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東京都
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わたしの名前は東京都。
とうきょうみやこと読む。
父は東京砂漠。
母は東京京子。結婚前の名前は京都京子。
名前に狂い、名前に呪われた一族に生まれた。
この名前のために、わたしの人生は狂わされた。
小学校時代から東京都、東京都とからかわれ、いじめられた。
わたしはなんとか不登校を避け、保健室に通って自習して卒業した。
中学校でも同じことを繰り返しそうになった。
東京都、東京都とからかわれる。
わたしは戦うことを決意した。
一番しつこくからかいつづけていた男の子を痛めつけてやろうと計画的復讐を練った。
犯罪にならないように、女のわたしが強靭そうな男子を倒すにはどうすればよいか、考えた。
友だちなんていない。
独力でやらなければならない。
思いつかなかったので、犯罪でもいいやと思い、殺すことにした。
わたしは彼の前の席に座っていた。
授業中に自分の椅子を持ち上げ、いじめっ子の頭に向かって振り下ろした。
狙いははずれ、椅子は彼の机に激突して砕けた。
殺害には失敗したが、クラスメイトはわたしを怖れ、からかわなくなった。
だが、孤立はますます深まった。
停学処分が明けて登校したわたしに話しかけてくる者は皆無。
からかわれることすらなくなり、わたしは完全に無視されたまま、中学校を卒業した。
わたしは高校ではどう振る舞うべきなのか考えつづけた。
なんとかぼっちから脱却し、人並みになれないものか。
わたしの容姿はすぐれていた。清楚な女を演じてみたらどうだろう。
高校では幼稚に東京都、東京都とからかってくる者はいなかった。
楚々と振る舞っていると、男子から告白された。
全然好きではなかったが、人生初の彼氏を得ようと思い、交際することにした。
手を握られたとき、嫌悪感が湧き上がってきたが、堪えて彼のなすがままにさせた。
チューしてきたときにも堪えようとはしたのだ。
しかし、舌が入ってきたので、我慢の限界を越えた。
ナメクジが入ってきたように感じたのだ。
わたしには普通の人たちのように男女交際を楽しむことはできない。キスなんて気持ち悪いだけということがよくわかった。
名前が変なだけではなく、わたしは心も変なのかもしれない。
わたしは彼を突き飛ばし、全力で逃げた。
そのようにしてわたしは人生初の彼氏を失った。
その男子はスクールカーストの上位にいた。
わたしの行動は学年中に知れ渡り、またも孤立するはめになった。
以後、わたしに告る男子はいなかった。
女子ともうまく付き合えず、高校でもぼっちで過ごした。
小・中・高とぼっちつづき。
わたしはなにをどうやって生きていけばいいのかわからなくて気が狂いそうだった。
高校3年、屋上で飛行機を見上げていたとき、ふいに天啓が降りてきた。
あれに乗れ。
あれに乗って出かけ、世界を見よ。
天はそう言っていた。
それは、わたしにとって唯一の生きていく指針となった。
わたしは世界を見なければならない。どうしても。
父・東京砂漠と交渉した。
世界旅行をしたいから、100万円をください。
馬鹿野郎、行きたいなら、自分で稼げとはねつけられた。
じゃあバイトする、と答えた。
「うちの会社で働くか?」
父は水道工事会社の経営者だった。
「うん。なにをすればいいの?」
「パソコンを使って図面を書け。歩合で給料を支払ってやる。資格を取れば、社員にしてやる。100万ぐらいすぐに稼げる。どうせなら、1千万ぐらい稼いで、悠々と世界を放浪してこい」
わたしは父の会社で働くことにした。
大学には行かなかった。
最初の1か月は図面の書き方がわからず、無給だった。
しかし、CADすなわちコンピュータ支援設計の使い方を飲み込んでから、わたしはガンガンと水道工事の案内図、平面図、配管図、立面図を書けるようになった。
3年間働いた後、4年目に給水装置工事主任技術者の資格試験を受けて合格し、わたしは父の会社の正社員になった。
市の水道局の窓口に通い、給水装置工事の申請をバンバンと通した。
5年間働いて貯金が1千万円になり、わたしは父に退職届を提出した。
父はそのころ、わたしが働き始めた動機をすっかり忘れていた。
戦力となっていたわたしがいなくなると困るので、「馬鹿野郎!」と怒鳴られた。
馬鹿はそっちだと言い返した。
「退職金は出さねえからな」
「いらないわよ」
天啓はまだわたしの脳内で鳴り響いていた。
世界を見よ。
わたしは出社をやめ、自分の部屋に引きこもって、世界放浪をどのようにするか考えた。
家庭内でもわたしと父は不仲になり、一切口をきかなくなった。
母・東京京子もその名前のせいで地獄を見ながら生きてきたので、父娘の不仲など我関せずだった。
わたしは考えるのが苦手だった。
旅行ガイドブック「地球の歩き方」に載っていた格安航空券を扱っている旅行会社に行き、世界を放浪したいのだが、どのようにすればよいか教えてくださいと率直に訊いた。
「放浪の方法なんて、人それぞれです」
「はあ」
「女性のひとり旅は危険ですよ」
「危険は承知です」
天啓に従わない方が危険だった。
生きる指針を失ってしまう。
「最初に行くべき国だけでも教えてください。どこでもいいです」
「私が最初に訪れた国はハンガリーでした。親日的でやさしい人々が住んでいる国です。ブダペストの鎖橋の夜景はこの上なく美しい」
