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高校生の戦い方
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土曜日の放課後、ラーメン店『大臣』で、みらいは大盛りを頼み、スープまで完食した。
樹子、ヨイチ、良彦はあぜんとしていた。大臣のラーメン大は、普通のラーメンの3倍の麺量がある。食べ切れる女の子は少ない。
「あーっ、美味しかった! 昨日の夜から何も食べていなかったんだ」
「何かあったの?」
「お母さんにYMOのカセットテープを焼かれたから、復讐に井上陽水のレコードを割ったの!」
みらいがあっけらかんと言い、3人は驚愕した。
「井上陽水のレコードって、まさか『氷の世界』か?」
「そうだよ」
「あの名盤を割ったのか……」
ヨイチは井上陽水や吉田拓郎のフォークソングを愛好している。
「場所を変えましょう。あたしの部屋へ行くわよ」
4人はラーメン店から樹子の部屋へ移動した。
「焼かれたのは何? また録音してあげるわ」
「『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が焼かれちゃったの! 樹子が録音してくれた大切なテープが! ごめんなさい、樹子!」
笑顔だったみらいの顔が歪み、涙がぽろぽろあふれ出した。
「あたしにあやまる必要はないわ。大変だったわね、未来人!」
樹子は早速YMOの録音を始めた。
「怒りのままに、歌詞をつくったの!」
みらいは『愛の火だるま』が書かれた紙をみんなに見せた。
3人は変な歌詞だ、と思ったが、そうは言わなかった。
「なかなかいい詞ね。さすが未来人だわ」
「この紙、借りていいか? 作曲してみるよ」
「『愛』は消しゴムで消された上に書かれているね。消す前はなんだったの?」
「『怒り』だよ!」
「そうか……。いい詞になってるね、みらいちゃん」
「ありがとう!」
みらいは泣き笑いしていた。
「で、未来人はいま、お母さんに対して、どう思っているの?」と樹子がみらいに発言をうながした。
「怒っているよ! 怒り心頭だよ! 許せない! わたしの小説ノートを焼かれたときより心が乱れたよ! 樹子の……樹子が録音してくれた大切なものが、や、や、焼かれたんだよ! 信じられないよ! ガスコンロでテープを焼いた! お母さんは頭がおかしいよ!」
「うん……」
「どうかしてる! 頭がおかしい! わたしはどうすればいいのかわからない。わかんないんだよ!」
「わかんなーい。わたしはなんにもわかんない♪」とヨイチが歌った。
みらいも『わかんない』を歌い出した。
樹子と良彦も歌った。
歌い終わると、みらいは静かになった。
「落ち着いたか?」
「落ち着いた……」
「未来人、おれの両親は、おれが幼いときに、ビル火災で焼け死んだ」
ヨイチが言い、みらいは呆然と彼を見た。
「だが、おれはしあわせだ。やさしいじいちゃんとばあちゃんがいるからな」
「うん。よかったね……」
「未来人、おまえのお母さんは、ごはんをつくってくれるか?」
「ごはんはつくってくれるよ……」
「掃除や洗濯をしてくれるか?」
「うん……」
「お小遣いはくれるか?」
「毎月1万円くれる。昼ごはん代とか諸々込みだけど……」
「そうか。ごはんを食べられない人より、おまえはしあわせだな?」
「うん……」
「おれが言いたいのはな、いろんな人がいるってことだ。おまえはいま自分のことを不幸だと思っているかもしれないし、実際にそうなのかもしれないが、ごはんを食べられて、友だちがいるなら、それで充分にしあわせだと思う人もいるだろうってことだ」
みらいはそのことについて考えた。
「うん。わたしは中学時代よりしあわせかも。やさしい友だちがいるから……」
「いいこと言うわね、ヨイチのくせに」
「惚れ直したか?」
「別に……」と言ったが、樹子の頬は紅潮していた。
「少し現実的な話をしようよ。みらいちゃん、今晩はおうちでごはんを食べられそうかい?」
「うん。食べてみる……」
「そうか。それなら、とりあえずは大丈夫だね?」
「うん」
「お母さんとはこれからどうする? 仲直りする?」
「わからない。でも、ちょっとは話すようにしてみようかな……?」
「できるなら、それがいいと思うよ。僕たちは高校生だ。保護者なしで生きてはいけない」
「頭がおかしいお母さんだけど、ごはんは作ってくれる。『いただきます』を言うようにするよ」
「『いただきます』は言え、未来人! 食べられるものに対して言え!」
「うん。『いただきます』を言わないなんて、わたしも頭がおかしくなっていたのかも……」
