあって、なぜかすんなりと書けたけれど、別の作品を書こうとしても、全然書けなかった。
パソコンを前にして、呆然とし、時間が過ぎていくばかり。
どうやって処女作を書いたのか、よく思い出せない。
でもなんとか新作を書かないと、あの恥ずかしい作品が発表されることになってしまう。
困った……。
ハンバーガーショップで千歳とユナさんに事情を伝え、愚痴を聞いてもらった。
「困っちゃってるの。唐竹部長は小説を印刷した紙を返してくれないし、新作を提出しないと、本当に『発電天使』が部誌に載っちゃう。一生の恥だわ」
「人名は書き直したのよね?」
「うん。それはもちろん」
「それなら、載せたっていいんじゃない? 私はあの作品自体は別に嫌いではないよ」
「あたしも、なんかノリを感じて面白かった」
「えっ、そうかな?」
「人名を変えても、奏多ちゃんの欲望にまみれた作品であることに変わりはないけどね」
「でもまあいいんじゃない? 青春には黒歴史がつきものだよ」
「ぎゃーっ、だめじゃん!」
一瞬持ち上げられてから、突き落とされた。
「なんかいい知恵を貸してよ。そうだ、ユナさん賢そうだから、短編小説のひとつくらい書けるよね。お願い、代筆して!」
「嫌。そういう不正はきらい」
「そうだよねえ……。千歳、書いて!」
「あたしに小説なんて書けると思う?」
「あ、ごめん。無理だよねえ。『発電天使』未満の作品ができあがるのが関の山よね」
「失礼な! 書こうと思えば、あれ以上のものくらい軽く書けるわよ!」
「はいはい、どうもありがとう。謹んでお断りします」
「ぐはー、バカな奏多にバカにされた!」
「こら、わたしはバカじゃないわよ!」
「バカよ! 発電バカ、恋愛バカで、定期試験はいろいろと赤点ギリギリじゃないの!」
「くっ、それを言われると言い返せない……」
「言っておくけど、あたしは成績はいいのよ。ユナみたいに学年10位以内ほどじゃないけど、30位以内には入ってるから!」
「え、千歳って、そんなに成績いいの?」
「あたしをなんだと思ってたの?」
「成績低迷の仲間だとばかり……」
「あたしとユナは仲間だけど、奏多は仲間じゃない! 友だちだけど、頭がいいグループの仲間では断じてないの!」
「ガーン!」
人生で初めて、ガーンと声に出して言ってしまった。ショックが大きすぎる。
千歳とユナさんに相談しても、問題は解決できなかった。
森口くんと話しても、「別にそんなに悩まなくてもいいと思うよ。僕は『発電天使』が気に入っているんだ。もし新作が書けないなら、あの作品を部誌に載せればいいんじゃないかな」と言われてしまった。
気に入ってくれているのは嬉しいけれど、黒歴史をつくりたくないんだよお。
わたしはパソコンに向かって苦闘した。
吾輩は犬である。
名前はポチ。
なんと恋愛発電ができる犬なのだ。
メス犬を見ると、ババババババババババババババババと発電する。
毎日、百万人級発電ユニットをフルチャージ。
飼い主の懐を潤すばかりでなく、日本の電力供給に絶大な貢献をしている。
だが、吾輩はある日、某国に誘拐されてしまった。
飼い主と日本よ、すまん。
吾輩は餌をくれる者のために尽くす。
某国のために、恋愛発電をする日々がつづいている。
わたしは『吾輩は犬である』を千歳とユナさんに見せた。
「あはははは、傑作じゃん、奏多! ある種の才能があるよ!」
「奏多ちゃん、百万人級発電ユニットから発想転換できないの?」
千歳は腹をかかえて笑い転げ、ユナさんからは絶対零度の視線を向けられた。
9月30日のことだった。
『発電天使』が部誌に載ることが確定した。
『発電天使』は森口くんに勧められた勢いと川尻唯ちゃん死去のショックがあって、なぜかすんなりと書けたけれど、別の作品を書こうとしても、全然書けなかった。
