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恋愛発電推進派
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わたしの電気が売れた。
自宅のリビングで、わたしと両親は電力会社から届いたメールを見て、目を見張っていた。
十人級発電ユニット1か月分の売電金額は、平凡な高校生が稼いだお金としては破格だった。
「俺の初任給よりも多いぞ」とお父さんは驚いていた。
「すごいじゃない、こんなに儲けるなんて。しかもクリーンエネルギーで!」
環境問題に関心が深いお母さんは、手放しで喜んでいる。
わたしは地球環境とか気候変動とかに特に興味はない。ただ、自分の発電の評価額がメールにしっかりと表示されていることは、震えるほどうれしかった。
恋愛発電は正義。それが証明された気がした。
「奏多には報酬を渡さないといけないな。高校生のお小遣いとしては多すぎるから、この稼ぎを全額というわけにはいかないが、いくらかは渡そう」
「奏多の将来のために貯金もしましょう」
お父さんとお母さんはホクホク顔だ。
美容整形手術の話を切り出すならいまだ、と思った。
「お金はいらない。でも、もっと発電するために、やりたいことがあるの」
わたしは真剣な表情をつくって、お父さんとお母さんの目を交互に見た。
「もっと発電するため? なにをしたいの?」
「美容整形……」
「えっ?」
「整形手術をしたい。もっと可愛い顔になりたいの」
お父さんとお母さんは顔を見合わせた。
「えっと、奏多はいまでも、十分に可愛いと思うぞ」
「そんなおためごかしはいらないから!」
わたしは声を大きくした。
「わたしは連日十人級蓄電機をフルチャージしてる。もっと発電できる自信もある。お父さんとお母さんにこんなことを言うのは恥ずかしいけど、わたしは人並みはずれた恋愛脳なの。それがわたしの唯一の取り柄で、誇りでもある。これを最大限に活かしたいの。そのためにはいまの平凡な顔ではだめで、もっと美人になる必要があるのよ!」
お父さんはぽかんと口を開け、お母さんは口角を上げて微笑み、わたしをじっと見つめた。
「奏多、顔を可愛くしたら、もっと発電できるのね?」
「できると思う。男子に好きになってもらって、さらにたくさん発電できるよ!」
「いまでもかなり発電してるけど、もっとできるってことよね?」
「そうよ、もっとよ!」
もっと発電したい。もっと、もっと!
わたしはそう熱望していた。
恋愛発電は正義だ。そして、快感でもあった。
お母さんも発電は正義だと思っているようだ。にやりとして、歯が見えるほど笑っていた。
「お父さん、奏多の願いを叶えてやりましょうよ。美容整形手術、私の若い頃は抵抗があったけれど、いまでは気軽にやる人が増えているそうよ。女の子にとっては、可愛くなるって切実な願いだしね」
お母さんは味方になってくれた。でも、お父さんは渋い顔をしていた。
「いや、顔にメスを入れるのはどうかな。あまりいいことだとは思えない」
「いまは整形手術もナノマシンでやるんだよ。美容外科でサクッとできて、入院もせずにサクッと帰れる。メスなんて使わないよ!」
わたしはネットで仕入れた知識でお父さんを説得しようとした。
「しかし、その顔はお父さんとお母さんがおまえに贈ったものなんだよ」
お父さんにそう言われると、返す言葉がなかった。
「あなたの考えは古いわ」と言って、お母さんが首を振った。
「奏多には恋愛発電の才能があるの。その才能を存分に発揮させるのが、親のつとめよ。整形手術をさせてあげましょう。この際、発電ユニットも、十人級よりも上のものをつけてあげるべきよ」
お母さんがそう言うと、お父さんは唖然としていた。わたしは心の中で快哉を叫んでいた。
「このあいだ、十人級にしたばかりじゃないか」
「連日のフルチャージよ。奏多には十人級でも足りなかったの」
「じゃあ、美容整形と発電ユニットの両方の手術を受けさせるってことか」
「そうよ」
お母さんは毅然としていた。
正しい、と思った。
発電ユニット交換手術のことまでは考えていなかったけれど、可愛くなってもっと発電できるようになっても、蓄電池の容量がいまのままでは意味がない。
「お父さんお願い、手術を受けさせて! 整形手術後には、腫れや痛みを癒やすダウンタイムが必要なの。今度の夏休みが最高の機会なのよ!」
「私からもお願いするわ。手術は早ければ早いほどいい。奏多の若さを活かしてあげましょうよ。地球環境のためでもあるし、お金だってもっと稼げるのよ!」