「未来人、辛かったら、あたしの家に来なさい。泊めてあげるから」
「ありがとう。わたし、もう少しがんばってみる」
みらいは小さな野の花のように微かに笑った。
樹子、ヨイチ、良彦はあぜんとしていた。大臣のラーメン大は、普通のラーメンの3倍の麺量がある。食べ切れる女の子は少ない。
「あーっ、美味しかった! 昨日の夜から何も食べていなかったんだ」
「何かあったの?」
「お母さんにYMOのカセットテープを焼かれたから、復讐に井上陽水のレコードを割ったの!」
みらいがあっけらかんと言い、3人は驚愕した。
「井上陽水のレコードって、まさか『氷の世界』か?」
「そうだよ」
「あの名盤を割ったのか……」
ヨイチは井上陽水や吉田拓郎のフォークソングを愛好している。
「場所を変えましょう。あたしの部屋へ行くわよ」
4人はラーメン店から樹子の部屋へ移動した。
「焼かれたのは何? また録音してあげるわ」
「『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が焼かれちゃったの! 樹子が録音してくれた大切なテープが! ごめんなさい、樹子!」
笑顔だったみらいの顔が歪み、涙がぽろぽろあふれ出した。
「あたしにあやまる必要はないわ。大変だったわね、未来人!」
樹子は早速YMOの録音を始めた。
「怒りのままに、歌詞をつくったの!」
みらいは『愛の火だるま』が書かれた紙をみんなに見せた。
3人は変な歌詞だ、と思ったが、そうは言わなかった。
「なかなかいい詞ね。さすが未来人だわ」
「この紙、借りていいか? 作曲してみるよ」
「『愛』は消しゴムで消された上に書かれているね。消す前はなんだったの?」
「『怒り』だよ!」
「そうか……。いい詞になってるね、みらいちゃん」
「ありがとう!」
みらいは泣き笑いしていた。
「で、未来人はいま、お母さんに対して、どう思っているの?」と樹子がみらいに発言をうながした。
「怒っているよ! 怒り心頭だよ! 許せない! わたしの小説ノートを焼かれたときより心が乱れたよ! 樹子の……樹子が録音してくれた大切なものが、や、や、焼かれたんだよ! 信じられないよ! ガスコンロでテープを焼いた! お母さんは頭がおかしいよ!」
「うん……」
「どうかしてる! 頭がおかしい! わたしはどうすればいいのかわからない。わかんないんだよ!」
「わかんなーい。わたしはなんにもわかんない♪」とヨイチが歌った。
みらいも『わかんない』を歌い出した。
樹子と良彦も歌った。
歌い終わると、みらいは静かになった。
「落ち着いたか?」
「落ち着いた……」
「未来人、おれの両親は、おれが幼いときに、ビル火災で焼け死んだ」
ヨイチが言い、みらいは呆然と彼を見た。
「だが、おれはしあわせだ。やさしいじいちゃんとばあちゃんがいるからな」
「うん。よかったね……」
「未来人、おまえのお母さんは、ごはんをつくってくれるか?」
「ごはんはつくってくれるよ……」
「掃除や洗濯をしてくれるか?」
「うん……」
「お小遣いはくれるか?」
「毎月1万円くれる。昼ごはん代とか諸々込みだけど……」
「そうか。ごはんを食べられない人より、おまえはしあわせだな?」
「うん……」
「おれが言いたいのはな、いろんな人がいるってことだ。おまえはいま自分のことを不幸だと思っているかもしれないし、実際にそうなのかもしれないが、ごはんを食べられて、友だちがいるなら、それで充分にしあわせだと思う人もいるだろうってことだ」
みらいはそのことについて考えた。
「うん。わたしは中学時代よりしあわせかも。やさしい友だちがいるから……」
「いいこと言うわね、ヨイチのくせに」
「惚れ直したか?」
「別に……」と言ったが、樹子の頬は紅潮していた。
「少し現実的な話をしようよ。みらいちゃん、今晩はおうちでごはんを食べられそうかい?」
「うん。食べてみる……」
「そうか。それなら、とりあえずは大丈夫だね?」
「うん」
「お母さんとはこれからどうする? 仲直りする?」
「わからない。でも、ちょっとは話すようにしてみようかな……?」
「できるなら、それがいいと思うよ。僕たちは高校生だ。保護者なしで生きてはいけない」
「頭がおかしいお母さんだけど、ごはんは作ってくれる。『いただきます』を言うようにするよ」
「『いただきます』は言え、未来人! 食べられるものに対して言え!」
「うん。『いただきます』を言わないなんて、わたしも頭がおかしくなっていたのかも……」
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