パソコンを前にして、呆然とし、時間が過ぎていくばかり。
どうやって処女作を書いたのか、よく思い出せない。
でもなんとか新作を書かないと、あの恥ずかしい作品が発表されることになってしまう。
困った……。
ハンバーガーショップで千歳とユナさんに事情を伝え、愚痴を聞いてもらった。
「困っちゃってるの。唐竹部長は小説を印刷した紙を返してくれないし、新作を提出しないと、本当に『発電天使』が部誌に載っちゃう。一生の恥だわ」
「人名は書き直したのよね?」
「うん。それはもちろん」
「それなら、載せたっていいんじゃない? 私はあの作品自体は別に嫌いではないよ」
「あたしも、なんかノリを感じて面白かった」
「えっ、そうかな?」
「人名を変えても、奏多ちゃんの欲望にまみれた作品であることに変わりはないけどね」
「でもまあいいんじゃない? 青春には黒歴史がつきものだよ」
「ぎゃーっ、だめじゃん!」
一瞬持ち上げられてから、突き落とされた。
「なんかいい知恵を貸してよ。そうだ、ユナさん賢そうだから、短編小説のひとつくらい書けるよね。お願い、代筆して!」
「嫌。そういう不正はきらい」
「そうだよねえ……。千歳、書いて!」
「あたしに小説なんて書けると思う?」
「あ、ごめん。無理だよねえ。『発電天使』未満の作品ができあがるのが関の山よね」
「失礼な! 書こうと思えば、あれ以上のものくらい軽く書けるわよ!」
「はいはい、どうもありがとう。謹んでお断りします」
「ぐはー、バカな奏多にバカにされた!」
「こら、わたしはバカじゃないわよ!」
「バカよ! 発電バカ、恋愛バカで、定期試験はいろいろと赤点ギリギリじゃないの!」
「くっ、それを言われると言い返せない……」
「言っておくけど、あたしは成績はいいのよ。ユナみたいに学年10位以内ほどじゃないけど、30位以内には入ってるから!」
「え、千歳って、そんなに成績いいの?」
「あたしをなんだと思ってたの?」
「成績低迷の仲間だとばかり……」
「あたしとユナは仲間だけど、奏多は仲間じゃない! 友だちだけど、頭がいいグループの仲間では断じてないの!」
「ガーン!」
人生で初めて、ガーンと声に出して言ってしまった。ショックが大きすぎる。
千歳とユナさんに相談しても、問題は解決できなかった。
森口くんと話しても、「別にそんなに悩まなくてもいいと思うよ。僕は『発電天使』が気に入っているんだ。もし新作が書けないなら、あの作品を部誌に載せればいいんじゃないかな」と言われてしまった。
気に入ってくれているのは嬉しいけれど、黒歴史をつくりたくないんだよお。
わたしはパソコンに向かって苦闘した。
吾輩は犬である。
名前はポチ。
なんと恋愛発電ができる犬なのだ。
メス犬を見ると、ババババババババババババババババと発電する。
毎日、百万人級発電ユニットをフルチャージ。
飼い主の懐を潤すばかりでなく、日本の電力供給に絶大な貢献をしている。
だが、吾輩はある日、某国に誘拐されてしまった。
飼い主と日本よ、すまん。
吾輩は餌をくれる者のために尽くす。
某国のために、恋愛発電をする日々がつづいている。
わたしは『吾輩は犬である』を千歳とユナさんに見せた。
「あはははは、傑作じゃん、奏多! ある種の才能があるよ!」
「奏多ちゃん、百万人級発電ユニットから発想転換できないの?」
千歳は腹をかかえて笑い転げ、ユナさんからは絶対零度の視線を向けられた。
9月30日のことだった。
『発電天使』が部誌に載ることが確定した。
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