わたしはその場で東京国際空港からブダペスト空港へ行ける片道チケットを購入した。
価格は72,000円。旅費残金9,928,000円。
とうきょうみやこと読む。
父は東京砂漠。
母は東京京子。結婚前の名前は京都京子。
名前に狂い、名前に呪われた一族に生まれた。
この名前のために、わたしの人生は狂わされた。
小学校時代から東京都、東京都とからかわれ、いじめられた。
わたしはなんとか不登校を避け、保健室に通って自習して卒業した。
中学校でも同じことを繰り返しそうになった。
東京都、東京都とからかわれる。
わたしは戦うことを決意した。
一番しつこくからかいつづけていた男の子を痛めつけてやろうと計画的復讐を練った。
犯罪にならないように、女のわたしが強靭そうな男子を倒すにはどうすればよいか、考えた。
友だちなんていない。
独力でやらなければならない。
思いつかなかったので、犯罪でもいいやと思い、殺すことにした。
わたしは彼の前の席に座っていた。
授業中に自分の椅子を持ち上げ、いじめっ子の頭に向かって振り下ろした。
狙いははずれ、椅子は彼の机に激突して砕けた。
殺害には失敗したが、クラスメイトはわたしを怖れ、からかわなくなった。
だが、孤立はますます深まった。
停学処分が明けて登校したわたしに話しかけてくる者は皆無。
からかわれることすらなくなり、わたしは完全に無視されたまま、中学校を卒業した。
わたしは高校ではどう振る舞うべきなのか考えつづけた。
なんとかぼっちから脱却し、人並みになれないものか。
わたしの容姿はすぐれていた。清楚な女を演じてみたらどうだろう。
高校では幼稚に東京都、東京都とからかってくる者はいなかった。
楚々と振る舞っていると、男子から告白された。
全然好きではなかったが、人生初の彼氏を得ようと思い、交際することにした。
手を握られたとき、嫌悪感が湧き上がってきたが、堪えて彼のなすがままにさせた。
チューしてきたときにも堪えようとはしたのだ。
しかし、舌が入ってきたので、我慢の限界を越えた。
ナメクジが入ってきたように感じたのだ。
わたしには普通の人たちのように男女交際を楽しむことはできない。キスなんて気持ち悪いだけということがよくわかった。
名前が変なだけではなく、わたしは心も変なのかもしれない。
わたしは彼を突き飛ばし、全力で逃げた。
そのようにしてわたしは人生初の彼氏を失った。
その男子はスクールカーストの上位にいた。
わたしの行動は学年中に知れ渡り、またも孤立するはめになった。
以後、わたしに告る男子はいなかった。
女子ともうまく付き合えず、高校でもぼっちで過ごした。
小・中・高とぼっちつづき。
わたしはなにをどうやって生きていけばいいのかわからなくて気が狂いそうだった。
高校3年、屋上で飛行機を見上げていたとき、ふいに天啓が降りてきた。
あれに乗れ。
あれに乗って出かけ、世界を見よ。
天はそう言っていた。
それは、わたしにとって唯一の生きていく指針となった。
わたしは世界を見なければならない。どうしても。
父・東京砂漠と交渉した。
世界旅行をしたいから、100万円をください。
馬鹿野郎、行きたいなら、自分で稼げとはねつけられた。
じゃあバイトする、と答えた。
「うちの会社で働くか?」
父は水道工事会社の経営者だった。
「うん。なにをすればいいの?」
「パソコンを使って図面を書け。歩合で給料を支払ってやる。資格を取れば、社員にしてやる。100万ぐらいすぐに稼げる。どうせなら、1千万ぐらい稼いで、悠々と世界を放浪してこい」
わたしは父の会社で働くことにした。
大学には行かなかった。
最初の1か月は図面の書き方がわからず、無給だった。
しかし、CADすなわちコンピュータ支援設計の使い方を飲み込んでから、わたしはガンガンと水道工事の案内図、平面図、配管図、立面図を書けるようになった。
3年間働いた後、4年目に給水装置工事主任技術者の資格試験を受けて合格し、わたしは父の会社の正社員になった。
市の水道局の窓口に通い、給水装置工事の申請をバンバンと通した。
5年間働いて貯金が1千万円になり、わたしは父に退職届を提出した。
父はそのころ、わたしが働き始めた動機をすっかり忘れていた。
戦力となっていたわたしがいなくなると困るので、「馬鹿野郎!」と怒鳴られた。
馬鹿はそっちだと言い返した。
「退職金は出さねえからな」
「いらないわよ」
天啓はまだわたしの脳内で鳴り響いていた。
世界を見よ。
わたしは出社をやめ、自分の部屋に引きこもって、世界放浪をどのようにするか考えた。
家庭内でもわたしと父は不仲になり、一切口をきかなくなった。
母・東京京子もその名前のせいで地獄を見ながら生きてきたので、父娘の不仲など我関せずだった。
わたしは考えるのが苦手だった。
旅行ガイドブック「地球の歩き方」に載っていた格安航空券を扱っている旅行会社に行き、世界を放浪したいのだが、どのようにすればよいか教えてくださいと率直に訊いた。
「放浪の方法なんて、人それぞれです」
「はあ」
「女性のひとり旅は危険ですよ」
「危険は承知です」
天啓に従わない方が危険だった。
生きる指針を失ってしまう。
「最初に行くべき国だけでも教えてください。どこでもいいです」
「私が最初に訪れた国はハンガリーでした。親日的でやさしい人々が住んでいる国です。ブダペストの鎖橋の夜景はこの上なく美しい」
わたしはその場で東京国際空港からブダペスト空港へ行ける片道チケットを購入した。
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