わたしとお母さんは恋愛発電推進派だ。
お父さんはたじたじとなっていた。
「わかった、前向きに検討しよう。とにかく病院に行って、相談してみようか」
自宅のリビングで、わたしと両親は電力会社から届いたメールを見て、目を見張っていた。
十人級発電ユニット1か月分の売電金額は、平凡な高校生が稼いだお金としては破格だった。
「俺の初任給よりも多いぞ」とお父さんは驚いていた。
「すごいじゃない、こんなに儲けるなんて。しかもクリーンエネルギーで!」
環境問題に関心が深いお母さんは、手放しで喜んでいる。
わたしは地球環境とか気候変動とかに特に興味はない。ただ、自分の発電の評価額がメールにしっかりと表示されていることは、震えるほどうれしかった。
恋愛発電は正義。それが証明された気がした。
「奏多には報酬を渡さないといけないな。高校生のお小遣いとしては多すぎるから、この稼ぎを全額というわけにはいかないが、いくらかは渡そう」
「奏多の将来のために貯金もしましょう」
お父さんとお母さんはホクホク顔だ。
美容整形手術の話を切り出すならいまだ、と思った。
「お金はいらない。でも、もっと発電するために、やりたいことがあるの」
わたしは真剣な表情をつくって、お父さんとお母さんの目を交互に見た。
「もっと発電するため? なにをしたいの?」
「美容整形……」
「えっ?」
「整形手術をしたい。もっと可愛い顔になりたいの」
お父さんとお母さんは顔を見合わせた。
「えっと、奏多はいまでも、十分に可愛いと思うぞ」
「そんなおためごかしはいらないから!」
わたしは声を大きくした。
「わたしは連日十人級蓄電機をフルチャージしてる。もっと発電できる自信もある。お父さんとお母さんにこんなことを言うのは恥ずかしいけど、わたしは人並みはずれた恋愛脳なの。それがわたしの唯一の取り柄で、誇りでもある。これを最大限に活かしたいの。そのためにはいまの平凡な顔ではだめで、もっと美人になる必要があるのよ!」
お父さんはぽかんと口を開け、お母さんは口角を上げて微笑み、わたしをじっと見つめた。
「奏多、顔を可愛くしたら、もっと発電できるのね?」
「できると思う。男子に好きになってもらって、さらにたくさん発電できるよ!」
「いまでもかなり発電してるけど、もっとできるってことよね?」
「そうよ、もっとよ!」
もっと発電したい。もっと、もっと!
わたしはそう熱望していた。
恋愛発電は正義だ。そして、快感でもあった。
お母さんも発電は正義だと思っているようだ。にやりとして、歯が見えるほど笑っていた。
「お父さん、奏多の願いを叶えてやりましょうよ。美容整形手術、私の若い頃は抵抗があったけれど、いまでは気軽にやる人が増えているそうよ。女の子にとっては、可愛くなるって切実な願いだしね」
お母さんは味方になってくれた。でも、お父さんは渋い顔をしていた。
「いや、顔にメスを入れるのはどうかな。あまりいいことだとは思えない」
「いまは整形手術もナノマシンでやるんだよ。美容外科でサクッとできて、入院もせずにサクッと帰れる。メスなんて使わないよ!」
わたしはネットで仕入れた知識でお父さんを説得しようとした。
「しかし、その顔はお父さんとお母さんがおまえに贈ったものなんだよ」
お父さんにそう言われると、返す言葉がなかった。
「あなたの考えは古いわ」と言って、お母さんが首を振った。
「奏多には恋愛発電の才能があるの。その才能を存分に発揮させるのが、親のつとめよ。整形手術をさせてあげましょう。この際、発電ユニットも、十人級よりも上のものをつけてあげるべきよ」
お母さんがそう言うと、お父さんは唖然としていた。わたしは心の中で快哉を叫んでいた。
「このあいだ、十人級にしたばかりじゃないか」
「連日のフルチャージよ。奏多には十人級でも足りなかったの」
「じゃあ、美容整形と発電ユニットの両方の手術を受けさせるってことか」
「そうよ」
お母さんは毅然としていた。
正しい、と思った。
発電ユニット交換手術のことまでは考えていなかったけれど、可愛くなってもっと発電できるようになっても、蓄電池の容量がいまのままでは意味がない。
「お父さんお願い、手術を受けさせて! 整形手術後には、腫れや痛みを癒やすダウンタイムが必要なの。今度の夏休みが最高の機会なのよ!」
「私からもお願いするわ。手術は早ければ早いほどいい。奏多の若さを活かしてあげましょうよ。地球環境のためでもあるし、お金だってもっと稼げるのよ!」
わたしとお母さんは恋愛発電推進派だ。
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