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文芸部のミーティング
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水曜日の昼休み、いつものように樹子とみらいが学食でかけそばとカレーを食べていると、周りにたくさんの生徒が集まってきた。
「園田さんたち、面白いこと始めたんだね! ライブよかったよ!」
「高瀬、凄くいい声だったんだな!」
「今度はどこで演奏するの?」
樹子とみらいは顔を見合わせて笑った。
「今度の土曜日に、双子玉川駅前でやるつもりよ」
「暇だったら、聴きに行くね!」
「ありがとう」
滑り出しは好調だ、と樹子は思った。
放課後は文芸部室に行った。
「今日はミーティングをするよ」と友永が言った。
「10月の文化祭で部誌を発行する。部員全員に何かしら書いてもらうって、言っておいたよね」
「はい!」とみらいが元気に答えた。
「もうすぐ夏休みだ。休み中に書いてね。9月になってから慌てて書いたんじゃ、いいものは書けないから」
「はい!」とみらいが答える。他の部員は黙って聞いていた。
「いまの時点で、何を書こうと思っているか、聞いておきたい。小島くんはどうだい?」
「小生は詩を書きます。夏休みにひとり旅にでも行って、書きたいと思っています」
「うん、いいね。どこへ行くつもりなんだい?」
「はっきりとは決めていません。たぶん北へ、あてどもなくふらふらと」
「キザなやつ……」と樹子が嫌そうにつぶやいた。
「高瀬さんは何を書くつもりかな?」
「わたしは短編小説を書くつもりです。SFかファンタジー!」
「うん。きみなら書けるだろうね。心配はしていない。さて、棚田くんはどうかな? 以前はエッセイを書くとか言っていたね」
「はあ……。部長、どうしても書かなくてはならないんですか?」
「書かなくてはならないよ!」
「夏休みの宿題みたいですね。わかりました。僕もどこかへ旅行にでも行って、適当に書きます」
「適当ではなく、真剣に書きたまえ!」
「はい……」
良彦はめんどうくさそうだった。
「さて、ヨイチくんはどうかな?」
「長編冒険小説を書きますよ! 船戸与一の小説みたいなやつを!」
「いや、長編は載せられないから! 短編冒険小説を書いてくれ……」
「はい、なんか適当に書きますよ!」
「だから、適当はだめ! 精魂込めて書いてくれ!」
「ラジャー!」
ヨイチは微笑み、友永は苦笑した。
「園田さんは?」
「若草物語について書こうと思っています」
「オルコットの小説の評論かい?」
「ちがいますよ。若草物語というのは、あたしたちのバンドです。バンドの活動記録みたいなものを書こうかなって」
「それ、文芸じゃないよね?」
「文芸ですよ。私小説みたいなものかな?」
「うぐ……。ちゃんと書いてくれよ!」
「はい!」
「ふう……。ミーティングは終わりだ。夏休み明けには、第1稿を見せてもらうからね。頼んだよ!」
「はい!」
「お任せください」
しっかりと答えたのは、みらいと小島だけだった。
樹子とヨイチと良彦は肩をすくめていた。
「園田さんたち、面白いこと始めたんだね! ライブよかったよ!」
「高瀬、凄くいい声だったんだな!」
「今度はどこで演奏するの?」
樹子とみらいは顔を見合わせて笑った。
「今度の土曜日に、双子玉川駅前でやるつもりよ」
「暇だったら、聴きに行くね!」
「ありがとう」
滑り出しは好調だ、と樹子は思った。
放課後は文芸部室に行った。
「今日はミーティングをするよ」と友永が言った。
「10月の文化祭で部誌を発行する。部員全員に何かしら書いてもらうって、言っておいたよね」
「はい!」とみらいが元気に答えた。
「もうすぐ夏休みだ。休み中に書いてね。9月になってから慌てて書いたんじゃ、いいものは書けないから」
「はい!」とみらいが答える。他の部員は黙って聞いていた。
「いまの時点で、何を書こうと思っているか、聞いておきたい。小島くんはどうだい?」
「小生は詩を書きます。夏休みにひとり旅にでも行って、書きたいと思っています」
「うん、いいね。どこへ行くつもりなんだい?」
「はっきりとは決めていません。たぶん北へ、あてどもなくふらふらと」
「キザなやつ……」と樹子が嫌そうにつぶやいた。
「高瀬さんは何を書くつもりかな?」
「わたしは短編小説を書くつもりです。SFかファンタジー!」
「うん。きみなら書けるだろうね。心配はしていない。さて、棚田くんはどうかな? 以前はエッセイを書くとか言っていたね」
「はあ……。部長、どうしても書かなくてはならないんですか?」
「書かなくてはならないよ!」
「夏休みの宿題みたいですね。わかりました。僕もどこかへ旅行にでも行って、適当に書きます」
「適当ではなく、真剣に書きたまえ!」
「はい……」
良彦はめんどうくさそうだった。
「さて、ヨイチくんはどうかな?」
「長編冒険小説を書きますよ! 船戸与一の小説みたいなやつを!」
「いや、長編は載せられないから! 短編冒険小説を書いてくれ……」
「はい、なんか適当に書きますよ!」
「だから、適当はだめ! 精魂込めて書いてくれ!」
「ラジャー!」
ヨイチは微笑み、友永は苦笑した。
「園田さんは?」
「若草物語について書こうと思っています」
「オルコットの小説の評論かい?」
「ちがいますよ。若草物語というのは、あたしたちのバンドです。バンドの活動記録みたいなものを書こうかなって」
「それ、文芸じゃないよね?」
「文芸ですよ。私小説みたいなものかな?」
「うぐ……。ちゃんと書いてくれよ!」
「はい!」
「ふう……。ミーティングは終わりだ。夏休み明けには、第1稿を見せてもらうからね。頼んだよ!」
「はい!」
「お任せください」
しっかりと答えたのは、みらいと小島だけだった。
樹子とヨイチと良彦は肩をすくめていた。
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